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五 ルーデンス子爵家です

 神聖皇国ファザーランド。そこの子爵家の一つがルーデンス家だ。

所謂保護者的な役割にあたる寄親はバインツ伯爵家。

俺も風車を完成させた直後、一度お会いしたが白髪の恰幅のいい体格をしたお爺さんだった。


 何を思ったのか、バインツ伯爵に対して親バカっぷりを発揮し出した両親を見たときは、正直肝を冷やした。

バインツ伯爵本人は、かなりやり手のようで本で仕入れた知識程度だったが、外交役として色々とファザーランドに益をもたらして来た人物。


 そんな大物相手に自分の息子が凄いとか、賢いとかの話ばかり飛び出すのである。

下手をしたら機嫌損ねかねない。


 まぁ、俺の心配は杞憂に終わったのだが。


 バインツ伯爵は度量も広く笑って聞き流してくれたのだ。


「ガッハッハ。なるほど、確かに賢そうな子だ。うちの息子ももう少し聡明だと良かったのだが。ガッハッハ」


 俺の頭を撫でて豪快な笑い声を上げるバインツ伯爵。伯爵も高齢のようだし、自分の跡取りで気苦労している節があった。


 バインツ伯爵領は、ルーデンス家の北側に位置しているがそのバインツ伯爵領とルーデンス家の間に同じくらいの土地を持つローシー男爵家がある。


 父ファルコとミシル・ローシー男爵とは旧知の仲で、親の代からの幼なじみみたいなものである。

子爵と男爵と身分差はあるものの、お互いに切磋琢磨してきた。

場所的に近い事もあって、父ファルコはよくローシー家に行くしミシル男爵もよくウチに来る。


 俺が六歳になり、妹のサーシャが一歳になった頃、ミシル男爵は赤い髪を三つ編みにして一つに束ねた幼い少女を連れて来た。

モジモジと恥ずかしそうにミシル男爵に隠れるその子は、立ち話をしているミシル男爵の足元から時折顔を出して俺を見たり、目が合うとすぐに隠れたりと愛らしい仕草をする。


「俺は、アル。キミは?」


 俺から歩みより、手を差し出して握手を求める。少女は、困った顔をして俺とミシル男爵の顔を交互に見て様子を伺っていた。

ミシル男爵は、しゃがみこんだ後、少女の肩を押して俺に差し出すように前に出す。


「ミラージュ……ミラです」


 少しでも周囲が煩ければ聞き取れないほどの小さな声。恥ずかしそうに体をくねらせながら、俺と握手をする。

はにかむその笑顔がとても可愛い。


「ミラ、向こうで遊ぼう」


 俺はそう言って握手した手を繋いだまま、家の奥へと連れて行った。


 しかし、そこで俺はようやく気づく。遊ぶって何で……と。俺はこの世界の遊びを知らない。

小さい時からずっと本の虫。

昔遊んだ記憶を手繰る、缶けり……二人で? 鬼ごっこ……二人で? 球技……そもそもボールが無い。


 それに、このミラって少女は、とても大人しい。ずっと手を繋いだまま、俯き加減で話もしない。


「あの……」

「うん、何?」


 いつも通り書庫へと連れて来てしまったが、どうしようかと悩んでいたら、ミラから聞きたいことがあると言う。


「お父様がおっしゃっていたのですが……アル様は、文字が読めるのですよね?」


 恐らくこの世界では当たり前なのだろう、彼女もそう躾られてきたはずだ。

しかし、早見誠一として記憶のある俺には、違和感しかなかった。


「様は、いらない。アルでいい」

「え……でも」

「友達になりたいのならいらない。友達にならないでいいなら、好きに呼べばいい」

「え…………と、アル……くん」


 まぁ、彼女にとって精一杯の妥協だろう。


「それで良い。で、文字だっけ。ミラも俺と同じ歳くらいだろ? 文字読めるんじゃ……」


 ミラは読めないと首を横に振る。確かにこの世界の文字は、漢字の羅列の様な文章だけれども。


「学校で教えてもらうから」


 ミラの話では、学校へと入る十歳までは、読める子供は少数らしい。識字率も低く、貴族以外だと読めない人がかなり多いという。


 道理で三歳でスラスラ読めた俺を見て両親が驚くわけだ。


 俺は、夜、妹のサーシャに読み聞かせている簡単な絵本を手に取ると、二人、壁を背もたれにして並んで座って一字、一字、ミラに説明しながら文字を教えるのだった。

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