転生準備。
俺、「清水 響」目を覚ますと星が見える不思議な空間にいた。
―――あれ? ここは? 確か病院のベッドでみんなに見守られながら眠りについて……
「目覚めたようですね、若き魂よ」
声のする方へ顔を向けると青黒く裾に星がちりばめられたドレスに銀のティアラを付けたきれいな女性が立っていた。
ラノベが大好きなのでこの展開からこの人がどんな人か想像できた俺は震える声で尋ねることにした。
「もしかして……あなたは女神さまですか?」
「わかっているのなら話が早いでしゅね」
……噛んだ。明らかに噛んだ。すっげえ顔赤くしてプルプルしてるけどそっとした方が良いよね?
しばらくしてなんとか落ち着けたのか顔を上げたが未だに少しだけ顔が赤いのは黙っておこう。
「こほん。そう、私は地母神「ディーテ」。清水響さん。あなたは若くして難病にかかり、峠を越えられず亡くなりました。ですがそれは私たち神々の長が造った世界を救うために勇者として転生していただくためです」
そう言われてみれば俺のかかった病気は不自然なほどに進行も早ければ治療法も不明なままだった。神様が意図的に引き起こした病ならあり得るとは思うが神様とはいえ勝手に人生を終わらせられて理不尽だと思っても仕方ないだろう。
だがそれはそれとしてマジで? ホントに異世界転生?
「え、ほんとに異世界転生ですか!? チート使って無双したり生産系スキルでほのぼの生活したりできるんですか!?」
「は、はい! あなたは肉体の強化と一つの恩恵を持って転生します。魔法の腕前、剣の腕前などどんなものでも授けましょう。あ、言葉が足りませんでした。基本的にですよ?」
「不老不死とか無敵とかは不可ということですよね。実は欲しいスキルはもう決まっているんですよね、転生したときに欲しいスキルとか妄想してきたので。それで俺の欲しいスキルは『最高率』です!」
「最高率、ですか?」
「どんな状況でもそれを改善、又は解決するために最も効率的な手段を教えてくれるスキルです」
「なるほど、わかりました。長に確認しますので少し待っていてください」
そういうとどこからともなく水晶玉を取り出し後ろを向いて話し始めた。
「あ、おとう……長、転生予定者はこのような恩恵を望んでいますがどうでしょうか」
今お父さま、またはお父さんって言いかけたよね? 長ってこの人のお父さんなの?と思っているうちに話が付いたようでディーネは振り返った。
「長の了承もいただきましたし少し時間があるのであちらの世界について説明します。
あちらの世界の名は「アクリウム」。世界の八割が水で、数少ない大地では豊かな水と魔法を使い作物を育てたり狩りを行ったりしています」
「向こうには地球とは違う生物も多そうですね。魚人や人魚はいるんですか?」
「はい、ただこちらの世界に存在する漫画やアニメで見るような人たちではないですよ? 詳しくは会ってのお楽しみです」
というように楽しく話していると突如星の一つが輝き、大きくなったかと思うと人の形に変化した。丁寧に整えられた白髪に優しそうな眼をしたナイスミドルだ。
「楽しく話している最中にすまない。君に会ってみたいと思って少しだけ時間を取ってきたんだ」
「えっと……あなたが神様たちの長、ですか?」
「いかにも。名前はノロスだ。ま、ただの世界の管理者だよ。今回転生してもらう世界は私たち以外の神が関わっているとしか思えない滅び方をしていてね。平和であろうが戦争中であろうが一定の期間が経つと一定の数を残して人類が消されてしまうんだ」
「その原因を神様が消すことはできないんですか?」
「すでに想像してしまった存在を私たち神が消すことはできないんだ。世界を創造するときに皆で決めたことだからね。けど『神が創造ったものが別の神が創造ったものに消される』のは許されている。だからキミにはその存在を消して欲しいんだよ」
「その存在は現在魔王としてこの世界に君臨しており幾つかの国を圧政によって支配しています。あちらの世界は大地が少ないのは先程言いましたよね? 大地が少ないということは野菜や家畜が少ないのです。奴はそれを利用し支配している国が豊かになることがことがないようにしています」
許せない……人生を豊かにしてくれる食を制限するなんて。俺は食事がみんな食卓を囲んで料理を食べるのが大好きなのだ。
絶対に魔王を倒して最高の食事を向こうでできた知り合いと食べたい!!
「俺、絶対に魔王を倒してみせます!!」
「うむ、意気込みは買うがあちらの世界を楽しむのも忘れないようにな。では向こうの世界に送り出すよ」
「あちらへ送っている間に基礎知識や魔法などの知識も授けます。お気をつけて」
ノロス様が目を閉じて念じると耐えられない眠気がきて俺は眠りについた。
――――――――――――
響がいなくなった後ディーテが不安そうにつぶやいた。
「お父さま、響さんを不安にさせないよう黙っていたのですが……」
「なんだい?」
「あの方、事前に知らされていた方とは顔も性格も違うのですが……」
「ハァ!? ちょ、ちょっと待ってね、調べるから…… あぁ、間違えてるなぁ」
「ご、ごめんなさい……」
「謝るなら響君にね。すぐ魂を戻すと障害が残るから数日だけ過ごしてもらって、向こうに未練があるようなら向こうの世界に行ける方法を教えてあげようか」
「向こうの世界に留まらせることはできないんですか?」
「難しいね。一人なら騙せるかもしれないけど二人以上だと魔王にばれるんだよ」
「ならもう一人を諦めるのはどうでしょうか?」
「それだとこれからの人の管理に支障がでるんだよ」
「それはお父さまの事情じゃないですか!!」
「その抜け道として向こうの世界で条件を達成すれば向こうへ連れて行ってあげるということにしようと思う。条件は、まぁ調整が終わるまでの時間稼ぎだね。ぶっちゃけ達成しなくてもいい」
「なるほど、わかりました。そういうことなら様子を見ますが調整に時間がかかるようなら強引に送りますからね?」
「あぁ、わかっているよ。負い目を感じていないわけではないからね」