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灯らない想い   作者: ころころのこころ
2/16

2. 私、慌てました。

サブタイトル、自分のメモの形のまま投稿してました。

番号を追加しました。

「アデル」


 振り返ると、アシュバルさんが眉間に皺を寄せたまま、トレイをテーブルに乗せた。


「今日は寒いから、レイスの葉?」


 茶器を覆うように掛けられた厚手の布を少し上げて、紅茶の僅かな香りを楽しむ。


「旦那様はこの時期よくお風邪を召されるからな。レイスの葉とクリコの実を加えてる。いつもより早めにお出ししてくれ、旦那様はクリコの実がお好きだ。」


 だから、いつもより大きめの杯と匙が用意されているのか。


「わかりました。クリコの実は幾つお入れすればいいですか?」


「二つまでだ」


「はい、では、受け取りますね」


 振動を与えないようにトレイを運ぶ。


 通路は冷たい空気に満たされていて、震えそうになる身体を引き締めた。


 食堂に入ると、旦那様に耳打ちするリアンさんの姿があった。


 お食事はまだ、お済みではない。最後の皿には半分くらい、料理が残っている。


 サイドテーブルにトレイを下ろす。

 茶器の布を素早く折り畳み、横に置く。

 茶器の蓋を外し、匙でクリコの実を杯に移動させる。蓋を嵌め、ゆっくりと杯に紅茶を注ぐ。

 フワッと広がる香りを密かに堪能しながら、紅茶で満たされた杯を受け皿に乗せ、旦那様の斜め右に置く。軽く会釈して、次の杯を向かい合わせの席に座る奥様へお出しする。軽く会釈すると、奥様がこちらを見ていることに気づいた。


「アデル、あなた、コーウェンさんとは面識があるわよね?」


 コーウェン様とは隣町の長で、先日も旦那様のもとに来られた方。背が高く、灰色の髪と瞳の持ち主。


「はい、先日も紅茶をお出ししましたので、お顔は拝見しております」


「話はしたことがあって?」


 そのような機会があるはずもないのに、奥様は一体何を仰られているのだろう?


「一度もございません」


「そう、分かったわ。」


 もう一度、会釈をして離れる。いつものように壁際のサイドテーブルの脇に控える為に、移動する私を何故かリアンさんが見ている気がした。目を向ければ、そんなことはなかったから、気のせい、気のせい。


「ねえ、あなた。来週の冬越祭の材料が少し足りないの。今日か、明日、町へ出てもいいかしら?」


 奥様の言葉に、旦那様が微笑む。


「明日は天気が悪くなるかもしれないから、今日、行っておいで。お伴はアデルがいい。急だが、大丈夫か?」


 最後はリアンさんへの確認。


「はい、特に急ぎの仕事はありませんので、対応できます。」


「では、半刻後には出れるかしら?」


「畏まりました。旦那様、準備のため、席を外します。」


 旦那様が頷くのを見て、リアンさんが半歩下がって一礼する。

 やはり、綺麗だ。

 どんな所作でもリアンさんの姿は綺麗。

 背筋をピンと保つ筋肉が違うのかしら。


 リアンさんが部屋を出たのを見て、奥様が旦那様を呼ばれた。


「コーウェンさんと会ってきます」


「それはまた、堂々と不倫宣言かい?」


「不倫、されたいですか?」


「昨夜は断られたしね。私の愛を無下にしたんだから、疑われても仕方ないとは思わないか?」


「まだ根に持たれていたのですか。今日、動きたいから、断ったまでです。あなたはいつもいつも、重たいほどの愛を下さるから、私はいつも満足していますよ。それとも、私の愛があなたには届いていないと仰るのですか?」


 殺気に似た冷たい気配を纏った奥様が席を立ち、旦那様の元へ移動される。


「時間がありません。しっかりと教えて差し上げないと心配で、町には行けません。さぁ、参りましょう」


「え、まだクリコの実を食べてないのだが」


 有無を言わせず、旦那様の腕を取り、席を立たせると、奥様は行儀を無視して旦那様の杯を飲み干し、旦那様に口づけ・・・


た。と、思う。

 とてもではないが、直視などできない。

 正面に向けた顔はそのまま、瞼を閉ざして、様子を伺う。


 ゆっくりと深呼吸を何度かすると、衣摺れの音が大きくなった。


「アデル、予定通り半刻後には出ます。用意をしておきなさい」


「畏まりました。奥様」


 目を開け、部屋を出られるお二人に礼をする。


 茶器を回収するため、テーブルに近づくと、旦那様の杯の中にはクリコの実は無かった。


 仲がよろしいことは、喜ばしいこと。


 無理矢理、そう言い聞かせて、バクバクする心臓を宥めた。

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