112話目【獣人の里9 魔族襲撃1】
黒い霧に覆われた獣人の里
プリモハ達が居住区の光が届く足元に目を凝らしている。
「何もいないみたいだけど…」
「お嬢は危ないから下がって…ラッチ、見えるか?」
「暗くて見えない、動いている物はいないみたいだけど…ニコルは?」
「駄目、私も見えない」
「…本当に来るのか?」
草原の先の闇に目を凝らすメグロ、黒い何かが蠢いている。
「いや、…いるな、皆、こっちだ!」
「こっちにもいるのである!」
「こっちにも沢山いるわよぉ~、私怖いぃぃぃ」
メグロに続き、居住区の反対側からニャリモヤとニャリシロの声が聞こえた。
「長老、これはもしかしてだけど…」
「うむ、オババ様の予想通りだろう、皆気を付けろ、囲まれているそ!
予定通り入口を固めよ! 居住区の警戒も怠るな!」
長老が指示を出すと、数人の獣人が居住区の入り口に柵を置き簡易的なバリケードを作る。
「全然見えない、何処だぁ~?」
「マツモトさん、あそこですよ! ほら近寄って来てる!」
「沢山いますよ、僕ちょっと怖い…」
「マツモト殿、そこの少し暗い場所に黒い影の様な者達が歩いているのである、ほらそこ」
「いや、暗い場所で黒い物なんて見えませんって…」
「なんで見えないんですかぁ! 私怖んですけどぉ!」
「よく見て下さいよマツモトさん! 冗談言ってる場合じゃないですよぉ!」
「い、いや…そんなこと言われても…ちょっと首絞めないでカテリアさん、マルメ…苦し…」
「落ち着くのだカテリア、マルメロ、戦う前にマツモト殿が死にそうなのである」
少しパニック気味のカテリアとマルメロ、首を締め上げられた松本が青ざめている。
数分もしない内に、居住区の足元に黒い影が姿を現した。
生気を感じさせないソレは全身が黒い炎のように揺らめいており、はっきりと形が定まっていない。
殆どが2足歩行で武器を所持しているが、4足歩行の者も多少確認で出来る。
「ポッポ村を襲った奴らと同じだなゴードン」
「あぁ、何回見ても気味が悪いぜ」
ひしめき合う魔族は居住区の大木を囲み、幹をよじ登ろうとしている。
「本当に来やがったな…」
「数が多すぎない? 地面が見えないんだけど…」
「こんなのが朝まで襲って来るわけ? 冗談でしょ…」
「これが魔物…なんか…なんていうか、生理的に受けつけないわね…」
「「「 お嬢は下がって! 」」」
「はい…」
ジェリコ、ラッチ、ニコルに怒られてシュンとするプリモハ。
「いやぁぁぁ! 気持ち悪いぃぃ! なんかゾワッてするぅぅぅ」
「僕、なんか、勝手に毛が逆立つんだけど…」
「こっちに来るぅ~、ニャリモヤなんとかしてぇ~」
居住区に続く坂を登って来る魔族を見て、
カテリア、マルメロ、ニャリシロが身悶えしている。
よく見ると他の獣人の中にも身悶えしている者がいる。
「どうしたんですかね? 俺はそこまで気持ち悪くないですけど…」
「正直、アレには我も近寄りたくないのである」
「マツモトー、俺達は入口に行くぜー!」
「はーい! 俺も着いて行きまーす!」
入口のバリケードで魔族を迎え撃つため、バトーとゴードンが走って行く。
「取りあえず俺も行きますので、バトー達が行くなら入口は問題ないと思います。
ニャリモヤさん達は目がいいので、居住区に魔族が湧いていないか警戒してください」
「任せるのである!」
「「「 頑張ってぇ~ 」」」
身悶えながら手を振る4人に背を向け、いい感じの木の棒と木の盾を持って入口に走る松本。
相棒(5代目)である。
松本が入口の付くと直ぐそこまで魔族が登って来ていた。
「ひえぇぇ、いっぱい来てるぅぅ…」
「どうするバトー、光魔法でやるか?」
「いや、取りあえず様子を見たい、俺が戦うから掩護してくれ」
「わかった、あんま無理すんなよ」
「気を付けて下さいね」
バリケードを飛び越え、迫る魔族の前に立つバトー。
左手に巨大モギの素材で作った盾『地竜の鱗』と、右手に剣『地竜の爪』を持っている。
「実戦で使うのは初めてだが、どうかな?」
盾を剣の側面で軽く叩き感触を確かめるバトー。
距離が近付くと、数体の魔族が武器を上げ一斉にバトーに襲い掛かった。
「動きはあまり変わらんな、どりゃ!」
踏み込み剣を一閃するバトー、数列分の魔族が消し飛んだ。
「どりゃ! おりゃ! そりゃ! せぇぇぇい!」
剣を振りながら坂道をドンドン降りて行くバトー。
「これ…掩護いりますか?」
「いらんだろ、単純な能力たらバトーの敵じゃねぇし、やっぱり怖ぇのは数だな。
守る者も背負ってねぇ、囲まれもしねぇ、そんな場所じゃまず死なんだろ」
「ですよねぇ…」
そりゃそうだ、アタイ、知ってた
バトーが暫く降りて行くと、弧を描き何かが飛んできた。
盾で防ぐと地面に黒い矢が転がり消えた。
「ん? お、危ない危ない、ちょっと出過ぎたな」
バトーが魔族を消し飛ばしながら戻って来た。
バトーが後退すると、直ぐに魔族が詰めて来る。
「お帰りなさいバトーさん」
「どうだったよ?」
「基本的にはポッポ村の時と変わらんな、動きも早くは無いし攻撃も単調。
おりゃ! 数が多いだけで大して強くはない。
ただ、弓を使うヤツがいるな、退きながら射程距離を確認したが、そりゃ!
