表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

小説家になろう 2021 夏のホラー

『小人さん』

作者: 木尾方


この地は、『鬼塚おにずか』と呼ばれていて、昔からの住民の多くは、何故か名前に鬼がついていた。


鬼塚町にある、この市立鬼塚小学校は町を見下ろすように山の中腹ちゅうふくに建てられていた。


どこの学校にも、怪談話かいだんばなし七不思議ななふしぎがあるだろう。


もちろん、この小学校にもある。その1つが『かくれんぼ』だ。




今は7月半ば、梅雨明けは、月末との予報だった。



(5年1組の教室)

「雨が降りそうですから、いつも以上に気をつけて帰ってください。」

『はーい』「起立」「礼」『さようなら~。』

「はい、さようなら。」

ガヤガヤ、ドタドタ。



「おい、純也。本当にやるのか?」

「だって、しょうがないだろ。壊れちゃったんだから」

「となりのクラスの女子も やってみたらしいけど、ダメだったみたいだぜ。」

「ま、頑張れよ。純也 先に鬼屋おにやの家に行ってるからな。」

「おう。直ったら直ぐに行くよ。」


そして、放課後の教室には、純也と言う少年1人だけが残った。


少年は、ランドセルからゲームのコントローラーを取り出した。

「昨日、アタマにきて ぶん投げたのが悪かったんだなぁ。ちきしょう。直ればいいけど。」

そう言いながら、コントローラーを教壇きょうだんの下に見えないように置き、自分は、教室の後ろで背を向けうずくまり 100数えてこう言い出した。


「小人さん、小人さん、もういいかい?」

「……………」


今度は、50数え また言った。


「小人さん、もういいかい?」

「……………」


すると、教室の戸が開いた。

ガラガラガラガラ

少年は、ビックリして、扉の方を見た。


「コラ、天鬼純也あまきじゅんやさん 何してるの? 帰りなさい。」

担任の越生美千代おごせみちよだった。


「なんだ、先生かよ。ビックリさせないで。」

「なんだじゃないでしょ。下校時刻げこうじこくは過ぎてますよ。」

「ちぇ、直せると思ったのに。先生、さよなら。」

そう言って少年は、教壇の下のコントローラーを取って教室を後にした。


「まったく、仕方ないわね。」



職員室に戻ると美千代の向かい席に座る。男性教員が話しかけてきた。

「越生主任、例の『かくれんぼ』ですか?」

「そのようです。」

「僕は、地元じゃないので、ここの七不思議は、知らないのですが、本当なのですか?」

志木しき先生まで、本当な訳ないでしょ。私が、ここに通っていた頃『小人さん』と呼ばれてて、そんな遊びもありましたが、ただの子供達の願望ですよ。」

「そうですか。いや、残念だなぁ」

「…志木先生、何か直したい物でもあるのですか?」

「………いや、ないですけど。あったらいいなぁって」はははは。

「まったく、天鬼あまきさん と一緒。」と小さな声でつぶやいた。

「越生主任、何か言いました?」

「いえ、何も。」


仕事が一段落いちだんらくし、時計を見る 美千代。

「…残りは、家でやろ……すみません。子供の迎えの時間も近いので、先に上がらせてもらいます。」


他の教員から「お疲れ様です。」の言葉が出た。


美千代は、自分のカードを学校のセキュリティの機械に通して勤務を終えた。


子供の迎える時間に多少の余裕があったが、いつもと一緒の急いでいるペースで車に乗り込み、車を発信させた。


20分ほど走ると息子が通っている学校の駐車場に着いた。いつもより15分ほど早い。

10分だけ休もうと美千代は、車のエンジンを切りハンドルに体重をかけた。


強い雨が降り始めた。バチ、バチ、バチバチバチ…


「ふぅ。」


ふと、今日の『かくれんぼ』のことが頭をよぎった。


「……なおす。」


越生美千代が勤める小学校、いや、通っていた小学校の七不思議には、どういう訳か、他の学校には無い昔からの話がある。


『かくれんぼ』もしくは『小人さん』と呼ばれた。


壊れたモノをなおしてくれる不思議な不思議な怪談話


人気ひとけがなければ、学校のどこでもかまわないので、壊れたモノを何処かに隠す。

そして、自分は、そこから離れて、身をせて、目をつぶり 100数える。数える終えたら「もういいかい?」と聞く。返事がなければ、50数え、また「もういいかい?」と聞く。

