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118話目【獣人の里15 襲撃の翌日、骨の正体】

…天井…そうか俺、気を失って…

明るいってことは終わったってことだな

疲れたし、どれ、もう一眠り…



ぐぅ~…

松本の腹の虫が鳴いた。



腹、減ったな…

どれパンでも…いや、止めとくか

マナ切れで倒れたんだもんな、まだ回復してないかもしれん


ぐぅ~…

右手見つめる松本に腹の虫が催促している。



はいはい起きますよっと

何か食べ物を貰いに行くか



寝床からモソモソと起き上がる松本、広場を見渡すと日向で獣人達が伸びて寝ている。



平和だなぁ~

昨日の襲撃が嘘のようだ



「マツモトさん起きたんですね」

「無事で何よりである」


松本を見つけたマルメロとニャリモヤが声を掛けた。


「おかげさまで何とか無事でした、お腹すいたんですけど何か食べ物ないですかね?」

「それなら一緒に行きましょう、僕達も今から食べるので」

「魚があるのである」



広場の片隅で干物を焼く3人。

網の上には枝に刺された魚が3匹鎮座している。


「昨日の被害はどんな感じですか?」

「岩の影響で建物が少し壊れたのと、地形が少し変わった程度である」

「怪我人はプリモハさんが回復してくれました」

「なるほどなるほど、死傷者は無しと」

「焼けたのである」

「「「 いただきま~す 」」」


美味しそうな焼き目の付いた魚に齧り付く3人。


「まぁ怪我人と言っても殆どが軽傷で、上で戦ってた中で大怪我したのはニャリモヤくらいですね」

「ニャリモヤさんが大怪我したんですか?」

「子供達を庇った時に腹を刺されたのである、名誉の負傷である。」

「重症じゃないですか、内臓はマズいですよ」

「そうなんですよ、内臓って苦くて美味しくないんですよ、僕も苦手です」

「この苦みが旨いのである、マルメロももう少し年を取ると旨く感じるようになるのである」

「魚の内臓じゃないですよ」


焼き魚から内臓を除けるマルメロ、ニャリモヤと松本はそのまま食べている。


「ニャリモヤが刺されたのはお腹の脂肪です」

「脂肪…」

「心配して飛んできたプリモハさんも思わず笑ってましたね」

「名誉の負傷なのである!」

「まぁまぁ、子供達が無事だったんだからいいじゃないですか、

 それに脂肪だけで済んで良かったですよ、ラッチさんなんて下手したら死んでましたよ」

「ジェリコさんも骨折してたらしいですよ、気が付いていなかったらしくて

 寝ようとした時に痛くなって慌てて治したらしいです」

「戦ってる間は興奮して気が付かないことがあるのである」

「ジェリコさん1人で戦ってたみたいですから、無理も無いですよ、いだっ…骨刺さった…」


刺さった骨を抜く松本


「そういえば、父さんが骨がどうとか言ってたような?」

「いだだ…多分大型魔族から出て来た骨の事じゃないですかね?」

「メグロが見覚えがあるとか言っていた骨であるか…食べ終えたら見に行ってみるのである」




という訳で、骨を見に来た3人。


「この傷、そして首飾り、確かに見覚えがあるような…」

「ニャリモヤさんも見覚えがあるんですか?」

「骨だよニャリモヤ?」

「そうであるが…何処かで…」

「恐らくその記憶はニャリモヤが小さい頃のものだ」

「「「 ん? 」」」


長老とオババ様とメグロがやって来た。

長老が首飾りを手に取り、オババ様に見せる。



「この首飾り、間違いなさそうだねぇ長老」

「うむ、メグロから話を聞いた時はまさかと思ったがな、

 この辺りで人間の骨などコヤツしかおらぬからな」

「長老、この骨はいったい? 何故私とニャリモヤは見覚えがあるのでしょうか?」


首飾りを戻しメグロの問いに長老が超えた始めた。


「コヤツの名前はベルケン、40年ほど前に私が殺した男だ」

「「「「 え!? 」」」」

「そんな名前だったかねぇ」

「忘れることなど出来ぬ、私の汚点でもある」

「…汚点、ですか?」


メグロの言葉に静かに頷く長老


「当時、若かった私は閉ざされた里に閉塞感を感じていた。

 外の世界を知りたくてな、当時の長老の制止を聞かず旅に出た。

