遭遇2 ジャック視点
第二王子のジャックは朝から不機嫌だった。
理由は明白。昨日の召喚された人間にがっかりしてたからだ。皆が各々の部屋に戻った時に、兄を捕まえて愚痴を言いだした。
「あの召喚されてきたやつ、すげー太ってたな。あれって男?女?」
「口を慎まないか、ジャック。」
口の悪い弟に、ウィルはため息をついた。
「だって俺はどんな奴が来るかと思ってワクワクしてたんだよ!屈強な男とか、絶世の美女とか!あとは全身金色とか!それなのに期待外れだぜ」
「勝手に期待して、勝手にがっかりしたのはお前だろ」
「兄貴だって少しは期待しただろ。『精霊に祝福されし者』が別世界から来るって言われたら。特別感半端ないだろ?」
「……とにかくもう遅いから。早くジャックも寝る様に」
そのまま強制的に会話をシャットダウンされてしまったので、ジャックの気持ちはそのまま燻ってしまい、あまり寝付けずに朝を迎えたのだった。
確かに勝手に期待した俺が悪いのは認めるけど、あんなに太ってるのはおかしいだろうが!今まで食っちゃ寝食っちゃ寝してグータラ生きてたんだろう。
兄貴だって絶対絶対期待してたはずだ。
ムカムカした勢いで、いつもより早く騎士団のランニングコースにやって来てしまった。
花園の扉に手をかけて開くと、目の前を人影が横切った。
あれ?もう誰か走ってんのか?
ジャックは走り去った人物に目を向ける。後ろ姿だが、見覚えのある体型に気づいた。
一晩中自分をイラつかせていた人物、細川ミナトだ。
なんだアイツ……ダイエットでもしてんのかよ。……抜かしてやる!
ハッと鼻で笑ってジャックはミナトを追いかけた。
ようやく姿を捉えたと思ったら、ミナトが走るたびに肉が揺れてジャックの神経を逆撫でする。
こいつホントデブだな……!膝壊れんじゃねぇの?
忌々しそうに揺れる肉を見ながら、その後ろを黙ってついて行く。
目の前を走られるのもウザいし、軽々と抜かしてやるぜ!
ジャックは走る速度を上げる。
しかし、しばらくして違和感を感じた。
距離が縮まらないのだ。
……アイツ……どうなってんだ⁈早いっ……
くっ!
ジャックはもっとスピードを上げてミナトを抜こうとしたが、ミナトもラストスパートなのか、凄い勢いで加速する。
本気で走っているのに抜かせない。むしろジャックとミナトの距離がどんどん広がっている。
なん……なんだ……⁈
あのペースで走りつづけるつもりかよ!
とうとうミナトの背中も小さくなり、追いつけないと悟ったジャックは、立ち止まってしまった。
「……はぁっ、はぁっ……変なデブだな」
ポツリと呟いた声は爽やかな朝の空気に溶け込んでいった。