すると「ま~だだよ。」と声が聞こえる。再び、50数えて、また「もういいかい?」と聞く。「ま~だだよ。」ならもう1回、「もういいよ。」との言葉が聞こえたなら、起き上がり壊れたモノを置いた所に行く。

すると、置いたモノが無くなっているのだ。

無くなっているのを確認したら、「私の負け。もう1回、おにやるね。」と言い。

最初の場所に戻り、身を伏せ100数える。

「もういいかい?」の言葉に、「ま~だだよ。」なら、もう1回。 「もういいよ。」なら壊れたモノの場所に行く。今度は、さっき無かったはずの壊れたモノがあるのだ。

そしたら、「見~つけた。」と言う。

すると、どういうわけか、先ほどまで壊れていたモノが、なおって帰ってきてるのだ。


『小人さん』と言う時代もあったが、今は、『かくれんぼ』と言うのに戻ってしまっている。



「バカバカしい。」そうつぶやくと、子供を迎えに駐車場をでた。


美千代は、特別支援学校の文字がある門をまたいだ。

美千代の子供、賢太郎けんたろうは いわゆる発達障害の子供だ。


ADHD(多動性症候群)だ。

不注意、落ち着きのなさ、衝動性が特徴が代表的な症状である。


傘を出し、雨の中、補助員と他の保護者との挨拶も そこそこに、賢太郎を助手席に乗せようとした。

賢太郎は、雨に興奮し、なかなか乗ろうとしなかった。

「賢太郎、お願い、乗って、早く。」

「あぁ、いやぁだぁ。」とだだをこねる。

「お願い。お母さん、濡れちゃうよ。」

「あぁ、あぁ。」

無理やりに助手席に乗せて、走って運転席に座った。

「もう、賢太郎。何で言うこと聞けないの? お母さん、ずぶ濡れじゃない。」

「ふん。」と、そっぽを向く賢太郎。

「ちゃんと座っているのよ。」

運転中に賢太郎が、どんな行動をとるかわからないので、必ず助手席に乗てせる。以前、後部座席に座らせていたとき、チャイルドロックもかけ内側から開けられないようにし、窓も開かないようにしていたが、賢太郎は、じゃれてやったことだろうが、後ろから美千代の体を揺すり危うく事故を起こすことがあったのだ。


「賢太郎、今日も学校楽しかった?」

「……うん。うん。うん。」

「よかったわね。」

いつもと同じ、言葉を交わし帰路につく。


ここの、特別支援学校は、授業が終わったあとも、17時半まで生徒を預かってくれる児童館じどうかんがあった。美千代は、それを使って17時に職場を出ればお迎えに間に合う。普段はいつもギリギリの時間に到着していた。


たまに、19時まで預かってくれる放課後デイサービスを使う事もあるが、施設が離れている為なかなか利用ができなかった。


帰宅し、賢太郎を風呂に入れて、ご飯を食べさせ、遊ばせて、疲れさせて寝かせる。

毎日、毎日、この繰り返しだった。


美千代は、スマホを取り出し、電話をかけ始めた。

トゥルル、トゥルル、10コールほどして、つながった。

「賢介さん。寝てた?」かけた相手は旦那の賢介けんすけだった。

「いや、風呂入っていた。」

「ごめんなさい。賢太郎が寝たら、電話をかける約束だから」

「あぁ。」

「どう、仕事は? こっちに戻れそう?」

「いや、まだ忙しくて。」

「そうですか。せめて、お盆には帰って来て。今年、まだ賢太郎と会ってないでしょ。」

「…わかっては要るが、こっちの仕事もわかってくれ。」

「ごめんなさい。お疲れの所。また明日、電話します。今日の賢太郎の写真、LINEで送っておきますね。」

「あぁ、おやすみ。」ピッ

呆気なく、電話が終わった。


美千代は、解ってはいたが、言葉には出さなかった。

美千代と賢介は、美千代の両親の知り合いが勧めたお見合いで結婚したのだ。30近くになって お見合い結婚。賢介は普通のサラリーマンだが、優しかった。安いが新築のマイホームも建てた。順風満帆じゅんぷうまんぱんだった。美千代が30歳の時に賢太郎を出産した。賢太郎が保育園の頃、ADHDと診断されたのだった。そこからの美千代の人生は一変した。

