117話目【獣人の里14 魔族襲撃6】
強化魔法の砕ける音と岩が地面に落ちる音が響いた。
『 !? 』
メグロが剣を拾い走りだした。
「行くぞゴードン!」
「おう!」
「俺の服は…」
「「 後にしろ! 」」
「でしょね…」
ゴードンと全裸の松本を抱えたバトーがメグロを追う。
「なんか数が増えてねぇか? ほ!」
「さっきより増えてるな、ほ!」
「いったいどうしたんですかね?」
押し寄せる魔族を払いのけながら進む3人、先頭を走るメグロと合流した。
バトーに抱えられ、松本のウィンナーが揺れている。
「メグロさーん、待って下さいー」
「追いつかれてしまったか、倒しても直ぐに沸いてくる、思うように進めないな…」
「バトーよ、岩が投げられたってことはよ…」
「あぁ、あの3人で抑えられない状況になってるってことだ」
バトーとゴードンに先頭を任せ、後ろに下がったメグロが目を凝らす。
「ん? 腕が4本に増えている、それにジェリコさんが1人で抑えているようだ」
「ニコルさんとラッチさんは見えませんか?」
「少し離れた場所にラッチさんとニコルさんがいるが…ラッチさんは負傷しているようだ」
「思ったよりヤベェな、岩が飛んで来るわけだぜ」
「俺が光魔法を使って周りの魔族を消滅させる、その間に走ろう。
ジェリコさん達と合流したら俺とゴードンで影を消す、腕が増えてても同じように倒せるはずだ」
「「 了解 」」
バトーが下がり、ゴードンとメグロが前に出る。
「まだ距離があるから途中で湧いて来そうですね」
「マツモト、光魔法は?」
「あと1回くらいならなんとか行けます」
「なら任せる」
「え? それはどういう…」
「皆いくぞ!」
バトーが強烈な光を放ち周辺の魔族か掻き消える。
「頼むぞマツモトー!」
「ちょ、バトーさぁぁぁん!?」
ハンマー投げのように松本を投げるバトー、宙を舞い揺れるウィンナー。
ま、任せるってそういうことぉぉぉぉ!?
「バ、バトーさん!? これはいったい?」
「急ぐぞ2人共! マツモトが道を作ってくれる筈だ!」
「なるほどな、頼むぜマツモトー!」
走りだすバトーとゴードン、戸惑いながらメグロが追う。
「あばばば、絞り出せ内なる光をぉぉぉ! 今、渾身の光魔法ぉぉぁああああ!」
松本が光を放ち、再び湧き始めていた魔族が消滅する。
光が通過した直線上の魔族が消え、バトー達の前に道が開いた。
「ははっ、これなら邪魔されずに進めるな!」
「マツモトの最後の光だ、無駄にするなよ!」
「マツモト君は大丈夫なのか?」
「心配ない、マツモトならなんとかするさ、俺が前、ゴードンは後ろを頼む」
「了解だ、メグロさんはジェリコさんの援護を頼むぜ」
「!? 先に行く!」
何かを察したメグロが大型魔族に向けて速度を上げた。
必死に大型魔族を抑えるジェリコ。
「(くそっ…コイツ岩を…) だりゃぁぁ! がっ!?」
腕を1本落とすが大型魔族は止まらず、岩に気を取られ大振りになったジェリコが跳ね除けられた。
「ジェリコ!?」
「ニコル、行って! 僕は、ぐぅっ!?」
「まだ駄目よ、今はジェリコとお嬢を信じて回復しなさい!」
「くそっ…」
「(血を吐かなくなった、内臓はある程度回復したみたいね…)」
気持ちが焦るラッチ、押し留めるニコル。
冷静に振る舞っているが彼女の内心も穏やかではない。
程なくして大型魔族が岩を投げ、次の岩の元に進んで行く。
「(次の岩はアレか…)ニコル! ラッチの状態は?」
「ある程度回復したけど、戦うのはまだ無理!」
「了解…(次はいよいよ危ねぇか…今は少しでも時間を稼ぐ…お嬢…)」
傷の回復を止め、大型魔族に向かうジェリコ。
「ニコル、僕はもう動ける、ジェリコを」
「…信じていいのラッチ?」
「身を守るくらいなら出来る、それよりこのままだとジェリコは…」
「…お嬢も限界の筈…次を投げさせる訳にはいかないか…」
ラッチとジェリコの状態を確認するニコル。
「(呼吸が落ち着き、顔色も良くなった…左手はまだ使えない、ジェリコは…)」
「だぁぁぁ! その岩に近寄るんじゃねぇぇ!」
岩に近寄る大型魔族を必死に引き留めるジェリコ。
「(頑張ってるけど1人では限界ね…)」
暗闇が光り、周辺の魔族が掻き消える。
「「「 !? 」」」
光が消える瞬間、闇の中に数人の人影が見えた。
「…渾身の光魔法ぉぉぉああああ!」
続けて、声を上げながら光が飛んで来る。
「ニコル!」
「了解、ジェリコー!」
「分かってる! ここが正念場だぁぁ!」
光の意味を理解したニコルがジェリコの援護に走る、ラッチは剣を取り立ち上がる。
「あああああ! からの~前回り受け身! うげっ…」
