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105話目【獣人の里3 目的と既視感】

長老の家に集まったバトー、プリモハ、ニャリモヤ、長老、オババ様

家がそこまで広くないのでカテリア、マルメロ、松本、ゴードンは窓から覗いている。


「それでは改めて自己紹介をさせて頂きます、私の名前はプリモハ。

 仲間と一緒に光の3勇者様に関する調査を行って旅をしています」

「ポッポ村のバトーです、こっちはマツモト、あっちがゴードン。

 魔族の襲撃から獣人の里を守るためにやってきました」

「「 よろしくお願いしまーす 」」


窓の外から挨拶する2人。


「ふむ、これは御親切に私はウルフ族の族長であり、この里の長老のアンプロと申します」

「私はニャリ族の族長のニャリモサ、里の者からはオババ様と呼ばれてるからねぇ、

皆さんもオババ様って呼んでおくれ」

「ところでプリモハ殿、何故ニャリモヤの耳を弄っているのでしょうか?」


香箱座りするニャリモヤの上に跨り、両手で両耳を弄り倒しているプリモハ。


「申し訳ありません、こうしていないと自我が保てなくて…私、ニャリ族が大好きなんです!」


目を輝かせるプリモハ。


「そ、そうですか…ニャリモヤがそれでいいなら問題ありませんが…」

「まぁ、我は問題ないのである…慣れたのである」

「ありがとうございます!」


ハキハキしたプリモハ。

窓の外で松本が頷いている。

ニャリモヤが部屋に入っている理由はプリモハの精神安定のためであった。


「それで、バトー殿達に関しては我々が依頼して来ていただいたのだが、

 プリモハ殿達がこの地を訪れたのはネネ様に関する調査ということでいいですかな?」

「えぇ、その通りです。あの~ここから先の話は内密にお願いしたいのですが…

 国と国の関係に関わってきたりするもので…」

「ふむ、約束しましょう。皆の者も良いな?」

『 はい~ 』


聞き耳を立てている獣人達が返事をしている。


「私達はカード王の命によりシード計画という政策を行ってまして、

 その活動の一環でこの地にネネ様の記録と遺物を探しに来たのです。

 シード計画の目的は主に2つ。

 1つは復活した魔王を討伐する方法を模索すること、

 もう1つは魔王を討伐できず文明が滅ばされた際に、後世のために記録を残すことです」

「なるほど、ネネ様の記録や遺物を探して魔王に対処したいと」

「えぇ、残念ながら魔王に関しては殆ど分かっていません。

 現状はっきりしているのは、過去に勇者様の手によって魔王が討伐されたという事実のみです。

 ですので何としてもネネ様の記録と遺物を見つけて調べたいのです」

「そうですか…確かにこの里はネネ様に所縁があると言い伝えられています。

 しかし、残念ながら書物による記録などは残っておりません。

 実際にネネ様が住まわれたかも定かではないのです」

「獣人の里は昔からこの場所にあるのですか?」

「ん? えぇ、それは間違いまりません、この地は火山の影響で1年中暖かく、

 また、海水温が高いため大型の魚が沢山捕れますので、私達にとって最高の環境なのです」

「それであればネネ様が住まわれた可能性は高いと思います」

『 ? 』


脈絡のない会話に首を傾げる一同に対し、目を閉じ不敵に笑うプリモハ。


「ふふふ…実はネネ様に関する有力な記録が残っていまして、

 その記録によれば王都から南東にある獣人の住まう島で楽しく過ごされたとか!」

「あの、プリモハさん、それは後世の後付けの可能性あると思いますが?」


バトーの質問に頷く一同。


「当然その可能性もあります…が! 心配いりません、記録を調査した結果、約千年前の物と判明しています。

 さらに、なんと、なぁぁぁんと! 筆者はあのトルシュタイン様なのです!」


