110話目【獣人の里7 ハナフネと特製ジャラシ】
「プリモハさん、マツモトさんありがとう御座いました! 私、今幸せです!」
「そうでしょうね、顔見たら分かりますよ…」
「全身から幸せオーラが出てるわね…」
誰が見ても幸せなカテリア、満たされた顔をしている。
「是非何かお礼をさせて下さい!」
「必要ありませんよ、いつもこちらがお世話になっていますから、チーズはそのお礼だと思ってください」
「俺も特に必要ないですよ、チーズも食べられましたから」
「それじゃ私の気がすみません! 何かお礼をさせて下さい」
「「 う…う~ん 」」
カテリアのキラキラした目に押され、必死に願いを絞り出そうとするプリモハとマツモト。
う~ん、お礼ねぇ…何かあったかぁ?
普段食べれない魚を食べさせて貰えるだけで十分なんだけどなぁ…
え~と願い…欲しい物…あ、そうだ!
「カテリアさん、俺ハナフネ食べたいんですけど」
「ハナフネですか? そういえば食べたがってましたね、任せて下さい!」
「ハナフネが自生している池って獣人の方達にとって神聖な場所なんですよね?
勝手に食べたら怒られたりしないですか?」
「ネネ様の池にあるハナフネは駄目ですけど、それ以外のヤツなら大丈夫ですよ。
私達も海を渡る際に使用していますから」
「そういえばそうですね」
「(ハナフネって岩山の外の池に浮いてる大きな蓮のことよね? 食べられるのかしら?)」
「プリモハさんは?」
「えぇ~と私は…出来たらでいいんですけど、長老様のジャラシが使ってみたい…かなぁ?」
「プリモハさん、それは流石に無理なんじゃないですか?
長老様のジャラシですよ? 俺達みたいな余所者に触らせてくれませんよ」
「まぁ、私もそう思うんだけど、無理しないで大丈夫ですから」
「お安い御用です、早速借りに行きましょう!」
「あ、借りられるんだ…」
「なんか拍子抜けね…」
長老の特性ジャラシは皆のジャラシ、使用目的を守って楽しく使いましょう。
長老の家にやって来た3人、窓から中を覗くとバトーとゴードンの姿がある。
「長老様、獣人の方達は皆回復魔法を使えますか?」
「いや、回復魔法が使える者はいません、
我らは外界との繋がりが薄いため魔法が使用出来る者が少ないのです」
「そいつはマズイな…どうするバトー?」
「プリモハさん達は全員使えるらしいからなんとかなるだろ、居住区は守りやすいからな」
「では、居住区で立てこもり、入口の防衛ということで」
「そうですね、光魔法を基本として防衛すれば負傷し難いと思いますし…」
「………」
「………」
「なんか大事な話をしてるみたいですね」
「ジャラシは後回しにして、先にハナフネを取りに行きましょうか」
「その方が良さそうですね」
というわけで、居住区の下にある池にやって来た3人。
岩山の外にある神聖な池ではなく、内側の生活用水として使用している池である。
「マツモトさん、小さいハナフネならこの池にありますよ」
池を覗くと端の岩の周辺に小さな蓮が溜まっている。
「ほらこれです」
「これがハナフネですか?」
「外の池のモノより随分小さいでみたいですけど、同じモノなんですか?」
「同じですよ、この池のハナフネは何故か大きくならないんです。
ネネ様の池のハナフネは、ここから流されたて育ったモノですね、
時期が来ると白い花が咲いて綺麗なんですよ!」
「「 へぇ~ 」」
「因みに、マツモトさんが来る時に使用したハナフネは、海まで流されて育ったモノですよ。
一番大きくて丈夫なんです、花は咲きませんけど」
「淡水と海水で生息出来るなんて丈夫な植物ですね~」
池に肘まで浸け温度を確認するプリモハ
「底の方も温かい…カテリアさん、この池の水は地下から湧いているのですか?」
「そうですよ」
「プリモハさん、どかしたんですか?」
「この池の水は地下で温められているから温かいけど、外の池は冷たかったの。
恐らく生息場所によってハナフネが異なるのは水の影響だと思うわ」
「どれどれ…本当だ」
温泉にするにはぬるいかな…
生活用水なので入浴すると怒られます。
「プリモハさんは博識ですねぇ~」
「流石は調査隊隊長、目の付け所が違いますね!」
「おほほほ、それほどでもあります、調べることが私の仕事ですからね!」
鼻高々のプリモハ隊長。
「何気ないことに疑問を持って調べることが大切なのです!
例えば、この何気なく端に寄ったハナフネ、何故ここに集まっているのかを…」
「あ、それは私にも分かります、そこから池の水が流れていってるからですね」
「この岩の隙間に水が流れて行ってますね」
「そ、そう…2人共いい感性してるわ…私の調査隊に入らない?」
プリモハの鼻が通常に戻った。
「あれ? プリモハさん、ちょっとこの隙間見て下さい」
「どうしたのマツモト君、何か気になるの?」
「ほら、また…」
「どれどれ?」
松本と入れ替わり岩の隙間を覗くプリモハ、
岩の隙間から微かに吹く風が髪を揺らす。
「微かに風が流れて来る…奥に外に繋がる空洞があるの?
