10話目【待望の焼きナーン貝】
村を照らし異形の侵略者を消し去った光を見て松本は驚愕していた。
「一瞬昼みたいだったな」
侵略者は消えた後も村人は慌ただしかった、
ケガ人を手当てし、火事を消化し、見張りを行っていた。
「あれはいったい何だったんだ?
ポンコツ神の話だと平和な世界のはずだけど…
まぁせっかく村を見つけたんだし後で聞いてみるか」
村が落ち着くのを待ち、入り口で見張りをしている人に話しかけることにした。
「あの~すみませーん、いったい何があったんですか?」
「ん? あぁ、昨晩村が襲われて…いや…お前の方こそ何があったよ?」
「見慣れない坊主だな、服はどうした? ウィンナー丸出しじゃねぇか」
「まぁ、お気になさらず、服持ってないんで」
「いや…気になるだろ普通…」
「なんで全裸で堂々としてるんだお前…」
持たざる者の松本、少年ハートは無敵だった
「服ないって、盗賊にでも襲われたんか坊主?」
「そのデカいヤツはなんなんだ?」
「まぁいろいろあって…これはナーン貝ですよ、オッチャン達知らないんですかこれ?」
「ナーン貝? 初めて見たな」
「まぁ、勝手にナーン貝って呼んでるんですけどね、森の奥の浜辺で拾いました」
「浜辺? そんなのあったかねぇ?」
「お前、どこの森から来たんだ?」
「あっちですけど?」
来た森を指さす松本。
「お前、あの森に入ったんか? あそこは神聖な場所だからあんまり近寄っちゃいかんぞ」
「入ったら駄目だったんですかあの森?」
「いや駄目じゃねぇが、この辺の村人はあまり近寄らねぇな」
「言い伝えでな、光の精霊様の森らしいのよ、まぁ誰も見たことないけどな」
「昔っからの言い伝えってヤツよ、今じゃ光魔法は棄てれちまって」
「しかし服は着てねぇし、森のことも知らねぇってことは、この辺の子供じゃねぇな坊主」
「(まずい…流石に普通の人に転生したなんて言えないし…)
いっ、いやぁ…じっ実は記憶がなくて…はははは…」
顔を見合わせ松本の肩にそっと手を置くオジサン達。
「なんだぁ坊主…お互い災難だな」
「まぁ元気だせよ…とりあえずこの布でも使え坊主…」
「あ、ありがとう御座います~」
こうして松本は転生生活10日目にして布を手に入れたのだった。
「それで、何があったんですか?」
ナーン貝を家屋の灰で焼きながら尋ねる松本。
「いや~よく解らねぇ、何者かに村を襲われたのは間違いねぇんだが…」
「ありゃ人間じゃなかったな、亜人でも魔物でもなぇ、初めて見る奴らだった」
「もしかすると言い伝えにある魔族かもしれねぇな」
「言い伝えですか、今は魔族はいないんですか?}
「いねぇな、大昔に勇者様が魔王を討伐されてからはいねぇ筈だ」
「あの青年は何だったんだろうな? 空中で急にピカッっと光ってよ~
俺はあれが光魔法ってヤツだと思うね、空を飛んでたのはよく分からねぇけど」
「なんにしても助かったな、礼を言いてぇが何処にもいねぇんだと」
「(魔族か…光魔法は魔族に有効だと光の精霊様が言ってたけど…
まぁでも普通の武器でも戦えてたしな、まぁ今は村を何とかする方が先だな)
おぉ~焼けて来た」
焼け始めたナーン貝は殻の隙間から泡を噴いている。
「オッチャン達、これもう少ししたら裏返して欲しいんですけど」
「おういいぞ、やっとくやっとく」
「しかしこれ食えるんか?」
「一部なら生でもイケました」
松本はオッチャン達にナーン貝を任せ村の様子を確認することにした。
「死者はいねぇようだ、なんとか守り切ったな」
「本当であれば俺は死んでいたよ、誰だったんだあの青年は?」
「わからん、そろそろいけるかバトー?」
「大丈夫だ、早いとこ傷を治して復旧しよう」
「お~い、マナが回復したらヤツから手当を再開してくれ~、
動けるようになったら村の柵を直すぞ~!」」
先陣で戦っていた屈強な男達が手当てをしながら話をしている。
回復魔法で応急処理したケガ人を治療するようだ。
「(回復魔法かぁ…俺では役に立たんな、他をあたろう)」
自分が手伝えることを探すことにした松本。
