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おかしな夢よ来たれり!巫女侍サキュバスと積んでるエロゲーの長い夜

 セックスしたい巫女侍サキュバスだ。

 ひぐらしの鳴く赤黒の夕陽。

 長く伸びた影が触手のように絡む。

 閉め忘れた遮光カーテンから巫女侍サキュバスが顔を覗けている。

 夜にはまだ早いが、あわてんぼうな夢魔だ。

 紅白の巫女服、グラマラスな胸……いや、無かった。グラマラスなお尻、するりとしなやかな手足に指先と高身長の背丈とあう鋭いオッドアイ、黒に翡翠の瞳、黒に月色の瞳、その瞳も人間とは違う形状でやはり人間という枠のうちにいないのなら、扇情的な彼女はきっとサキュバスなのだろうと感じる。

 エッチしたい。

 童貞だが、覆い被さりたい。

 心の中では思っても、身体は反応しなかった。

 抱きたいと感情しても、まるで台詞を読むキャストのように他人事に思う。

 巫女侍サキュバスは、積んでいるエロゲーを摘む。美しい両方の瞳を歪め、目を細めながら微笑み言う。くるりと、彼女は清楚な乙女に変身した。清楚だが、どこかセクシーを超えた破廉恥な戦闘用の変身スーツ……積んでいるエロゲーのパッケージを飾るヒロインの姿だ。

 巫女侍サキュバスは口を尖らせた。

 思っていたような反応がなかったから。その豊満な肉体美をむさぼる獣性を期待していたのだ。

 次々と『人外のヒロイン』に巫女侍サキュバスは切り替えて変身した。

 翼を腰にもったハーピー、人間のようなガイノイド、下半身が巨大なムカデがいればケンタウロスもマーメイドも、小さくなり妖精になれば、シンプルな耳長のエルフ……巫女侍サキュバスそのものが人外であるというのに、さらに先へ変身を繰り返した。

 巫女侍サキュバスは顎に人差し指を当てて考えながら、君の『好き』は散漫している?と言われた。

 猫のような、しかしまったく違うオッドアイが見つけて離してくれない。

 夢魔のサキュバスは、男の究極の理想を体現すると伝承がある。

 だが、『好き』がわからなくなった人間の前にあらわれたとき、なるほど、こうなるのか。巫女侍サキュバスは、理想を見失っていた。

 うむむ、と巫女侍サキュバスはうなる。

 そのまま諦めて帰ってしまえ。

 確かに、俺の心は空いている。

 社会性から追放された社会性生物はどこにならいられるのだろうか。ささやかなコミュニティを作っても……。

 人間を、同族を失ったわけではない。だが全てを失った。ホモサピエンスではないんだよ。失った家族らは、人間ではないんだよ。初めて作った居場所だ。だけど家族だった連中を失った、奪われ、私の作った私の居場所から、外の人間に追放され、居場所のない人間社会に引き戻された。埋め合わせは、何でなら……知りたいのはこちらのほうだ。

 巫女侍サキュバスは、同じなんだね、とオッドアイを細めて隠した。糸目のような薄い目の女性がそこに立っていた。

 本当の姿はどこにもないんだ。

 だってさ、サキュバスなんだもの。

 巫女侍サキュバスは、面倒な搾精相手に、むしろより楽しみを向けたように、興味か関心、あるいは強い両方の感情を向けてきた。

 好きな形がもうわからない。

 でもこのエロゲーでは抜ける?

 理想かそうでないかはわからないけど、性欲を散らす要素にはなった。

 じゃ、このエロゲーを参考にして、一緒に探していこうよ。

 探すとは何を探す?

 楽しいと思ったことも、嬉しいと思ったことも、すでに久しい過去にかつてあったという程度でしかないものなのに……きっと同じなんだよ、似た者同士なんだ。

 巫女侍サキュバスは、いひひ、と妙な笑い声で連日、夢を犯してきた。

 数々の夢の中で、数々の姿でロール……演劇をして惑わせてきた。

 どんな夢の世界を作られようとも、そこにいるのは巫女侍サキュバス、彼女がただ一人いるだけだ。

 どれほどの姿であっても、人外のオッドアイが見つめる目は変わらない。

 求めなかった心の内側へいる誰かの存在を、巫女侍サキュバスは強引に壁を貫いて居座ろうと自惚れて猛々しい。

 空っぽを満たしていく、空っぽなのだから、押されると流れてくる。

 巫女侍サキュバスは、ただの『食事』あるいは『余興』で楽しんでいるだけのはずだ。

 エロゲーの世界のキャラクターを作っては、彼女はそれになりきっていく。

 下手でダイコンな役者だ。

 ペラペラと設定を付け足して、照れたときほど無駄なことを話す。

 だけど、巫女侍サキュバスが掻き回した世界に絡め取られ、沈んでいく自覚があった。

 夢に溺れていく、それで良いのではないか。

 人間の優しさよりも、巫女侍サキュバスの積極性のほうが心をこじあけてきた。

 人間にできないことを、それならば人間ではない存在ならば……。

 次はどんな夢を見たいかな?

 夢魔は──夢を魅せてくれた。

 色褪せていたはずの、もしもを。

 そう、もしかしたら、ストーリーの中にいられる何か、それは欠片ほどで良い、悪役でさえ、モブでさえ役割を与えられているように、自分にも……誰かから求められた居場所があればと切望し、現実は全てを剝ぎとり、ささやかな理想にさえ裏切られた。

 夢魔、巫女侍サキュバス。

 彼女はどこまで夢を感じさせてくれる。

 どこまでも際限なく、教えてくれる。

 現実で失った居場所は、永遠の夢の中にこそあった。

 心が奮起する、燃えあがる、居場所はあったと。

 夢魔が叶える夢の世界だ。

 追うだろう、夢のその先へ! その奥へ!

 居場所をえたのなら、更なる夢へ、次の夢へ!

 夢の先へ、夢の境界を越えるその日まで!

 夢は、夢を見続ける!

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