旦那が冷たくなり、賢介は「地元に居たほうが、お義父さん、お義母さんも居るから安心だろ。」と言い単身赴任で数年前に地方へ出て行ってしまったのだ。今、思うと自分から転勤願いをだしたのかとさえ思ってしまっていた。

美千代の母親も、賢太郎が発達障害と知ると手のひらを返すように孫の世話をしなくなった。

家庭を壊したくない一心で美千代は1人頑張っていた。


「いけない。残りの仕事しないと」


美千代は、現実逃避するように、散らかった部屋の電気を消し、スタンドライトのみで仕事を始めた。


また、明日、毎日が始まる。


数日後


学校が終わり、スマホを開くと、着信が20件以上入っていた。

「何?」

母親からだった。

スマホの登録画面に『母』とだけ書かれた画面をタッチした。

トゥルル、すぐに母親が出た。

「何で、電話でないのよ。」

「出れるわけないでしょ。授業中なのよ。」

「お父さんが、仕事で右手と右足、骨折したの。」

「え!大丈夫なの?」

「全治2ヶ月だって、今から入院」

「…わかった。今日は無理だけど、明日、賢太郎をデイサービスに預けてから病院行くから、必要な物あった連絡ちょうだい」

病院の部屋を聞き、連絡を切った。



翌日、4人部屋の病室に 荒鬼太蔵あらきたいぞうと書かれた札を確認すると、病室の中に入った。

「失礼します。」奥、窓際のカーテンを覗くと、父親が耳にイヤホンを付けテレビを見ていた。

「お父さん、大丈夫?」

「おー、美千代。来てくれたのか。あはは、屋根から落っこちてしまったよ。」

美千代の父親 太蔵は、昔気質むかしかたぎの大工だ。

「もう、若くないのだから、無理はしないで。歩けなくなったら大変よ。」

「大丈夫やって。骨も綺麗に折れてるだけだし、頭にも異常はなさそうだし」

「お母さんは?」

「下の待合で近所のババァとしゃべってなかったか?」

「いや、見なかったけど。」

「そうか。」

母親と会わないで居られると思うと、ほっとした表情をした。

「賢太郎は、どうだ。」

「うん。変わらないよ。」

「そうか。」

父親は、賢太郎を気にかけていてくれいた。母親には内緒で、軽トラで、賢太郎の送迎もしてくれたり、仕事と嘘をついては、休日に、顔を見に来てくれていた。

美千代は、父親が居なかったら、どうなっていただろうと思ってもいた。



小1時間ほど、父親の世話をして、帰えろうとしたとき、母親が戻ってきたのだった。

「あら、来てたの?」

「来るって言ったじゃない。」

「もう、帰るの?」

美千代は、カチンときた。

「1時間も お父様 ほっといたのはお母さんじゃない。」

「美千代、お父さんは大丈夫だから、落ち着きなさい。」

「落ち着いてるわよ。」

「何よ。1時間ぐらいで、大げさな。賢介さんは、何年あなたをほっといているのですかしら?」

みるみるうちに、美千代の顔が憤怒ふんぬの表情になった。

「な、なによ。美千代 その顔は、本当の事を言っただけじゃない。まったく、今さらだけど、お見合い失敗だったわね。」

「うわぁぁぁぁ!!!」

手に持っていたバックで母親を叩き、そのまま病院を出ていった。


「来るんじゃなかった。」涙を流しながら、賢太郎の待つデイサービスに向かった。


翌日、さんざん泣き腫らした赤い目で授業を行っていた。

美千代は、授業をしながら、頭では別のことを考えていた。


何が違うのだろう? 

何が違っていたのだろう。

どこで、間違った?

わたしは、親の言うことを聞いただけだ。

教え子達と賢太郎、年は一緒なのに、どこが違うの?