ニャリモヤの耳を裏返しながら勝ち誇るプリモハ。


『 ふ~ん… 』

「え!? なんか反応が薄くないですか!? あのトルシュタイン様ですよ!?」

『 う~ん… 』

「えぇ!? ちょっと、トルシュタイン様ですよ! あのトルシュタイン様なんですよ!」


周りとの温度差に戸惑うプリモハ、ニャリモヤを弄る手の速度が上がる。



あぁ…ニャリモヤの耳が大変なことに…

トルシュタイン様って、たぶん光の3勇者のトール様だな

みんなトルシュタインって名前知らんのだな…



「あのと言われてもなぁ…マツモト知ってるか?」

「たぶんですけど光の3勇者のトール様のことですよゴードンさん」

「そうなのか?」

「そうなんです! 博識ですねマツモト君!」

「「 うわっ、ビックリした… 」」


ニャリモヤの上から松本達を指さし、食い気味に反応するプリモハ。


「そう! 何を隠そう光の3勇者トール様の手記を解読した結果、

 ネネ様が獣人の村で余生を過ごされたと判明したのです!」

『 おおー! 』

「おーっほっほっほ! これです、この反応が欲しかったのです!」


期待通りの反応に鼻高々のプリモハ、胸を張り過ぎてニャリモヤの背中に頭が付いている。


「光の3勇者であるトール様の記録となると信ぴょう性があるねぇ、長老」

「確かに、我らの里は王都ダブナルから南東に位置している。地理的にも合致するか…」

「あ、先ほどの王都はダブナルではなく、カンタルのことです」


元の姿勢になったプリモハ、テンションも元に戻ったらしい。


「現王都のダブナルは魔王討伐後に再興した文明の王都でして、

 その前の魔王に滅ぼされた文明では、カンタルが王都だったようです。

 トルシュタイン様の手記はカンタルで発掘さ、解読が進められたのです」

「カンタルとは、あの砂に埋もれた都市のことですかな?」

「えぇ、カード王国の西の果てにあるカンタルです。

 現在は殆ど砂に埋もれてしまっていて『古のカンタル』と呼ばれています。よくご存じですね」

「いえ…私は以前旅をしていましたので、この目でいろいろと見てきました」

「「「「 へぇ~ 」」」」


少し畏まった長老が4人を見据える。


「正直に申しますと私はあまり人間が信用出来ません、

 一部のこととは理解しているのですが、里を背負う立場として案に信用する訳にはいかないのです。

 協力を依頼しておいて都合が良いとは思いますが、我らの里のことは他言しないで頂きたい」

「いえ、長老さんの意見は上に立つ者として正しいと思います。

 分かりました、約束しましょう、その代わりと言ってはなんですが、

 ネネ様に関する調査を手伝って頂けませんか? あと、私の仲間も里に呼びたいのですが?」

「それは勿論構いませんよ、魔王が相手となれば全種族の危機ですから」

「俺達もいいですよ、な? ゴードン、マツモト」

「「 はいー 」」


窓の外から返事する松本とゴードン。


「それと、今後の予定なんですが、今までの経緯からすると恐らく1ヶ月前後で襲撃があると思います。

 俺が光魔法を教えますので希望者を集めて下さい。

 既にカテリアさんとマルメロ君は習得済みですので、恐らくウルフ族であれば習得可能だと思います」

「かたじけない、聞いたな皆の者、希望者は後で名乗り出るように」

『 はいー 』


聞き耳を立てている獣人達から返事が返って来た。


「それでは解散ということで、プリモハさん達が使う建物も用意しますので好きに使ってください」

「ありがとう御座います、助かります」


長老に丁寧に頭を下げるプリモハ。


「勇者様の調査で旅をしているか…

 ウィンディと対して歳が変わらねぇのにしっかりした姉ちゃんだな」

「そうですか? そんなに変わらないと思いますけど…」


プリモハを目で追うゴードンと松本、

建物から出た瞬間、顔が緩みニャリモヤに張り付いた。