ネネ様の池はここよりもっと下の方だし…火魔法じゃよく見えないわね、
マツモト君、ちょっと光魔法で照らしてみてくれないかしら?」
「え? プリモハさん何か言いました?」
プリマハが振り向くと、微妙な顔をした松本が口をモゴモゴさせている。
「マツモトさん美味しいんですか?」
「ん~、なんか葉っぱって感じですね、あまり美味しくない…」
「…マツモト君、そのハナフネ食べたの?」
「そうです、あまり美味しくないのでお勧めしません。
海で育ったハナフネは肉厚で美味しかったんだけどなぁ…」
「え? マツモトさんいつの間に食べたんですか? もしかしてあの時に…」
「いや…はい、我慢できずに1口だけ…すみません」
しまった、悪行がバレた…
悪いことは出来んな…
「…どんな味なの?」
「味はそこまで無いんですけど、みずみずしくて独特の歯応えがあります。
ヨーグルトとかに入れると美味しいと思いますよ」
「えぇ~食べてみたいですねぇ~ヨーグルト!」
「「 そっち? 」」
まだ見ぬヨーグルトに思いを馳せるカテリア、
岩の隙間を光魔法で照らすがよく見えず、調査は取りあえず打ち切りとなった。
長老の家に戻って来た3人、バトー達はいなくなっていた。
「「「 長老様、特製ジャラシを貸してください! 」」」
「どうぞ、歴代の長老から代々受け継がれているジャラシですので大切に使用して下さい」
「「「 ありがとう御座います! 」」」
というわけで特製ジャラシを手に入れた3人。
特製ジャラシは白い棒の先端に大きな羽根が束ねられている。
「これが特製ジャラシかぁ、綺麗な飾りも付いているし、持ち手にも装飾が施されていて豪華ですね」
「素材は金属かしら? 木製ではなさそう、先の羽はたぶんコカトリスの羽ね」
「その羽が堪らないんですよ~、私も子供の頃によく遊んでもらいましたねぇ~。
羽がボロボロになるたびに交換して皆で大事に使ってるんです」
「歴史のあるジャラシですねぇ」
「これ、かなり古そう…いつ頃の物なのかしら?」
「長老のジャラシだー」
「お姉ちゃん遊んでくれるのー?」
松本とプリモハがジャラシを観察していると、目を輝かせた子供達がやって来た。
「「 ぬふふふふ… 」」
不敵に笑う2人
「さぁいらっしゃい子供達! お姉さんが心行くまで遊んであげるわよー!」
「広場にで遊びましょう! ふぅぅぅ! 心が躍るぅぅぅ!」
「2人共楽しそうですね~」
広場で繰り広げられる歓喜の宴
羽根を追う子供達は舞い、身悶える2人は齧られ、慌てたプリモハ調査隊は回復する。
「プリモハさん、次は俺にやらせて下さい!」
「おほほいいわよ~私満足、今凄く満たされてるわ~!」
満たされた顔のプリモハに代わり、特製ジャラシを操る松本。
「んぎゃわいいいい!」
「ガジガジ」
「マ、マツモトさん! 齧られてますよ!」
「それでもぉ、んぎゃわいいいいい!」
「ガジガジ」
「マツモトさ~ん!」
子供達に齧られながらもジャラシを振る松本。
ジャラシより松本の方に子供達が集まっている。
「はぁはぁ…満足、満たされました」
「そろそろ終わりにしましょうか、ジャラシ返しに行きましょうマツモト君」
「そうしましょう」
ポロッ…
「「 っはぁ!? 」」
特製ジャラシに付いていた飾りが地面に落ちた。
「ま、マツモト君…そ、それって…」
「こ、これっ…え?」
「も、もしかして…壊したんじゃ…」
「うそぉぉぉ!? え? うそぉぉぉ!?」
『どうぞ、歴代の長老から代々受け継がれているジャラシですので大切に使用して下さい』
「「 あばばばば… 」」
長老の言葉を思い出し青ざめる2人
ぎゃぁぁぁ特製ジャラシがぁぁぁぁ
代々受け継がれた特製ジャラシぁぁぁぁ
どどどどうしよう、獣人の方達が大事に修理して使っていたのに…
余所者の手によって壊れたなんて知れたら…
「マツモトさん、プリモハさん、どうしたんですか?」
「「 はひっ!? 」」
「あ」
慌てる2人の元にやって来たカテリア、地面に落ちた飾りを見ている。
「あ、あああのあのあああの…これ…」
「すすすすみません…悪気はなくて、その…」
「あぁ~また取れたんですか」
「「 え? 」」
落ちた飾りを拾い、特製ジャラシに取り付けるカテリア。
「はい、これで大丈夫です」
「あの…壊れたわけでは?」
「あはは、違いますよ、この飾り昔からよく取れるんですよ」
「よ、よかった…私達が壊したのかと思いました…」
「壊す前に早いとこ返しに行きましょう…」
「そんなに怯えなくても、少しくらい壊しても誰も怒りませんよ!」
「あははは…それはまぁ、なんというかそういうことでは…」
「こちらとしては怒られた方が気が楽というか…」
「そうなんですか? よくわかりませんねぇ?」
先程まで満たされていた筈の松本とプリモハ、少し疲れた顔をしている。
「「「 ありがとうございました~ 」」」
特製ジャラシを返した3人、松本とプリモハは2度と使用しないと心に誓ったそうな。




