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第14話 キラキラ星の歌う夜

戦闘シーンのBGMに、この曲を推奨します。(英語のキラキラ星です)

https://youtu.be/yCjJyiqpAuU

電話の向こうで、重々しく「わかった」と一言声がして、サトミがフッと息を吐く。


ふと、サトミの脳裏にもう一人の男が浮かぶ。

顔も知らない男が。


「ハハッ……

ハハハ!ああ、もう一人クソ野郎がいたわ、いつか殴りに行きてえな〜。


誰って?


あのおばさんの旦那だよ。

ベースにはそいつの思惑がある、あんたはそれを利用しただけだ。

だろ?


じゃあな、そろそろ死にたい奴らがこっち来てるんでね。

死ぬ奴最小限にしたいなら、さっさと引かせろ。」


赤ん坊が、むずって泣き始める。

電話の向こうで、生まれたのか聞いてきた。


「もちろんさ、無事にな、可愛い女の子だ。

俺は、自分の命だけじゃない、この子の命も背負ってる。


俺も、………


妹に会いたくなってくる。


そんな気分だ。」



願うように目を閉じ、電話を切ってポケットに入れた。


「ふぇええ、ふぇええ、ふぇええああああん」


「あー、ごめんな。母ちゃんのおっぱい飲みてえんだな。

でもちょっと、まだ飲めねえんだ。

赤ん坊って、どのくらい水分無しで持つんだろうな。

ぷよぷよだから、ほどほど持つかな。」


赤ん坊の顔が、揺らいで見える。

目がうるんで泣きそうにこみ上げる気持ちを、ゴクンと飲み込んだ。


まだだ、まだ泣く時じゃない。

こらえろ、俺は、生きて帰ることを優先する。優先するんだ。


ふうっと息を吐き、ゴーグルを付けた。

心を落ち着け、前を向く。


むずがる子供に、目を向ける。

小さな手が、ギュッと握りしめている。

それは、きっと……

生きたいという、お前らしっかりしろという、自分へのエールだと思った。


「フフ……お前はきっと、母ちゃんに会えるさ。俺が会わせてやる。

俺に、任せろ。

なあ、だからな、泣くな。

水がないのは、メチャクチャこたえるんだぜ?

まあ、ここは夏の荒野よりずいぶんマシだ。

でも、体力、大事にしろよ。」


背中をポンポン叩く。

その反対の手で、鞘の下のフックを外した。

鞘の下がスライドして、黒蜜の柄が現れる。

右手で子供をあやしながら、左手の逆手で黒蜜を抜いた。

手の中で、クルリと回して順手に握る。

黒蜜は、見慣れた刀身にゆらゆらとすでに薄暗い中で緑の影を映していた。


「黒よ、ごめんな。

お前のワイヤーの耐久試験になるかもしれねえな。

あとは、巻き取り回数かな。

まあ、切れる前に引くだろうさ。

俺に嫌われるのは、あの人の思惑から外れるだろうから。

甘いって?甘くてもいいさ、俺は、信じたいんだ。

信じさせてくれよ、でないと俺は………



じゃあ……頼むぜ、黒蜜。」



そう言って、大きく黒蜜を左に振った。


ガキンッ!


軽い衝撃のあと、黒蜜の刃が左の木立の間を駆け抜ける。

ドスンと手応えのあと、小さく悲鳴が聞こえた。


「ギャッ!」


何故か、黒蜜で刺した相手は、刺されたあと一呼吸置いて悲鳴を上げる。

思わぬ攻撃だからなのか、見た事も無い長い刃に刺し貫かれての、恐怖からなのか知らない。


一気に引いてワイヤーを巻き取り、トトッと小走りで進むとまた黒蜜を振った。


ドッと、ワイヤーを伝って衝撃が来る。


まだ、誰も撃ってこない。

誰も、サトミの存在に気がつかない。

すでに薄暗い中、サトミは目を閉じ、自分の気配を消して進む。


「ふぇええ、ふぇええ」


赤ん坊の声が、木に反響してかえって位置が把握しづらいのかもしれない。


「泣くな泣くな、母ちゃんは遠いぞ〜


Twinkle, twinkle, little star,……


How I wonder what you are,

Up above the world so high,

Like a diamond in the sky.

        (きらきら星のうた)」


ピュン!


ドッ!


「ひ、ひいい!!」


暗い森の中に、悲鳴が響く。


ヒュンッ!


「 Twinkle, twinkle, little star,

 How I wonder what you are 」


タタタンッ!!

タタタンッ!!


キキンッ!キンッ!


走る、一気に詰めて、敵の左に回り込み切る。


ザンッ!「ぐあっ!」


ドサン!


すでに森の中は暗い。

倒れた奴の装備を見ると、暗視ゴーグルを付けている。


「チッ、これって夜も見える眼鏡だっけ、装備ばかり充実してやがる。」


目を閉じ、心を集中する。

赤ん坊がむずがって動いた。

右手でポンポン背を叩いてあやす。


「 Twinkle, twinkle, little star,

How I wonder what you are,

Up above the world so high,

Like a diamond in the sky. 」


じっとその場から動かない。

一人、直線上、障害が無い場所に感じて上から振り下ろし、黒蜜を飛ばす。


混み合う木立の中、わずかな直線の隙間を縫って黒蜜が飛んでくる。

その兵は、自分に何が起きたかわからないまま、立ったまま息が絶えた。


ヒュンッ!

キュウゥンッ!

ガキッ!


黒蜜を引いてワイヤーを巻き取り、瞬時に戻す。

目を閉じたまま山を下り始める。

あと周囲に4人、他7人がGPSを見て北から引き返してくる。


「 Twinkle, twinkle, little star,

 How I wonder what you are 」



タンッタンッ!


キンッ


走る。


「こっ!子供?!」


突然前に現れた黒い戦闘服に、男が乱射する。

サトミが黒蜜を振るう。


仲間が応援に急ぐと、音も無く仲間の銃口の火花が跳ね上がり、地面への軌跡を残して消えた。

次の瞬間、いきなりドスンと胸に衝撃が来る。


「は?」


自分の胸を、見た事も無い、長い剣の刃が貫いている。


「 Twinkle, twinkle, little star,

How I wonder what you are 」


キラキラ星の歌が、聞こえてきた。


ピュンッ!


刃が闇に消えて、男がどさんと倒れる。


その夜、森の中は、銃声と人の悲鳴が時々上がり、静かな修羅の場へと変貌していた。

サトミの歩いた場所には、あちらこちらに兵の死体が静かに横たわり、累々と連なっている。

森には静かにキラキラ星の歌が優しく響き、赤ん坊は時々母の乳房を求めて泣いた。


サトミが子守歌を歌いながら黒蜜を使うシーン、

サトミがLOVELOVEで、ふともらした「ひでえ目に遭った」という言葉。

私はこの光景が浮かんで、心に刻み付いて、この話を書かずにいられませんでした。

子守歌なので、BGMのようにゆっくり、ゆっくり歌っています。


*「キラキラ星の歌」の英語版は、著作権が切れているので使用しました。

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