七 不思議な少女との出会いです
もうじき十歳になるある日のこと。
ミラが来なかったので、風車と水車の点検を終えた俺は新しく何を作ろうかと考える為に小高い丘の上に寝そべりながら赤く染まる空を見ていた。
しかし、突然視界に夕焼けに照らされた素足とスカートから覗く白いパンツが飛び込んで来たのだ。
(白パンか……)
「いつまで、見てるの?」
別に見たくて見た訳じゃない。俺は体を起こすと枕元に立っていた人物に反論する。
「子供のパンツに興味はない」
「あなたも子供じゃない?」
ああ、そうか忘れていた。反論に反論された俺は、頭をかきむしり、その後両手を挙げて降参だと示す。
勝った、とドヤ顔をする少女。
歳は俺より一つか二つか下だろうか、真っ白な無地のワンピースが夕陽で赤く染められていた。
しかし、特筆すべき所はそこじゃない。その長い髪は左側が金色で右側が銀色のツートン、そして大きな瞳は左側が銀色に輝き、右側が金色のオッドアイと不思議な少女。
俺には、この髪色に見覚えがある。
そう、前世のワイトの時に。
名前はたしか…………あれ? 思い出せない。なぜだ、ワイトの記憶には確かにこの少女と同じ髪色のメイドがいたはずだ。
顔も思い出せる。
しかし、名前が出てこないのだ……。
「君は誰?」
俺は質問をするが、少女はすぐに返答せずに微笑みを見せる。
「今、幸せ?」
少女からの返答は、俺が望むものではなくおかしな質問で返してきた。
「質問に質問で返すなよ」そう言おうとした時、背後から「にーーたまーー!! ごはーーん!!」と、俺を呼ぶ妹のサーシャの声。
「今、行くからーーっ!!」
振り返りサーシャに答え、再び少女の方を振り向くと、そこに先ほどまでいた少女の姿は無かった。
俺が今いる丘は見晴らしがよく、周囲を見渡してみるが少女の後ろ姿すら見つからない。
俺は、狐にでもつままれたのかと、首を捻りながらサーシャの待つ場所へと歩いていく。
「にーたま、どしたの?」
サーシャを抱き上げると母親譲りのピンクの髪が頬に触れてくすぐったい。
俺は「何でもないよ」と言うと、一度丘を振り返り帰宅するのだった。
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俺が農業に関わり始めてから、ルーデンス子爵家の収入は大幅に増えた。
害鳥被害で収穫が減る量も少なくなり、常時水車で水を引けたことにより従事する人間が楽になった。
勿論、失敗も多々あった。
荒れた土地を整備して耕地にしようと思ったが、上手く作物が育たない。
しかし、ミラがマヤを連れて来たことにより俺は医療にも目が向くこととなり、薬草を栽培する事を思い付く。
栽培自体は上手く出来たが、薬草と言えば初心者冒険者の収入源。
販売ルートの開発で反発された。
しかし、薬草の主な販売先であるギルドとしては、常時薬草の足りない状態なのだ。
何せ、初心者冒険者と呼ばれる人は年々減っていく。
需要と供給が追い付かないと、ギルド自体が購買意欲を見せてくれたのだ。
薬草の栽培、販売など誰かが思い付きそうなのだが、この世界では軽い傷などは魔法で治せる。
それも、ほとんど誰もが使えるのだ。
それに薬草の価格などたかが知れている。
薄利多売。そういう概念がないのだろうな、この世界には。
安定した農作物の収入と、手間のかからない薬草の販売により、ルーデンス子爵家は、周囲貴族に一目置かれるようになっていた。
そうなると、ルーデンス子爵家にすり寄ってくる者も多くなってくる。
まぁ、大概は婚姻関係で。
俺の嫁にと、寄ってくる下級貴族に、サーシャを嫁にと寄ってくる上級貴族。
「サーシャは、嫁にやらん!」
俺の父親は頭がおかしいのだろうか。この世界ではむしろ大歓迎のはずである。しかし、おかしいのは父親だけではない。
「当然です、父さま」
俺も頭がおかしくなっていた。困った顔をする母親に、俺にベッタリとくっつくサーシャ。
妹大好きで何が悪いのだ。
俺にも初めは是非嫁にと寄ってくる貴族がいたのだが、父親が俺にはミラという許嫁がいると公表してからは、ぱったりと来なくなった。
この時、俺はミラが許嫁だと初めてしったのだが、正直悪い気など一切無くむしろ大歓迎だ。
ミラが将来の伴侶か……そう思うと俺は心が弾むのだった。