地面に落ちる瞬間、華麗な前回り受け身で着地する松本。
2回転ほど回転して地面に倒れ込んだ。
もう動けん…体力の限界…
直ぐ横をニコルが走って行く。
「ニ、ニコルさん!」
「え!? マツモト君!?」
呼び止められ足を止めるニコル。
「バトーさんとゴードンさんがアイツの影を消したら胴体を狙って下さい! 倒せるはずです!」
「!? 倒せるのね」
「俺はいいから、行ってください!」
「えぇ!? でもどう見ても大丈夫そうじゃ…全裸だし…」
「っぐ…ニコルー!」
腕を落とし、突き飛ばされながらジェリコがニコルを呼ぶ、振り返ると大型魔族が岩を掴もうとしている。
「させぬ!」
駆け寄るメグロが剣を投げ、岩を掴んだ腕を落とした。
「バトーさん達が来ます! ニコルさん早く!」
「っく、死ぬんじゃないわよ!」
走り出すニコル、ジェリコが立ち上がる合間にも大型魔族は再生し続け、残る腕は3本。
「これ以上再生させるなゴードン!」
「イケるぜバトー!」
大型魔族の前にバトー、後ろにゴードンが立ち光を放つ。
影から分断され大型魔族の再生が止まった。
「はぁぁぁ!」
「根性ぉぉぉ!」
両手の爪で腕を落とすメグロ、合わせてジェリコが剣を振り腕を落とした。
「ジェリコしゃがんで! これでぇぇぇ!」
ジェリコの肩を掠め、三又槍が胴体に突き刺さる。
払い除けようと大型魔族の最後の腕がニコルに迫る。
「ニコルさん危ない!」
ニコルに迫る腕を目掛けメグロが飛ぶ。
「(間に合わぬ…)」
「ライトニング!」
後方から稲妻が走り最後の腕を焼き払った。
槍が胴体を貫通し、大型魔族の動きが止まる。
ニコルとジェリコの後方では片手を突き出したラッチが片膝を付いている。
「まったく…危ないなぁ」
「信じてたわラッチ」
「行くぜニコル!」
「「 どりゃぁぁ! 」」
突き刺さった槍を左に払うニコル、残った右をジェリコが両断した。
光に照られされ大型魔族は消滅し、地面に骨が落ちた。
「やったな!」
光魔法を止めたバトーが笑顔で親指を立てている。
「助かりました、メグロさん、バトーさん、それにゴードンさんも」
「はは、マツモトも忘れないでやってくれないかジェリコさん」
「そうでした」
「こっちも骨だな…」
「下半身の骨…向こうの骨と対なのか?」」
ゴードンとメグロが砕けた骨を観察している。
「ジェリコ~、ニコル~手を貸してれないかな~?」
光が消え再び沸き始めた魔族の中をラッチが歩いてくる。
「よし、ラッチを迎えに行こうぜニコル」
「はっ!? そういえばマツモト君は?」
「おいおいラッチ…」
「ラッチはたぶん大丈夫、それよりマツモト君の方がマズイのよ!」
慌ててマツモトを探すニコル、ジェリコがラッチの元に駆け寄り肩を貸す。
「そういやマツモトどこ行ったんだ?」
「あの辺に落ちたと思うぜ?」
「ん? あの辺り魔族が集まっているな…しかし…何か首を傾げているような?」
「魔族が首を傾げる? どういうことだバトー?」
「行ってみれば分かるさ」
メグロが集まった魔族を払うと干からびた松本が転がっていた。
「マ、マツモト君!? どうしたというのだ?」
「お、これはあれだなバトー」
「マナ切れだな、マツモトが生きてるか死んでるか分からないから魔族が悩んでたんだな」
「尻を突かれた跡があるぜ」
「生きてるか確認されたんだろ、まぁ襲われなかったから逆によかったんじゃないか?」
「確かにな…」
「「 だーっはっはっは! 」」
「いや…それは死にかけてるということでは?」
笑うバトーとゴードン、心配するメグロ。
逃げる為に回復魔法で体力を回復した松本だったが、
体力を使うとはいえ光魔法はれっきとした魔法、
発動する時に消費するのはマナである。
マナ不足の状態に回復魔法で追い打ちをかけマナ切れ、干からびて気絶したのだった。
翌日無事回復した。
松本を回収後、身体能力の高いメグロは幹を登り居住区の防衛線に参加、
バトーとゴードンは光魔法で幹を登る魔族を消滅させ援護、
ジェリコとニコルはラッチを回復させた。
仕事を終えた松本は地面に転がっていた。
暫くすると獣人の里に朝日が昇った。
魔族は消滅し、上空に立ち込めていた黒い霧も消えた。
「朝日…よかった…」
「長老、朝だねぇ」
「うむ、なんとか乗り切ったようだな。
皆よくやった! 魔族の襲撃は終わり、我らは生き延びた! 新しい夜明けである!」
『 おぉー! 』
朝日に照らされる獣人の里、居住区の数か所と上り坂は破損、
岩が引き抜かれた草原には穴が空き、代わりに巨木の根元に岩がならんだ。
怪我人は出たが死者は無し、安全を確認した後、取りあえず寝た。