なんで、みんな賢太郎を避けるの?

賢太郎は、悪くない。

悪いのは誰?

わたし?


キン、コン、カン、コーン。

キン、コン、カン、コーン。


「…先生、先生。」

「先生、チャイム鳴ってますよ。」


「あ、ごめんなさい。終わりにしますね。」



梅雨が明け、生徒達が夏休みに入った。


賢太郎は、夏休みの学校行事以外はデイサービスを利用するが、父親が入院している為、普段の日より、多忙となってしまった。


学校が夏休みに入ってからの美千代の毎日のルーティングは、主にこのようだった。


朝方の4時に起床、風呂に入り、自分の身支度。5時朝食準備と弁当作りに取りかかり、5時半には賢太郎を起こす。6時半までに賢太郎の身支度を整え食事をさせる。7時前に賢太郎を車に乗せ、送迎サービスまで送り、自分は、遅くとも、生徒が居ないので、8時頃には職場に到着する。普段疎ふだんおろそかになっている仕事をこなして、18時半には、賢太郎を迎えに行く。19時過ぎ、帰宅し、賢太郎を風呂に入れ、食事を作り、遊んでいるときに、掃除洗濯をし、寝かし付け、主人に電話をかけ、朝と夜の水回りの片付けをして、仕事をして、0時過ぎに就寝する。そして、父親の見舞いに、賢太郎の有事の際には、突如として動かなければならなかった。


