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119話目【獣人の里16 プリモハ調査隊の成果】


「どっせーい! どっせーい!」


獣人の里を囲む岩壁、その外側の森に響く木こりの音。

松本、バトー、ゴードンが木を切り倒している。


「そろそろ倒れますよー」

「いいぞーマツモトー」

「こっちもいいぞーやってくれー」

「どっせーい!」


メキメキと音を立て木が倒れた。


「ふぅ…そんなに大きな木じゃないのに結構時間掛かりましたね」


斧を地面に付きながら汗を拭う松本。


「仕方ねぇさ、刃がボロボロだからよ」

「まぁ必要なのは入口の応急分だけだ、多少刃が駄目でも我慢するしかないな」


斧の刃に不満があるポッポ村の3人、

少し離れた位置で木材運搬要員のマルメロ、カテリア、ニャリモヤが首を傾げている。


「(十分は早いと思うけど…)」

「(いつも薪を作るのに使ってるのに…)」

「(問題なく使えるのである…)」


普段から獣人達に愛用されている獣人の里唯一の斧、

そこまで状態は悪くないのだが、ポッポ村の木こり職人達はお気に召さないようだ。


「新し斧もポッポ村から仕入れた方がいいですよね」

「間違いねぇな、研石も必要だろ」

「ノコギリとノミもあった方がいいな」

「(斧、必要かなぁ…)」

「(私は食べのもの方が欲しいんだけどなぁ…)」

「(ノミ? ノミならたまに首の辺りにいるのである…)」


新長老メグロにより正式にポッポ村と交易することになった。

メグロが重要視したのは主に回復魔法と情勢、食べ物や物品はオマケである。

里が閉ざされたままでは魔王が襲来した際に里を守り切れないと判断したのだ。

決してカテリアの圧に屈した訳では無い、断じて無い。


「よし、枝も落としたし、もう少し細かくしよう、このままじゃ穴を通らないからな」

「俺がやるわ、マツモト斧貸してくれ、3等分くらいでいいか」

「はいゴードンさん」

「ありがとよ、2人共離れといてくれ、おらよ!」


斧を受け取り切り分けるゴードン。


「あと2~3本必要ですかね?」

「そうだな、1本はこの木にするか、太さも手頃だ」

「「「 (…仕事が早い) 」」」


というわけで、テキパキと木材確保。


「それじゃ運んでくれ」

『 はい~ 』


皆で居住区の入口まで運んで行く。



「魔族の襲撃も乗り切ったし、この応急修理が終わればようやくポッポ村に帰れるな」

「約2ヶ月ぶりの帰宅ですね」

「ゴードン、初めての外の世界はどうだったんだ?」

「どうと聞かれてもなぁ、これって普通か?」

「外界から切り離された獣人の里、そして魔族の襲撃…まぁまぁ普通じゃないですね」

「生活は自給自足でポッポ村と変わらんしな、でも魚が食べられたぞ」

「確かに魚は旨かったな、本格的に交易が始まればポッポ村の皆にも食べさせてやれる、

 母ちゃんとウインディも喜ぶぜ」

「いつ頃出発するんですか?」

「メグロさんの予定次第だな…」


雑談しながらモリモリ入口を修理する3人。

マルメロ達が目を細めている。


「(どんどん修理が進んで行くよ…)」

「(流石ポッポ村の木工職人達、もう終わっちゃいそう…)」

「(これで応急修理なのであるか…入口の柱に装飾まであるのである…)」


あっという間に作業完了。

応急修理された一部だけ妙に綺麗になった。





「これで、俺達がここでやるべきことは終わりだな」

「他の壊れた場所は道具が揃ってからということで。、

 そういえば、俺達の用事は済みましたけど、プリモハさん達の調査は何も見つからなかったですね」

「まぁ千年前の物が残ってる方が奇跡みてぇなもんだろ、なぁバトー?」

「いやそれがな、昨日池の周りを調べるって張り切ってたぞ、何か見つけたんじゃないのか?」

「「 へぇ~ 」」

「おーっほっほっほ! 今呼びましたか? 調査隊隊長である、この私を!」


松本達に声を掛けるプリモハ、ニャリシロに跨り自信に満ちた顔で高笑いしている。

その後ろで古びた箱を持つプリモハ調査隊。


「随分テンションが高いですねぇ、何か見つかったんですか?」

「おーっほっほっほ! 見つかりましたとも! いえ、見つけましたとも! 調査隊隊長である私が!」

「流石です、お嬢!」

「凄いです、お嬢!」

「最高です、お嬢!」

「おーっほっほっほ! よくてよ、よくてよぉぉぉ!」



テ、テンションたけぇぇぇ

ニャリシロさんが迷惑そうにしている…



「何が見つかったんですか?」

「…」


松本の質問に急に真顔になり口を閉ざすプリモハ。


「あの…プリモハさん? 一体何が…」

「…」



えぇ…動かなくなったんですけど…

さっきまでのテンションは何処行ったの!? 何処見てるの!?

