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19話 わからなくても

いじめビジネス無印完結です。続編執筆中です。

 向井間君が屋上から去って、僕一人だけになる。


「……」


 もう一度、屋上から見下ろした。阿多谷はまだいる。

生気を失っているように見える。耐え難い過去を目の当たりにしたのだから、同情はする。

けれど、だからと言って、自分がされた仕打ちを赦す訳ではない。

それに、このまま死んでもらっては困るんだ。




 屋上から離れ、阿多谷の元へ来た。目の前に来ているというのに、大して反応は無い。

屋上を降りて近くで見ると、尚、酷い顔だ。

今なら顔に虫が付いたとしても、何の反応もしないだろう。

当人はそんなことを到底許すような人間ではないと、理解していても、納得せざるを得ない。


「……」


 やっと、気づいたのか僕の方へ振り向いたが、すぐに、明後日の方向へ向く。

いじめにあっていたときも何度か無視はされていたが、あんな執拗に意図的な行為とは別で、何が動いたから、反応し、何事もなかったら、別の方へ向くといった、反射的なものでしかない。


本当に変わったなと、つくづく思う。こんなに変わる位なら、僕へやってきたことはなんだったんだ。

最初からこれくらい大人しければ、お前も僕に危害を加えなかったんだろうな。

お前だけが絶望の淵にいると言わんばかりの様子に、内心腹が立つ。


「辛い目にあってるのはお前だけじゃないんだぞ」と言いたくもあり、現に加害者なのだから他人事では済まない。


 そんな、苛立ちが残るまま、阿多谷のいる所まで来た。


「……」「……」


気づいてはいるが、特に何かする素振りは無い。

もう何もかもどうでもいいみたいだ。こっちはどうでも良くない。


「おい。阿多谷」


 横たわっている阿多谷の脇腹を足でこずく。

いじめられいたときなら、考えられない行為だが、もう平気で出来る。


「……」


 続け様に繰り返す。


「……もう、気力が無い。直ぐに死ぬから待ってろ。お前もそれを望んでいるんだろ? 」


「望んでいない。まず、お前の今の心境を答えろ」


「……」


「答えろ。落ちるとこまで落ちたのに、何を気にする必要があるんだ」


「……。最悪だ」


「具体的に答えろ」


「今信じて決して、疑わなかったものが嘘だった。それが全てだった。全てを失った。死にたくて堪らない。……これで満足か? 」


「過程は違がくても、僕にそれに相応することをお前がやってきた事をわかっているのか? 」


「ああ、こんな気持ちだったのか。だったら、死ねと言ってくれよ。長居する気無いから。望んでするから」


「お前の心境が今ドン底なのはわかるが、そんなことはどうだっていい。後、別に死ぬことを望んでいない」


「じゃあ、どうしろって言うんだ」


「そのまま生きろ」


「! ? 」


「勘違いしているようだから言うよ。僕はお前を恨んでいるし、時には死んでしまえとも、思っていた。けど、実際にやられたら嫌だ。そして今はお前がただ望んでそうやっているだけだ。何も変わらない。あの頃みたいに、自分勝手に自分が中心に回っていることを疑わずに過ごしてきた。お前は最初から最期まで我が儘なんだ。そんな所を見て、僕が納得するか」


「うるさい。もう、どうでもいい。どうせ死ぬんだからほっといてくれ」


「死が終わりと本気で思っているのか? 実際に、死んで霊体になるだけかもしれない。そしたら、無様なお前を笑う奴らをただ聞く事しか出来ない。それだけならいい。それよりも父親の感心は果たしてお前に振り向くか? 無いだろうな。そんな状況にずっとずっとずっと耐えられるならいい」


「聞きたくない聞きたくない聞きたくない。何でそんな酷いことを言うんだ」


「お前が今までしてきたことを考えたら何もおかしくない。寧ろ優しい方だ。とにかく、死というその後の保証もないものに委ねるのは止めておけ。そして、これから言う僕の言うことを聞け」


「は? 何で、そんなこと」


「期待はしていない。それでも、死のうが、生きようが、最悪の死、最悪の日々を与えたい。言うことを聞けというのに強制力なんてものは無いことも知っている。少しでも罪悪感があるか確かめたかった。それだけだよ。無意味だった様だけど。話を戻す。従う、従わないはどうでもいい。ただ、お前が死んだ場合無様な最期を笑う。父親の反応も確認も含めてね。死なないで、僕の言うことを聞く聞かないかは置いといて、恨み続けるのを止めない。聞いて貰いたいことは向井間君のことだ。向井間君は人として、壊れている。僕が言えた事ではないけど。高校生になっても、良からぬ事を企てるに違いない。阿多谷には、一緒に透君の学校に登校してほしい」


「……い、やだね」


「あ、そ。けれど、今のお前は生きがいとか無いだろ。向井間君に無様にいいように弄ばれてたままでいいの?僕は向井間君を更正させたい。利害の一致はしていると思うよ」


「……」


「このままでいいのか? 」


「……」


「そっか。暫くそこでふんぞり返ってるといい」


「待て」「? 」


「向井間の進学校を教えろ。ここで激情に任せて死んでも、奴にいい顔したまま死ぬことになる。死んでも死にきれない。奴は何もかも持っていたわけではないにも関わらず、僕を苔に出来た。こんな屈辱は初めてだ。まだあれから大して時間も経っていないのに、苛立ちが混み上がっている。アイツを目にもの見せてやりたい。だから教えろ」


「素直に負けたと、言えば良いのに」


「うるさい。教えろ」


「嫌だね」「な、待て」


「頼み方ってものがあるよね? いじめをする前の好青年はどうした? 優等生なのに、礼儀作法も忘れたのか? まぁ、僕の葬式で、二拝二拍手一拝をしたくらいだから無理ないか。それに、言っても協力関係にもならなそうだし、別に協力関係の件はいいよ。僕が何とかしてみればいい話だ。けど、僕は阿多谷、お前にいい思いをさせたいから協力しようと促しているわけではない。少なからず、向井間君には感謝しているからね。横暴な態度のままならこの話は平行線だ」

 

 話に、ならないと思い、その場から離れようとするが。


「……教えて……下さい」


「…震えながら、土下座までするとは思っていなかったよ」


「父様が全てだったんだ。それが嘘だったとしても。向井間には生涯を馬鹿にされたような気がした。このままじゃ、悔しいままだ。悔しいままは辛い。惨めだ。大きいと思っていたのに急に小さくなる。縮こまって、寒くもないのに震える日々を続けるのはもう嫌だ。嫌だを続けたくない。変わりたいからお願いします。虫のいい話だけど、やり直したいです」


「わかった。進学校は教える。けど、向井間君が良からぬことをする保証は無いよ」


「あっ。……勉強がある」


「あって驚いたってことは、少なからず、そういうの阻止はしたいんだね。後、勉強を競うの無意味だと思うよ。向井間君は。テストで100点目指しいる人じゃないし。それに、勉強だったら僕に負けたままだよね? 」


「は? 負けていない。総合的に勝っている」


「根には持っているんだ。じゃ、高校でも勝負しようか。一教科くらいなら 勝てそう だしね」


「だから負けじゃない」


「むきにはなるんだね」


 これから向井間君の進学校へ行くことになり、向井間君を今までより、気遣う必要があるだろう。

慰謝料を得ることだけが目的なら、もうこれ以上のことは起こすことはないだろう。

だけど、このままで終わるとは思えない。

屋上で阿多谷が飛び降りたときの彼の笑顔は本物だった。

そこに暗い何かが、垣間見えた。

今までちゃんと見ていなかったのだと、言う他なかった。


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