転移
『幸運を祈っています』
「ちょっと待ってくだ……!!」
突然身体が宙に浮く感覚がして、白い膜に目の前が覆われたと思ったら、今度は弾けた音と共にグンッと身体が吸引されるように引っ張られる。ジェットコースターの頂上から一気に下降してるような感覚に胃がギュゥッと痛む。たまらず目を瞑って身体を縮こまらせていた。
しばらくして足元に地面を感じたので、ゆっくりと目を開ける。
すると辺りは暗闇になっていた。
「……?」
暗闇にまだ目が慣れなくて、しばらく目を凝らしていると、暗い床に白くキラキラした線だけが、淡く発光しているのが見えた。そこには分からない文字と六芒星の模様が描かれている。
これってマンガとかで見た魔方陣みたい…
更に目が慣れてくると、ここの空間は天井が高い広い室内だと分かった。それから9人の人影が見えてきた。
囲まれてる……一体どういう状況なんだろう。
深呼吸しながら、手を握りしめて力を込める。万が一、逃げられるように扉の場所を確認しようとしたが、まだ目が慣れないため見つけることが出来なかった。
「国王様、成功いたしました」
「あれが異世界の人間……」
「……モンスターじゃないのか?」
「こら、失礼だろう」
「とっても大きいんですのね……」
周りにいた人影が一斉に話し出す。
モンスターがここにいるの⁈……あれ?でも異世界の人間て聞こえたよね。え?私?私のこと?私がモンスター⁈
そんな非人道的なことを言うのは誰なの⁈
……こっちからは全然顔が見えないけど、向こうからは私の姿が見えているみたい。なんか品定めされてるみたい……。イヤだなぁ。
「お前たち、客人の前だぞ。静かにしないか」
威厳のある低い声で、辺りはまた静かになる。コツコツとその人物が近づいて来ている音と、長い布の擦れてる音が聞こえた。
「トーチ」
パァっと壁に付いていたランタンに火が灯る。その明かりに照らされて、ようやくこの場にいた人物を確認することが出来た。
こちらに近づいてきた人物は、色取り取りの宝石がはめ込まれた王冠を頭に乗せ、絹のような光沢のある赤いマントを羽織っている、紫の目に金色のヒゲを蓄えたダンディなおじ様。
「ようこそ、マリョシカ王国へ」
あぁ…本当にここは異世界なんだ。
ガックリと細川ミナトは肩を落とした。
気持ちも身体も疲労困憊で意識が遠のきそうになった。
しかし、自分が気絶すると運ぶ人が大変なのを知っているミナトは頬を叩いて気合いを入れた。
そう、ミナトは120キロのデブだった。