「お爺さん大丈夫ですか? 何か手伝いましょうか?」
「ありがとう坊や、ワシは大丈夫だ、それより坊主の方が大丈夫か? 服はどうした?」
「大丈夫です、お気になさらず」
「少年よ大丈夫かね?」
「ケガはさっき魔法でで直したから大丈夫だよ、お兄ちゃんこそ大丈夫? 服燃えちゃったの?」
「ははは、そんなところさ、気にしないで」
「お姉さん大丈夫ですか? 何か手伝いましょうか?」
「ありがとう、私はケガしてないわ、それより坊や、かわいいウィンナーが見えてるわよ」
「一応腰布巻いてますんで、気づかなかったことにして下さい」
声を掛ける度に帰ってくる反応はウィンナーばかり。
「(逆に心配されとるやないかぁぁぁい!)」
広場で膝を付く松本。
「建物の状況はどう?」
「かなりまずわね…家の半分は燃えちゃってる、私のお店も…それより食糧庫が焼けちゃってるわ」
「そうかぁ…僕の店も焼けてたよ、あと畑も…食糧はウルダまで買いに行くしかないね」
「ウルダまでは往復10日は掛かるわ、みんな疲れているし子供達も…それまで持つかしら?」
「買出しに行く人に残りの食料を持たせましょ、厳しいけど村はなんとかするしかないわ」
「(…お? 食糧庫が焼けたか…フランスパンでも多少の足しにはなるか?)」
青年とマダム3人が深刻な顔をしている。
「あの~パンならありますけど…」
「ん? 見ない顔だね、どうしんだい少年? いやほんとにどうしたのその格好は?」
「お気になさらず」
「いや、ほぼ全裸だし…」
「巻いてますんで」
「いや、そうはいっても全r」
「巻いてますんで」
「そ、そう…(なんで堂々としているんだこの少年…)」
「それより、1日1個位ならパン出せますけど、よければ食料の足しに…」
「パンを出す?」
「いやまぁ、俺もよく分かってないんですけど、うぉぉぉ…はぁはぁ…こんな感じで…」
ポンッっと松本の手に1mほどのフランスパンが出現し目を丸くする青年。
「…なんでパンが? それより君大丈夫?」
「だ…はぁはぁ…だいじょう…ぶ…ですよ?」
「いや…大丈夫そうには見えないんだけど…なんかやつれてない?」
「そ…それより…これ食べられます? 一応俺は食べられますけど」
フランスパンを毟り齧る青年とマダム。
「…普通にパンだね」
「うん…まぁ結構おいしいわね」
「何にせよ今はあるだけ有難いわ、あてにさせて貰ってもいいからしら坊や?」
「たいした量ではありませんけど、いいですよ」
「そうと決まれば早速買出しに行かせて、とにかく食べ物が必要よ」
買出しの馬車を見送り、フランスパンを青年に渡すと香ばしい磯野香りが漂ってきた。
「お~い坊主、焼けたぞ~」
「早くこっちこ~い」
松本の待ちに待った焼きナーン貝が完成したようだ。
2枚の殻はきれいに空き、片側にギッチリ詰まった身がグツグツと音を立てている。
「結構うまそうだな」
「いい匂いがする~なにこれ~?」
松本より先に村人達が集まっていた。
「お、来た来た、あの坊主が持って来たんだよ」
「坊主食べてみてくれよ、なんだか旨そうだ」
端っこをちぎり松本が試食する、村人達は反応を伺っている。
「あづづ…でもうま~い、甘しょっぱい、結構味濃いですよ」
グゥ~っと村人達の腹の虫が鳴いた、小さな子供が指を咥えている。
「せっかくだから皆さんで食べてください、結構おいしいですよ!」
「いいの^? やったぁ!」
「いいのか坊主、助かるぜ!」
「お皿持ってきましょ、何人か手伝ってちょうだい」
「少年からパンも貰っているよ~、少しずつみんなで分けよう」
ナーン貝を囲む村人達、量は少ないが笑顔が溢れていた。
「ぐおぉぉ…」
「おい坊主…無理するなって…」
「もう十分だって…ほんと無理しない方か…」
「いけるさ、気合が大切だ少年」
「はぁはぁ…何とか…いけそうな予感がぐぉぉぉ…」
ポンッ
バタッ…
『 坊主ぅぅ! 』
村人達の喜ぶ顔を見て調子に乗った松本は、
自己最高記録となる1日3個目のフランスパンを捻出し気絶したのだった