「むふふふふふふ…」

「ほら…」

「う~ん…」





里の周辺の森を歩く松本、ゴードン、プリモハ、ニャリモヤ。

プリモハの仲間を迎えに来たのだ。

因みにバトーは里でウルフ族に光魔法を教えている。


「プリモハさん、仲間は何人いるんだ?」

「全部で3人です、皆腕が立つので里の防衛に役立つ筈です。

 報告だとこの辺にいるらしいのですが…」

「そりゃ頼もしいな、ありがてぇ」


ゴードンが横にいるプリモハを見上げている。


「ハナフネの池の近くに居るらしいから、もう少し先なのである」

「あの大きな蓮が浮いている池のことですか?」


ニャリモヤを見下げて質問するプリモハ。


「そうである、言い伝えではネネ様のお気に入りの場所だったみたいなのである。

 そのため里では神聖な場所として大切にされているのである」

「そうだったのですか…そんな場所とは知らず勝手に入ってしまい申し訳ありませんでした」

「良いのである、知らなければ仕方ないのである」

「まぁ、そうだわな。今後気を付けるしかねぇさ」



いいなぁ…俺も乗せて貰おうかな… 



会話に入らず少し後ろでプリモハを見上げる松本、

ニャリモヤに跨るプリモハが羨ましかった。




「いたのである」

「何処だ?」

「見えませんけど?」

「ん~? あ、いましたね、ほら左の方に…ん?」


目を凝らすと池の畔に2人の男性と1人の女性が見える。

何やら様子がおかしい。


「どうしよう…」

「お嬢どこ行ったんだろうな…」

「私達どうなるのかなぁ…」

「「「 はぁ~… 」」」



くっらぁぁぁぁ…

えぇ…大の大人が体育座りで落ち込んでるんですけど…



「もう5時間か…」

「お嬢生きてるかな…」

「分かんない…死んじゃってるかも…」

「「「 うぅぅ… 」」」


半泣きの3人。



全然強そうじゃないんですけどぉぉぉぉ?

今にも泣きだしそうなんですけどぉぉぉぉ?



「お腹すいた…」

「チーズあるぞ…」

「お嬢チーズ好きだったね…」

「「「 お嬢ぅぅぅ… 」」」


チーズを齧り泣き出す3人。



おぃぃぃぃ泣いちゃったよ!

チーズで泣いちゃったよ!

どうにかしてあげてお嬢ぉぉぉ!



「おーい、皆~迎えに来たわよ~」


3人の様子に溜まらず茂みの奥から声を掛けるプリモハ。


「遠くからお嬢の声が聞こえる…」

「俺も…迎えに来たんだってさ…」

「アタシ達も死ぬのね…」

「「「 やだぁぁぁお嬢ぅぅぅ… 」」」


3人の涙で少しだけ池の水笠が増えた。


「ちょっとお嬢、全然気が付いてませんよ…大丈夫なんですかあの人達…」

「腕は確かだから心配しないで…ちょっと感情の起伏が激しいだけだから…」

「いう程ちょっとか…?」

「かなり激しいのである…」


茂みを掻き分け池の畔に出た松本達、プリモハが泣く3人に声を掛ける。


「ちょっと、私はまだ死んでないから、しっかりしてよ3人共」

「え!?」

「お嬢!?」

「本当に!?」

「本当よ、ラッチ、ジェリコ、ニコル、心配かけて悪かったわ」

「「「 お嬢ぉぉぉ! 」」」


顔を上げた3人に花が咲いた。


「お嬢が生きてたー!」

「心配しましたよお嬢ー!」

「探したんですよお嬢ー!」

「お嬢! お嬢! お嬢!」


胴上げされ宙を舞うお嬢、胴上げしている3人は嬉し泣きで虹を作っている。

池の水笠が少し増した。


「なんか人が良さそうな奴らだな…」

「そうであるな…」

「そうですね…」



この感情の起伏具合…

どっかで見たことあるんだが…



松本の脳裏で手を振る少年と少女と両親。



あぁ、カイとミリーと両親だ…



既視感の正体が分かりスッキリした。


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