ちょっと、怖いんですけどぉぉぉ!?



「あ、あの…プ…」

「……ください…」

「え?」

「もっと欲しがってください」

「え? それはどういう…」


真顔で囁くプリモハ、困惑する松本。


「(もっと欲しがって)」

「(食い気味に欲しがって)」

「(大げさに貪欲に欲しがって、マツモト君!)」


プリモハ調査隊が身振り手振りでアピールしている。



え、俺!? 俺がやるの?



周りを見渡す松本、皆が頷いている。


「す、凄いですねプリモハさん! 流石は調査隊隊長! 

 今まで誰も見つけられなかった千年前の何かを見つけるだなんて、俺尊敬しますよ!

 恰好いいなー、憧れちゃうなー、もし宜しければ俺にも見せて貰えませんか?」

「…そんなに見たいの?」

「も、勿論ですよー! それに、調査の成果を見たいのは俺だけじゃないですよ、ね、皆さん?」

『 見たいなー 』

「ほら! 皆プリモハさんの見つけた何かに興味深々なんですよ!

 勿体ぶらずに見せて下さいよー!」

「ふふふ…仕方ないですわね、さぁついて来なさい! この調査隊隊長に!

 広場でお披露目ですわよーおーっほっほっほ!」


高笑いするプリモハがニャリシロに運ばれて行く。

鼻高々のプリモハ、胸を張り過ぎてニャリシロのの背中に頭が付いている。

後に続くプリモハ調査隊が松本に握手をして通り過ぎていく。



なんだこの芝居…



困惑する一同が後に続いた。





広場に集まる獣人達、中心では鼻高々のプリモハ。


「はいお嬢」

「ありがとうラッチ」

「ふふふ、これが私達の調査の成果です!」

『 おぉ~ 』


ラッチから古びた箱を受け取り、台に置くプリモハ。

少し装飾の施された足の付いた箱、古びてはいるがしっかりと形を残している。


『 … 』

「あ、あの、プリモハさん、それでこれは?」


一同の気持ちをメグロが代弁する。


「大変古い箱です! 恐らく小物入れか何かでしょう」

「あの…中身にはいったい何が?」

「それは今から確認します、鍵が掛かっていて開けられませんでしたので」

「そ、そうですか…」



いや、中身確認してないんかーい!

空だったら凄く気まずいだろ!



「はいお嬢」

「ありがとうニコル」


ニコルから道具を受け取り箱の鍵穴をゴニョゴニョするプリモハ。

子供達は待ちきれずジャラシで遊んでいる。

暫くすると鍵が解除される音が聞こえた。


「ふぅ…腐食してたらどうしようかと思いましたが、何とか開きましたね」

「おーい、開いたみたいだそー」

『 はい~ 』


メグロの声掛けで子供達が集まって来る。



頼む! 何か凄いモノ入っていてくれ!

そうでないと気まず過ぎる!



「行きます!」

『 おぉ~ 』


蓋を開けるプリモハ、覗き込む獣人達、祈りながら恐る恐る片目で確認する松本。


『 こ、これは… 』


箱の中には1冊の本が入っていた。


「お嬢、これを」

「ありがとうジェリコ」


ジェリコから手袋を受け取り本に強化魔法を掛けるプリモハ。

箱から取り出し本のページを捲る。

覗き込む一同が眉間にしわを寄せている。



へぇ~、強化魔法で保護しているのか

古い紙なんてボロボロ崩れそうなものだけど、まるで新品みたいに扱えるんだな

どれどれ中身は…



 

【大きな白いニャリ族と出会った、名前はニャリシロというらしい。

 柔らかい感触に白くて美しい毛並み、そして大きな耳…

 獣人、特にニャリ族は至高の存在と言わざるを得ない。

 抱き着き顔を埋めて匂いを嗅ぐと思わず顔が緩んでしまう】


【ニャリモヤは最高だ、中でもお腹の肉が最高だ。

 タプタプと揺れ、ほんのり暖かい。

 全ての曲線が私の心を魅了する、今度背中に乗せて貰おう】





これは…、プリモハさんの日記か?