お盆には、賢介さん が帰って来る。その時に、『限界』だと話そうと思っていた。


お盆前の水曜日、仕事を早退し賢太郎を迎えに行く途中、実家により父親の様子を伺いに訪れていた。


「どう?リハビリしてる?」

「あぁ、もう足の方は大丈夫だ。手も、もうじきだろ。そしたら、賢太郎 学校に送っていってやるからな。」

「…ありがとう。」

「何?その話?」キッチンから母親が話に割り込んできた。

「別にいいだろう。わしが、勝手にやってることだ。」

また、いがみ合いが始まってしまった。

「ダメよ。おとうさん、ケガしてるし、何かあったら、どう責任をとるの?」

「そんなこと、言ったてな。美千代が かわいそうだと思わないのか?」

「かわいそう?お父さん?私の事そんなふうに見てたの?」

「だって、そうだろ。1人で賢太郎の面倒をみて。」

「そうよ。賢介さんは、何やってるの?ちゃんと話し合ってるの?まったく、だいたい最初から、乗り気じゃなかったのよ。お見合いなんて。」

「おまえ、そんな事、言うもんじゃない。」

「あなたたち、賢介さんに捨てられたんじゃないの?」

「おま…」

「もうやめて!!!!」

「美千代。お父さんな、お前の事思ってだな。」

「……もう、いい。わたし帰る。」



賢太郎を迎えに行き、帰宅し、いつもと同じ事をする。美千代は抜け殻のようになりながらも、家事をこなしていた。


「賢介さんに連絡しないと。」もう、LINEのチャットには、既読の文字がつかなくなっていた。


トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、『電話をかけましたが、お出になりません。』


ピッ


トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、『電話をかけましたが、お出になりません。』


ピッ


トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル。


「はい。」

「賢介さん。ごめんなさい。寝てた?」

「あ、あぁ。」

「ねぇ、今週末には、こっちに帰って来るでしょ? 久しぶりに家族でどっかに行きません? 施設の方から、賢太郎が泊まれる民宿を紹介してもらったの? どう?」


「……美千代。」

「はい。」

「……帰るつもりはない。終わりにしよう。後のことは、弁護士を立てるから、養育費よういくひなどは、そっちと決めてくれ。」


電話が切れた。


「……そうだ。賢介さんに、賢太郎の写真を送らないと。」


寝室へ向かう美千代。


賢太郎の部屋を開け、寝顔を見た。


「なんて、かわいいのかしら…。」


しばらく、賢太郎の寝顔をベットの脇に立ち上から眺めていた。

そして…

美千代はベットに上り、賢太郎をまたぎ両手を首にあてた。

ギュッと力を込めて首を締める。

「う、ぁ、がぁ、あ。おか」

苦しむ賢太郎

「ごめんね。ごめんね。お母さん、こわれちゃった。」

泣きながら、ますます首に力を込めた。

賢太郎の指が首を締める美千代の手に刺さる。

母親を見つめる賢太郎、しかし、美千代は賢太郎を見ることはなかった。

1分、2分、と段々と抵抗する力が無くなる。

そして、動かなくなった。

力を緩める美千代。手首には、沢山の引っき傷から血が出てた。


「お、おぉぉぉぉぉ、あぁぁぁぁ…。」

声を出し、泣き叫ぶ美千代。

「なんてことを、私は最愛の息子を殺してしまった。」お、おぉぉぉぉ。



しばら放心状態ほうしんじょうたいだったが、何かを思い出したようだった。

「そうだ、賢太郎を……。」


美千代は賢太郎を抱きかかえ、車の助手席に座らせ、シートベルトを締めて、山の中腹にある勤務先の学校に向かった。


深夜の道、対向車もなく、いつもと同じスピードなのに、やたらと遠くに感じる。



学校に着いたのは、真夜中の0時過ぎであった。

賢太郎を抱きかかえ、学校の鍵を開ける、真っ暗な廊下にセキュリティー解除の警告音けいこくおんひびいた。

電気も点けずにセキュリティーカードで解除かいじょする。静寂せいじゃくが訪れたと同時に職員室に1本の電話がなった。

トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、ガチャ。

「はい。」

「夜分、すみません。セキュリティー会社の者ですが いかがなされました?」

「すみません。大事な用事で。」ガチャ。電話を切ってしまった。


暗闇の中、賢太郎を3階にある自分の教室の児童椅子いすに座らせ、美千代は、1階の職員室に とぼとぼと戻り、自分の椅子に腰掛けて、両手を顔の前で重ねて100数え始めた。


「1、2、3…97、98、99、100……小人さん、小人さん。もういいかい?」

「……」

「小人さん、小人さん。もういいかい?」

返事はなかった。

今度は50まで、数え始めた。泣き声になっていた。

「1、2…48、49、50。小人さん。もういいかい?」

「……」

静寂だった。

美千代は、大声を出した。

「ねぇ!小人さん。返事してよ!ねぇ!」

すると、後ろからかすかな声がした。

「まだだよ。」

「!」

再び数え始める美千代。急ぎ声だった。

「…48、49、50。小人さん!もういいかい?……も、もういいかい?」

今度ははっきりと聞こえた。

「もういいよ。」

急いで、職員室を出て、駆け足で階段を上がる。教室の扉を開ける。ガラガラガラ!

