100話目【集う領主達】
長いテーブルを挟み座る7人の男女。
王都ベルジャーノの領主、レジャーノ・パルメザ伯爵
自由都市ダブナルの領主、ロックフォール・ペニシリ伯爵
地方都市ウルダの領主、ルート・キャロル伯爵
至高都市カースマルツゥの領主、フラミルド・サルデーニ伯爵
高地サントモールの領主、ロワール・ゴート伯爵
水上都市リコッタの領主、ホエイ・コッタ伯爵
古のカンタルの領主、フルムド・アントル伯爵
カード王の要請により招集された各地の領主達である。
カード王不在の中、フラミルド伯爵は向かいに座る相手を睨みつけていた。
「ロックフォール伯爵、先日耳にしたのですが、ウルダの民に魔道義足与えたそうですね。
自身の収めるダブナルなら分かりますが、何故ウルダの民に?」
「私が与えたのは魔道義足ではなく、あくまでウルダ祭の賞品ですよフラミルド伯爵。
魔道義足は少女に求められただけで、私が進んで与えた物ではありませんよ。
足を失った父の為に果敢に剣を振るう娘、実に美しいではありませんか」
「魔道義足は大変高価な品、例え祭りの賞品であったとしても、
貴族や高位の冒険者ならいざ知らず、庶民に与えるなど…
ルート伯爵の顔に泥を塗るとは思わなかったのですか?」
「高価だからこそ、少女は微かな機会に掛け、そして自らの力で掴み取ったのです。
賞品が高価だからと言って、約束を反故にすることなどできませんよ。
貴族たるもの、民の手本にならねばいけませんからねぇ。
それに、何故、私が魔道義足を与えることが
ルート伯爵の顔に泥を塗ることになるのかわかりませんね」
「しらじらしい、ルート伯爵を差し置き、過度な施しを与えるということは
ウルダの民に、ルート伯爵が統治する者として力足らずであると公言するようなもの、
威厳を損なわせる行為に他ならない!
今後一切、他の領地への過度な施しを行わないで頂きたい!」
怒気を強めるフラミルド伯爵をルート伯爵が諫める。
「フラミルド伯爵、私としては今回の件、大変有難く思っている。
魔道義足によって父は足と仕事を取り戻し、家族は笑顔を取り戻した。
民が幸せであるなら、それでよいではないか」
「お言葉ですがルート伯爵、国を成すは領地、領地を成すは民、
他の領地に過度な施しを与えることは、民を勧誘し、
領主の威厳を貶め、領地の地盤揺るがせることになります。
つまりは、実質的な他の領地への侵略ということになるのですよ」
「国を成すのは領地、領地を成すのは民、つまりは国とは民。
とすれば、他の領地を侵略する意味などない。
全ては同じ、等しく尊いカード国の民なのだ。
その民が幸せになることの何処に問題があるのだ?」
「民の幸せは問題ありません、私も常に願っています。
問題なのは過度な施し、魔道義足、いえ、魔道補助具です。
私が以前より警告している通り、あれは危険な研究なのです。
体の一部が代用可能となれば、いずれは全身、最終的には不死の身体に至るかもしれません。
それは世の理を曲げる行い、人が踏み込んで良い領域ではないのです」
沈黙していたレジャーノ伯爵が口を開く。
「魔道補助具に関してはカード王より正式に認可を得ている。
研究結果も全て報告するように厳命され、
カード王の名の下に進められている民の為の政策だ。
フラミルド伯爵、我らがカード王の決定に異議を唱えるのか?」
「い、いえ…そのようなことは…」
レジャーノ伯爵に睨まれ静まるフラミルド伯爵。
「あまり睨むでないレジャーノ、フラミルドが怯えておる。
お主に睨まれると魔物も逃げ出すからな」
部屋に入って来たカード王を見て全領主が立ち上がり頭を下げた。
「そう畏まるでない、皆座ってくれ」
『 っは! 』
着席する領主達。
「フラミルドよ、何もお主の意見を軽視しているわけでは無い。