え? この人、自分の日記を入れた箱を持って来たの? 

そして皆を集めて発表したの? どういうこと?

そら皆、怪訝な顔するわ…

えぇ…ど、どうしよう…なんとか声掛けて空気を換えた方がいいのか?



「あ、あはは…プ、プリモハさん、全く冗談が好きなんですから~、

 こんな大掛かりなサプライズ用意するなんて、あれですよか? 

 獣人の人達を励まそうとしてくれたんですよね? その気持ちだけで皆十分ですよ…ん?」


一同の視線が松本に集まっている。



ん? なんだこの空気…ちょっと無理があったか?

どどどどうしよう、凄く気まずい…



「マツモト君?」

「え? あ、いや…あのそのプリモハさんの…その冗談なのかなぁ~って?」

「どういうこと?」


首を傾げるプリモハ、目が泳ぎ視点が定まらないマツモト。

変な汗がを搔いている。



えぇ!? なに? 俺が説明するの?

なにその不思議そうな顔? 俺の方が不思議なんですけど!? 

俺の方が質問したいんですけどぉぉぉ!?

嘘ぉぉぉ!? この空気を押し付けられたんですけどぉぉぉ!?



「い、いやほら、こことかね?

 大きな白いニャリ族と出会った、名前はニャリシロというらしい、とか…

 こっちには、ニャリモヤのお腹の肉が最高だ、って書いてあるから…

 プリモハさんの日記なのかなぁ~なんてあはは…」

『 … 』

「なんか照れるのである」


不思議そうに松本を見つめる一同、ニャリモヤがお腹の肉を擦っている。


「何言ってんだマツモト?」

「うぐっ!?」


ゴードンの言葉が松本に突き刺さる。



殺せ! いっそのこと一思いに殺せぇぇぇ!

誰か俺を殺してくれぇぇぇ! うわぁぁぁ!



視線に耐えられず身悶えする松本。

本を閉じてプリモハが口を開く、


「まぁ、この本の事はまた今度ということで、メグロ長老様」

「うむ、そうだな、皆解散だ」

『 はい~ 』


一同が解散し、身悶える松本とバトー、ゴードン。

プリモハとプリモハ調査隊だけが残った。


「マツモト君、ちょっとここ読んでくれる?」

「お嬢?」

「ジェリコ、ちょっと黙って」

「はいお嬢!」


不思議がるジェリコを制止し、先ほどの本を開き見せるプリモハ。


「うぅ…俺にこれ以上追い打ちをかけるんですか? 暫くそっとしておいてください…」

「そんなに卑屈にならなくても…少しでいいから」

「自分で書いたんだから、自分で読んだらいいじゃないですか…」


バトーに耳打ちするプリモハ


「マツモト、俺も気になる、読んでくれないか?」

「え? バトーさんもですか? え~と…

 【今日、ウルフ族の青年が大きな魚を捕って来てくれた。

  これからは魚が主食になりそうだ、暫くまともな物を食べていなかったので嬉しい。

  冬でも暖かく、人目も気にしなくてよい、重責から逃れ肩の荷が降りる、この島は最高だ】」

「なるほどな」

「全然わからねぇぞ? なにがなるほどなんだよバトー?」


頷くバトー、不思議がるゴードン。


「ジェリコ、ラッチ、ニコル」

「「「 はいお嬢! 」」」

「確保ー!」

「「「 はいお嬢! 」」」


プリモハの号令で松本を縛り上げ担ぐ3人。


「今後は何ですか? 俺は暫くそっとしておいて欲しいんですけど…」 

「マツモト君、これ読めるのよね?」

「? そりゃ読めますけど、何言ってるんですか?」

「これね、普通の人は読めないの、私も断片的にしか読めないの」

「…またそうやって騙そうとする、さっきの空気を俺に押し付けたの忘れて無いですからね!

 バトーさん何とか言ってくださいよ~」

「マツモト、俺も読めん」

「は?」

「俺も読めねぇぞマツモト」

「はぁ!? ゴードンさんも? どういうこと?」

「「 さぁ? 」」


首を傾げるバトーとゴードン。

ニッコリと微笑むプリモハ。


「というわけで、これからお話を聞かせて頂きます、連行よー!」

「「「 はいお嬢! 」」」

「えぇ!? ちょっとー!?」


困惑した松本はプリモハ達の小屋に連行された。

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