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14話 不要な心地

 聞くに絶えないので僕は深川の元へ離れた。


「……」


向井間君は恩人なんだ。いじめていた僕を最後まで導いた人だ。

中途半端の偽善者とは違うんだ。その偽善者は向井間君を悪者呼ばわり。


赦しがたい。


 いいや、もうこんな不毛なことは止めよう。

今はそう、向井間君にちゃんとお礼を言わないと、直ぐに言わなくちゃいけない。

向井間君の居るところは…。卒業式の途中で出て行ってしまった。


自宅ではないよね。親には酷い事をされたんだから。あんなことをされていたなんて。それで、深川が保護者という扱いになっている。

ということは深川の家にいる?深川に聞けばいるかわかりそうだけど、もう話なんてしたくない。


だけど、向井間君の保護者という扱いになっている。悪く言う人を頼らないといけない。そもそも僕は、深川の家は僕がいじめられていた当時に、いったことがあったのでわかる。

今に思えば、嫌な記憶だけど、そのおかげで、余計な時間を費やさないかもしれないので、今はよしとしよう。


向井間君はどんな気持ちなんだろうか?

卒業式の様子を見る分には親族の方にも頼れないのだろう。

悲惨な過去に向き合いながら生きていかなきゃいけないんだ。


辛いに決まっている。

それなのに、僕に手を差し伸べて、救ってくれた。何か僕に出来ることは……。

そうだ、お母さんに、事情を説明して、一緒に暮らせるか聞いてみよう。


勿論、向井間君が良ければたけど。て、僕が先に乗り気なってどうするんだ。

先に向井間君に聞かないと。卒業式の後?

だけど、まだ学校にいないといけない時間だ。

だけど、向井間君が気になる。それに、こんな学校にわざわざ付き合う必要はあまりないかもしれない。


……行こう、向井間君を探しに。




 自分の判断で、学校を出て、一応張り紙に早退しますという旨と名前を書いておいた。

記憶をたどり、その場所へ着く。


「……」


 インターホンの前まで来た。裏切った者の家。

まだ今には帰っていないけど、当人が住んでいる所というのには、変わりない。だから、足取りは重い。


「……」


 よし、心の準備は出来た。

インターホンを鳴らす。ピンホールと鳴り、一置き。念のためもう一度と鳴らした。居ないのかな? もう一度と押さそうか迷っていると。

「誰ですか? 」

あぁ良かった。向井間君の声だ。






 インターホンが鳴った。咄嗟の判断で壊した受話器を隠す。

この事を言われたらばつが悪いというのは確かだが、何より、自分が負けたことへの憤りからの産物を誰にも見せたくなかった。


それを、例え気づく、気づかないに関係なく。

気付くはずもないのに。

それでも、今の俺にとって大事なことだった。


 とりあえず、適当な引き出しに隠しておいた。これで、宅配等が来ても、玄関から見えたりはしないし、来客が来ても、対応可能だ。

受話器が置いていないことは少々不可解たが、言われる心配は薄いし、適当に誤魔化せばいいことだ。


深川が来たときは、……まぁ失くしたと誤魔化して、早々に撤去する。

前の物より良いものを弁償するつもりなのだからまぁ、良いだろう。

ドアホンに写る相手を確認する。坂井……か。聞くまでも無いが、お決まりの言葉を発する。


「誰ですか? 」


「あぁその声向井間君だよね。坂井です」


「坂井……。で、どうしてここに? 」


「ちょっと話がしたくて」


「あぁ、わかった。中に入れ」


「え、あ、うん」


 そう言うと、坂井は一瞬どぎまぎしながら屋内へ入った。


丁度いいと思い、後の計画に関わる事を話す。


「悪いなお前にとっては嫌な場所だろうが、どうせなら、ついでに、込み入った話をしたい。誰も聞かれることのない、この場所で話をしたい。坂井お前、阿多谷を恨んではいるか? 」


「それは………うん、恨んでいるよ」


「直接制裁を下す事が出来るといったらやるか? 」


「うん」


 今度は間髪いれずに返事か。相当な執念があるな。過去を振り替えれば、それも仕方がないことだ。

殺したいとも思ったことだろう。

そう、【もう死んでもいい奴なんだ。】


「そしたら、今週の日曜日に学校の屋上に来てほしい」


「うん。わかった」


飲み込みが早くて助かる。駒となるいい傾向だ。


「透君お昼まだだよね。良かったら、家でたべないかな? 」


「いや、母親に言ってないだろうし、迷惑だろ」


「友達を連れて、拒まないよ」


「いや、それでも、駄目だ」


「どうして? 」


「お前、俺を住ませようって提案するつもりだろ? 」


「え!? あ、うん。」


「もっと言えば、承諾しなければ、いじめを代わりに引き受けたことを話すんじゃないか? 」


「うん」


「それは、駄目だ」


「それじゃあ、いじめのことは言わないし、住まわせてとも言わない。けど、せめて食事だけでも」


「あのな。いじめられた奴と食事して、何も詮索されないってのが、無理な話だ。ひょんな所で、お前がいじめにあったことを気づいたら、どうする?親だったら、そういうとこ敏感だ。言ったよな?お前がいじめにあったことを知って親はどう思うんだ? 今までのやってきたことを無駄になるようなことは止めろ。わかったな? 」


「う……うん」


 最もらしく、心にも無いことを言う。

坂井がいじめられたことが母親に知れ渡れば、慰謝料の折半だの、面倒事になる。

場合によっては、全額貰うなんて言われ兼ねない。

それは、避けなくてはいけない。


坂井と坂井の母親と住むことになれば、金銭を頼りにされても、おかしくない。

温かみを金で買うつもりはない。

施される気もない。

 今後の予定を言い終えたので、帰るよう促す。


「それじゃあ、言うべきことも、言ったし。帰ってくれ」


「え? もう少し居たらダメ? 」


「お前にとって、ここは嫌な場所だろ」


「そうだけど、ほら、僕勝手に、早退しちゃったし、お母さんに詮索されるのは避けたいから」


「まぁ、それなら仕方ないか」


「それに、向井間君が心配だったし」


「おい、それが本命だろ」


「あはは。でも、向井間君も気を使ってるなら、帰れなんて直接的に言わないよ」


「はぁ。勝手にしろ。……いや、だとしても、お前の母親も卒業式に参加してるはずだろ。今頃探してるだろ」


「あ」


「あ、じゃない。今すぐ、早退の言い訳考えるぞ」


「あはは。はい」


 適当な理由を考えて、坂井を家に帰した。

全く、余計な事を。

来週の日曜日になれば、この苛立ちも幾分か増しになるだろう。

勿論坂井が駒になり得るのかも、見定める。

良心が邪魔して、残念な結果にならなければ良いが。


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