「け、賢太郎!」

いるはずの賢太郎がいなかった。美千代は、手順通りに言葉をだした。

「わ、私の負け。もう一回 鬼をするわ。」

教室の扉を閉じて廊下を走り、階段を降りる途中で山を上がってくる車の存在に気づいた。

セキュリティー会社の車だ。たぶんパトカーも直ぐに来るだろう。


職員室に戻り、また100数え始めた。

早く、早く。「…97、98、99、100!小人さん!もういいかい?もういいかい?」

「…まだだよ。」

早く、早く。「…48、49、50!もういいかい!ねぇ、もういいでしょ?」

「………まだだよ。」

「な、なんでよ。1、2、3…48、49、50!小人さん!早く!もう、いいかい!もういいかい!」叫ぶ美千代。



「もう、いいよ。」



駆け足で職員室を出た美千代。窓にはセキュリティー会社の青い回転灯かいてんとうと、警察の赤い回転灯が光ってた。


美千代は、階段を上がる矢先に学校に入って来た警官に見つかってしまった。

急いで階段を上がる美千代。懐中電灯かいちゅうでんとうをかざして追いかける警官。

「待ちなさい!ここで、何をしてる!」

みるみるうちにちじまってくる。

「コラ!待ちなさい!」

あと少し、あと少しで教室に着く。

警官達も3階にたどり着いた。


美千代が教室の扉を開けた。ガラガラ…



「…み、見つけた。」う、うぅ…



「コラ、おとなしくしなさい。」警官が美千代の手をつかんだ。

その場に座り込む美千代。

「なにやってんの?なんで逃げる?」そんな言葉など耳には入らない。

そこに、賢太郎がいるのだ。


母親に近づく賢太郎。



「お母さん。どうしたの?」



その一言に、警官を振り切り息子を抱きしめ泣きに泣いた。


「賢太郎、ごめんね。ごめんね。お母さん、鬼になっていたよ。」






この『鬼塚』には、 古い言い伝えがあった。


昔、昔、まだこの地が『鬼塚』と呼ばれてなかった頃


村に疫病が流行りだした。

何人もの村人が死んだ。

そして、村人たちは、病気が移るのを恐れて、病人を山の中腹に追いって捨てたのだった。

村に住む3人家族の息子が病にかかってしまった。

山へ捨てないと村八分にされてしまう。男は意を決して、10歳になる息子を山へと連れて行こうとした。しかし、妻が「まだだよ。まだ、息子と離れてたくない。まだだよ。」しかし、男は「もう、ええ。もう、ええ。」と言い。病気の息子を山の中腹に連れて置いて来たのだった。 妻は1日中 泣き、そして、山へと息子を探しに行った。しかし、そこにあるはずの息子がいなかったのだ。高熱で動けるはずもない息子。探して探した。先に死んで山に捨てた村人の死体はあるのに息子がいない。息子が野犬に食われた痕跡もない。途方にくれ村へ帰る途中、他の発病した子供達を山に捨てる住人達と すれ違いながら家へと帰った。妻は、男に泣きながら「まだ、10だよ。まだ、10だよ。」と言い、男は「もう、ええ。もう、ええ。」と妻をなだめた。

それから、1か月ちかく経った ある日 男 と その妻の元に、いなくなった息子が帰って来たのである。驚いた二人であったが、大そう喜び合った。しかし、他の家族を失った、住民は、その幸せな家族を許せなかった。「何故?あの家だけ?」「何故?息子は帰って来ない?」「娘は?」「親は?」「…」「そうだ!あの帰って来た子供は鬼じゃ。」「鬼子じゃ。」村人たちは、それぞれ、かまくわなた、木の棒などを持ち その家に訪れた。「鬼を出せ!」「鬼子を殺せ!」とわめき散らし、その家族を殺してしまったのだ。 殺し終えて、その家から出てくると、外には、村人たちの死んだはずの息子、娘達がいたのだった。 しかし、村の住人達は、「まだ、鬼がいる。」「鬼子がいる。」「小鬼だ。」「殺せ。殺せ。」「殺せ。」「殺してしまおう。」

残酷な事が起こってしまった。親が子を殺したのだ。何人もの死んだはずだった人を村人は、また殺したのだ。


そして、殺し終え、自分たちがしてしまった事に呆然ぼうぜんとしていると、足を引きずり、杖をつくそうとその僧に付きう大柄な山男が現れた。その惨劇を見た山男は泣き崩れ、僧は「なんてことを」と自分のがもっと注意をしていればとなげいた。


僧は、村人を集めて、なぜ子供たちが生きているのかを教えた。

「な、なんですと。子供たちの病気は治っていたと?」

「そうじゃ、もう都では その病は治せるのじゃ。しかし、時間と隔離が必要での…ほれ、今、お前さんたちが殺してしまった子供を集めている山男がの山の中で子供を見つけての、山向こうの わしの寺に連れてきたのじゃ、そこで わしが治療し看病しとったのだ。山男は言葉がしゃべれんので、村に伝えることもできずにいたのじゃ。」

「そ、そんな…」村人たちは愕然がくぜんとした。

「病気が治り、村が見えた事で、早く おっとう、.おっかあに無事を知らせたかったのじゃろう。皆、元気に走って行ってしまったわい。もっと、わしが引き留めておけばよかった。…かわいそうなことをした。」


僧と村人たちは、村の見える子供たちを捨てた山の中腹に埋葬し塚を建てた。

村人たちは、子殺しを忘れないように、名前に鬼の字を入れた。





そして、しばらくすると、あるうわさが回った。

この塚に、子を連れてくると、生まれ変わったように別人になるという。





~終~



読んで頂き誠にありがとうございます。


2作目の夏のホラー2021です。


素人文章で、読みづらいと思いますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