ここまでは届かなみたいだ、他の人達にも坂は降りないように伝えた方がいいな」
「「「 了解です! 」」」
「ん? 人が増えてるな、誰だ?」
「ジェリコです!」
「ラッチです!」
「ニコルです!」
「プリモハです!」
「「「 お嬢、もう少し下がって! 」」」
「はい~」
バトーが戻って来る間にジェリコ、ラッチ、ニコルが合流していた。
プリモハも合流していたが、ニコルによって長老とオババ様の元に引きずられて行った。
会話しながら魔族を消し飛ばし続けるバトー。
「動いていたら光魔法は使えんな、マツモト、ちょっと試してみてくれ」
「了解です!」
上半身の服を脱ぎ半裸になる松本。
「なんで服脱ぐのマツモト君?」
「神官クラスのバトーさんと違って、俺は露出が多い方が威力が高いんです。
光魔法使いますよー! こっち見ないで下さいねー!」
『 はい~ 』
「ふんっ!」
松本の体が光ると光が届く範囲の魔族が掻き消えた。
『 おぉ~ 』
「凄いな光魔法、俺もやってみるか、よっ!」
バトーが力こぶを光らせると更に倍以上の範囲の魔族が掻き消えた。
『 おぉ~ 』
「これはいいな、魔族が登ってくるまで暫く時間が稼げそうだ」
「光魔法があるだけでこんなに違うんだな、ありがてぇ」
「これだけで良さそうですね」
「そうだな、これなら2人位でも入口を守れ出来そうだ、居住区には魔族は現れていないのか?」
「今のところは大丈夫であるー!」
「こちらも大丈夫そうだー!」
広場からニャリモヤとメグロの声が聞こえる。
「らしいぞバトー、居住区は入口さえ守れば安全そうだな」
「それじゃ、最初は俺とマツモトでやるからゴードン達は村長に話をして来てくれ」
「はいよー」
「「「 よろしく願いしまーす 」」」
ゴードン達が去り、バトーとマツモトだけが残った。
「マツモト交代だ」
「了解です、ふんっ!」
余裕が出てたのでバックポーズを決める松本、まだ魔族が登って来ていないので無駄である。
「そろそろやりましょうかねぇ、腹筋を締めてからのぉ~…ん?」
松本を目掛けて大量の黒い矢が飛んで来る。
「いやぁぁぁ!? し、死ぬぅぅぅ!?」
「ふん!」
松本の後ろでバトーが光を放ち、飛んで来た矢と魔族が掻き消えた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…危なかった…死ぬかと思った」
「大丈夫かマツモト、油断し過ぎだな」
「助かりましたバトーさん、まさか弓兵も登って来てるとは…しかし、矢も消えるんですね」
「みたいだな、前回も武器は残ってなかったし、光魔法で消えるってことは魔族の一部なんだろうな」
「これも報告した方が良さそうですね」
「そうだな、おーいゴードン!」
「ちょっと待ってくれー!」
広場では入口を守る組分けを行っている。
光魔法が使用できる者1人、ニャリ族1人を合わせたの2人1組で分けるらしい。、
「というわけで、情報を共有してくれ」
「了解だバトー、無理するなよマツモト」
「頑張ります!」
ゴードンが広場に戻って行く。
「お、また何か飛んできたぞマツモト」
「任して下さいよ、2度も同じ過ちを繰り返すほど俺は馬鹿じゃないですよ。
くらえ、攻守最強のサイドポーズ! 痛ぁっ!?」
魔族は掻き消えたが、硬い何かが弧を描き松本に直撃した。
「いったぁぁ!? 何!? 何で!? 血が出たんですけど!?」
頭部から流血する松本、うずくまり必死に回復している。
床に転がる血の付いた何か。
「…石だな」
「石!? あいつ等、石投げてくるの!?」
石を投げる行為『投石』
人類最古の遠距離攻撃とも呼ばれている大変危険な行為。
普通に死にます、絶対に人に向けてやってはいけません。
「石は形のある物質だから光魔法でも消えないみたいだな、これも報告だな」
「バトーさん、交代して貰ってもいいですか? 負傷したもので」
「はは、災難だなマツモト、油断するからだ」
「面目ない…」
入口を守る組み分けが、光魔法が使える者2人、ニャリ族2人を合わせた4人1組に修正された。