 発展した街、知らない食べ物、種族、魔法、全てが新鮮でな、浮かれておったよ。

 この素晴らしい体験を知れば里の者達の考えも変わるだろう、

 そう考えていた矢先、気さくな男が声を掛けて来た」

「その男がベルケンであるか?」


ニャリモヤの言葉に頷く長老


「ベルケンは気さくで親切であった、冒険者仲間からの信頼も厚く頼りにされていた。

 我ら獣人に興味があったらしく、私と利害が一致した事もあり信頼に足る人物と見て里に案内した。

 だが、その判断は間違いであった…」


左胸に手を当て横たわる骨を見下ろす長老、

苦々しい視線の焦点は骨ではなく、その先の何かに向けられている。


「その日の夜、雨に紛れ、ベルケンはウルフ族とニャリ族の子供を浚い里を出た。

 異変に気が付いた私が追いついたのは、子供達を船に乗せ島を出ようとする間際だった。

 そこにいたのは私の知るベルケンではなく、実に悪人らしい顔の男であった。

 私とベルケンは剣を交え、ベルケンは死に私は深手を負った」

「里には回復魔法が無いから、長老も重傷で生死の境をさまよってねぇ

 目が覚めたのは5日後だったかねぇ、その間に遺体は私と前長老で埋葬したのよねぇ」

「その一件以降、私は旅を辞め、人間に対しての不信感を深めた、

 長老に就いてからは、より一層外界との関係を持たなくなった」

「長老、その子供って…」

「お主の父メグロとニャリモヤだ」

「そうでしたか…」

「微かに覚えがあるのである」



40年前の冒険者ベルケン…

仲間からの人望は厚く人当たりも完璧、その裏では人浚いか

表と裏を使い分けるか…かなり器用な人間だったんだな、俺には真似できん

おまけに死んでから大型魔族になるとは…

かなり迷惑な野郎だな



「ベルケンのように邪な者がいる一方で、

 無関係な我らの為に命懸けで戦ってくれる人間もいる…

 全ての人間がそうではないと、私も理解してはいるのだがな、

 ベルケンが死ぬ間際に見せた恨めしい目が…どうしても忘れられぬのだ」

『 … 』

「だが、今回の件で外界との繋がりの必要性を痛感した。

 我らだけで朝を迎えるのことは無理であっただろう。

 それにカテリアからも催促されている、今が変化の時なのかもしれぬな」

「では長老、今後はポッポ村と交易を?」


メグロの言葉に首を振る長老。


「それを決めるのは私ではない」

『 ? 』

「メグロ、お主を族長に任命する。 責任を持って今後の里の方針を決めよ」

「わ、私ですがですか!? いや…私には責任が重いというか…」

「父さん族長になるの!? 格好いい!」


マルメロのキラキラした視線がメグロに突き刺さる。


「う…マ、マルメロ…」

「恰好いい父親としては断れないですね」

「メグロの今回の働きを見て反対する者はいないのである!」

「父さん? …族長にならないの?」

「う…な、なる」

「恰好いいー!」


キラキラのマルメロ、急に肩が重くなるメグロ。


「まぁ正式には皆の前で発表してからだ、内緒にしておくのだぞマルメロ」

「はい長老! …前長老?」

「アンプロ、さてはカテリアからの催促にウンザリしてたねぇ?」

「う…うむ、毎晩枕元で囁くのでな…メグロ、覚悟しておいた方が良いぞ」

「長老を追い込むとは…我が娘ながら恐ろしい…」

「食べ物が絡んだカテリアは凄いのである」

「なにせカテリアさんですからね」



ん? 40年前?

ちょっと待てよ…



「あの…ニャリモヤさんって何歳なんですか?」

「多分43である」

「43は私だ、ニャリモヤは42だぞ」

「42である」



思ったよりオジ猫だった



その日の夜、正式に発表されメグロが新族長となった。

族長の座を退いた長老アンプロは快眠を手に入れ…


「ポッポ村と交易…ポッポ村と交易…ポッポ村と交易……チーズ…」

「…カテリア、まだ起きてるぞ」

「母さん、カテリア姉ちゃんが煩いんだけど…」

「カテリア、明日にしなさい」

「あっははは…お休みなさい!」


翌日のメグロは、目の周りの黒い模様が一段と濃かったそうな。







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