7. 私、無頓着ですから
遅れました。
今週は忙しすぎた。
反省です。
町までは馬車で一刻ばかり掛かる。
私のカセの色を無理矢理、青に決められた奥様は買い物をするお店の名前を告げた。どこも、老舗の雑貨店で、滅多に行ったことのないところだった。
「やっぱり、時間もないから、二手に別れて買いましょう」
「いえ、奥様が侍女をお連れにならないなどあってはなりません」
二手に別れることに反対をした私を奥様は和かな笑みで見た。
「アデル、麓の町で買い物をするくらいで侍女を付けて歩かないからと、誰が咎めるでしょう。ちゃんと、護衛を伴って歩いているのですから、何の問題もありません。一番問題なのは、時間です。素早く買い物を済ませ、帰宅しなければ、準備が整いませんよ」
「ですが、奥様。侮られかねません。二手に分かれるなら、もう一人侍女を連れて来るべきでした」
「あなた、相変わらず堅いわね。大丈夫だから、心配しないで。あの町に私を侮るような馬鹿者はいないわ。ねぇ、デラ」
奥様は隣に座る護衛のデラに声を掛けた。
「はい、奥様の威光を無視出来るような恩知らずは必要ありませんから」
なんだろう、さらっと怖いことを言ってない?
「だから、大丈夫。ということで、アデルは北門のテリッシュで香の七番と九番を買って、次はドーンで白のホウカを二巻、サリで赤のギョクカを五つ買ったら中央のマクハリで、待ち合わせましょう。メモとお金を渡すわ。迷子にならないように、デラを付けるわ。メイファは私ね」
奥様は私に店の名前と購入する商品をメモした紙とお金の入った袋を渡された。
若干、溜息を吐きたかったが、ぐっと堪え、渡された物を両手で受け取り、落とさないように上着のポケットに入れた。
「そういえば、アデルはメイセルの塔のお話は聞いたかしら?」
「メイセルの塔ですか?魔女メイセル様の住む塔ですよね?何のお話でしょう?」
「つい最近のことよ。引っ越しをしたらしいの」
奥様はニコニコと、面白い話を聞かせたくて仕方ない風で、話を始めた。
「それがね、なんと、コーウェンの屋敷の裏の森だっていうじゃない。今度、旦那様に連れて行ってもらおうかと思ってるのよ。もし、可能ならアデルも一緒にね」
「ですが、奥様、魔女メイセル様は騒がしいのはお好きではないと聞いたことがあります。あまり、物見遊山で行かれるのは宜しくないのでは?」
「あら、私、コーウェンの妹のコリンに会いに行くのよ。なんの問題も無いわ」
「コリン様は中央に行かれているかと」
「アデル、一緒に連れて行かないわよ」
「構いません。静かになさりたい方の邪魔はしたくありませんから」
「それとね、コーウェンは狩が上手なの。旦那様ほどでは無いけれど。トゥタランの狩りをして、魔女メイセル様にお届けしたくは無い?」
トゥタランは春前にやって来る渡鳥の一種で、飛来地となる中央都市の外れにあるタァランの森へ行く前に一週間ほどペイリッシュの南の森にある湖に寄り道する。
その南の森がコーウェン様が治める町の外れにあるのだ。
「私は全く」
「コーウェンが狩りをする姿は見ておくべきだと思うわ。常時の姿とはまた違う印象を受けるはずだもの。無頓着なあなたでも、何かしら感じるものがあるはずだわ」
奥様はやけにしつこくコーウェン様の勇姿を見るように勧めるのだが、私の食指はピクリとも反応を示さなかった。