11話目【翌日の村】
「…ん?」
気を失った松本が目を覚ましたのは翌日の昼過ぎだった。
「タオル? …誰か被せてくれたのか」
木陰に置かれた簡易的なベットの上に寝かされていたらしい、
よく見ると似たようなベットが周りに散乱している。
「(皆ここで寝たっぽいな、もう誰も寝て無いけど)」
あちらこちらで村人達の声が聞こえる、
昨日襲撃されたばかりだが村は復旧を開始していた。
松本も起きて行動を開始した。
「もうそんなに動いて大丈夫なんですか?」
「ん? 坊主気が付いたのか、昨日はありがとよ」
「いえいえ、それよりみんな元気ですねぇ」
「傷は魔法で治ったし飯も食ったからな、田舎の村人ってのは頑丈に出来てるもんなんだ、
それに自分達で何とかするしかねぇからなぁ、ゆっくり休んでもいられねぇ」
「みんな逞しいですねぇ」
「おうよ、またいつ襲撃されるかわからねぇから取りあえず柵だけでもなんとかしねぇとよ」
グゥ~っと、松本の腹の虫が鳴いた。
「なんだまだ飯食ってなかったのか? どれちょっと待ってな」
オッチャンが鞄をゴソゴソすると松本の手に茹で芋が置かれた。
「ほれ、食っとけ」
「へぇ~芋なんてあったんですね」
「昨日焼けた畑をほじくり返したらよ、多少だが食べられそうな芋が出て来たんだ」
「ありがたいですけど、これは村の人達にあげた方かいいんじゃないですか?」
「それは俺に配られた分だ、貰ってくれねぇか、昨日世話になったからその礼だ」
「そういうことなら有難く頂きます~」
もっちゃもっちゃと目を輝かせながら芋を頬張る松本。
「(甘~い! この世界にきて初めての芋! 塩で茹でただけの芋うんまぁぁぁい!)」
「そ、そんなに旨かったか坊主…? ただの茹で芋だぞ?」
「最近、パンとナーン貝と木の実しか食べてなかったもので…芋旨~い!」
「そ、そうか? それならよかったけどよ…」
「この村の住民は何人位いるんですか?」
「ん? 大人が年寄りも含めて50人位、子供が20人位だな、
町に出稼ぎに行ったヤツもいるんだが今はそんなところだ」
「村のために出稼ぎですか」
「別に金には困ってねぇんだけどな、若いヤツらは町に憧れるみてぇなんだよ、
この村から出たことがねぇ俺にはよく分からねぇがな、
おっし、俺もぼちぼち作業に戻るとするか、坊主はしっかり休めよ」
「はい~」
村を散策していると数人の村人が広場に集まっていた、
恰幅の良い3人の女性が指示を出し何かをしている。
「あの~すいませ~ん」
「あら坊や起きたのね、昨日は助かったわ~」
「いえいえ、どういたしまして、それよりこれはいったい?」
「あぁこれね、家と店が焼けちゃったから無事な物がないか確認してたのよ」
「お姉さん達の店だったんですか?」
「あらやだちょっと聞いた? お姉さんですって! 私もまだまだイケるわねぇ~」
「この子口がうまいわ~ こういう子は将来絶対女を泣かせるわよ~」
「かわいいウインナーがはみ出してるものねぇ~」
「「「 ウフフフフ…」」」
異世界でもマダム会議は健在だった。
「あらごめんなさい、そうよ~私達は食べ物を扱ったお店を営んでるの、
まぁ村は自給自足だから町で仕入れた加工品や調味料が主な商品なんだけど、
でも殆ど焼けちゃったわ、残っているのはこれくらいね」
「食糧庫が焼けちゃったから、みんなの家からも食料を集めて残りを確認してるのよ、
ここにあるのが村の食糧の殆ど、やっぱ厳しいわねぇ」
「あんた丁度いいからダイエットなさいよ~?」
「あらやだ、そういうあんたも最近太ったんじゃない? 一緒にダイエットよ」
「「「 アーハッハハハハ… 」」」
マダム会議は続くのであった。
「(これで殆どかぁ…まともに食べたら1日持たないなかな…、
フランスパンもそれなりに大きいとはいえ70人で分けると厳しいし…
そういや寝床にナーン貝が2つ残っていたな、ちょっと取ってくるか)」
寝床でナーン貝を回収した松本は池に立ち寄った。
「精霊様~、ワニ~」
「おや、今日は全裸じゃないんだね、まぁあまり変わらないけど」
「隠れただけましですよ、それより今日はパンが少ししかないんですよ、村が食料危機でして」
「それなら僕らは必要ないよ、元々僕もワニ美ちゃんも食べ物は必要ないからね」
「(ワニ美…あのワニって雌だったのか…)」
黄色いワニに名前があったことが判明した。
「そうなんですか? 精霊様は別としてワニ…ワニ美ちゃんも必要ないんですか?」
「そうだよ、ワニ美ちゃんは僕の従者だからね、食料ではなくマナを糧とするのさ、
僕が久々に体現したのは君がマナで生成された供物をワニ美ちゃんに捧げたからだよ」
「(…どういうこっちゃ?)
ま、まぁ難しいことはよく分かりませんが助かります、
あの~今度村の人達とナーン貝取に来てもいいでしょうか? 村に食料が届くまでの間だけなんとか…」
「なぜ僕に聞くんだい?」
「え? 村の人達からここは光の精霊の神聖な森だと聞いたもので」
「ここは別に僕の所有物ではないからねぇ、好きにしたらいいんじゃない?」
「たすかりますぅ~ これ少しですがお納めください」
「ははは、せっかくだから頂くよ、お~いワニ美ちゃ~ん」
松本は土下座でフランスパンの切れ端を2つ献上した。
松本が水管が千切れたナーン貝と端の千切れたフランスパンを持ち帰った頃には夕方になっていた、
村の中心では煙りが上がり夕飯の支度を始めているようだった。
「ん? パンの坊主じゃねぇか、どこ行ってたんだ?」
草原を歩いてくる松本に柵を作っていた男が声を掛けた。
「あぁ芋のオッチャンか、寝床に残ってたナーン貝を取りに行ってたんですよ」
「芋のオッチャンじゃなくてゴードンっていうんだよ俺は」
「俺はパンの坊主じゃなくて松本っていうんです」
「そうかそうか坊主、ヨロシクな」
「(結局坊主じゃねーか…まぁいいか)」
その後、ちゃんと名前で呼ばれるようになるまで暫く時間を要することとなる。
「これが手元にある最後のナーン貝です、大切に食べて下さい」
「ありがてぇな、俺らはいいけど子供達が可哀相でな、ほんと助かるぜ」
「ゴードンさん、よかったら明日一緒に取りに行きませんか?」
「取りに行くったって坊主、そもそもどこにあったんだ? そんな貝見たことねぇぞ?」
「あの森の奥に海岸があるんですよ、そこの砂浜で捕れます」
「光の精霊様の森かぁ…後で皆と話し合ってみねぇと決められねぇな、とりあえず飯にするか坊主」
「そうですね」
「お~い皆、坊主がまた昨日の貝を持ってきてくれたぞ~」
「本当? やった~」
「あの貝おいしかったわねぇ」
「貝焼くからちょっとそこの鍋寄せてくれ」
「パンも少しはありますよ~」
泡を噴くナーン貝に期待を膨らませながら、村人達は小さなパンを齧る。