お主の心配するようなことにはならぬ、そうであろうロックフォール」
「その通りですカード王、魔道補助具が適応できるのは手足などの末端のみです。
頭や胴体の人間の生命維持に関わる箇所は技術上不可能です」
「そういうことだ、安心するのだフラミルド」
「っは」
カード王に頭を下げるフラミルド。
「それでは本題に入ろう、今ある事実と、それによる仮説、今後の方針について話す。
皆、心して聞くのだ、先ずは先日の襲撃に関して…」
カード王の言葉を領主達は黙って聞いた。
「仮説とはいえ可能性がある以上最大の対策するべきだ、
今後は各地への光魔法の布教に努め、半年毎の襲撃に備えることとする。
既に光筋教団には布教のために動いて貰っているゆえ、各々連携を取り民を守って欲しい」
『 っは! 』
フラミルド伯爵が王へ問う。
「カード王、魔王の件は民へはなんと?」
「主要な者を除き、現在不確定である魔王の件は伏せることとする」
「何故ですか? 伏せてもいずれ明るみになるでしょう。
敢えて伏せていたとなれば、民はカード王に対し猜疑心を抱きます」
「分かっておる、しかし、知れば自暴自棄になる者も出てくるだろう。
残念なことに人の道を踏み外す者もいる、明日があるからこそ人は生きてゆけるのだ」
「なるほど」
「魔王に関しては先の通りだが、魔族に関しては準備が出来次第通知を出す。
以上である、皆、民を頼むぞ」
『 っは! 』
領主達は部屋を後にした。
解散した後、別な部屋に3人の男と1人の女が集まっていた。
カード王、レジャーノ伯爵、ロックフォール伯爵、フルムド伯爵である。
「仮説が正しいとすると、魔王の復活は止められませんね」
「フルムドの言う通りだ、恐らく時間の問題であろう。
だが光魔法を普及させれば襲撃による被害を減らすことが出来る。
あのような悲劇、二度と起こさせてはならぬ」
「その通りです」
「胸が痛みます」
カード王に賛同するレジャーノ伯爵とロックフォール伯爵。
「ロックフォール、箱舟はどうなっておる?」
「問題ありません、既に準備は整っております」
「守り人はどうだ?」
「残念ですが…」
「仕方あるまい、時が来たら箱舟だけでも作動させるのだ」
「畏まりました」
フルムド伯爵がレジャーノ伯爵に尋ねる。
「レジャーノ伯爵、シード計画のことは先程の席で説明してもよかたったのでは?
その方が魔道補助具の普及も進み、守り人の完成も近づくと思うんですけど」
「駄目だ、フラミルド伯爵には隣国であるタルタ国の影が見える。
必要に魔道補助具を非難するのは本心もあるだろうが、タルタ国の影響が大きい。
守り人のことを知れば、どんな手を使ってでも奪いに来るだろう」
「確かに、守り人の技術を完成させれば理論上、不死の軍団も可能ですからね。
倫理的な問題はありますが、今のタルタ王ならやりかねない」
「どんなものでも使い方次第だ、魔道補助具の技術も正しく使用すれば有益だが、
悪用されれば魔王を待たずして国が亡ぶことになる」
ロックフォール伯爵がフルムド伯爵に尋ねる。
「フルムド伯爵、過去の魔王に関する新しい情報はないのですか?」
「いくつかそれっぽい資料が見つかっているのですが、解読が出来ていないんです。
出来る限り努力はしているのですか、申し訳ありません」
「新たな資料が解読出来れば魔王討伐の糸口になるかもしれません。
私の方でも光の勇者に関して調べています、進展があれば連絡しますので、
そちらの方もお願いしますよ」
「分かりました」
「前回の魔王は異世界から来た3人の勇者によって討伐された、
だが、今回は勇者はおらぬ、討伐が滅亡か…
レジャーノ、ロックフォール、フルムド、いったい魔王とは何なのだろうな…」
王の問いかけに答える者はおらず、そこにはただ沈黙があった。




