五十四 初めての実験的な魔法です
教会が言う神とは何なのか……。着気にはなるところでユリアに聞いてみたいが、禁止事項のこともある。
あれほど苦しむ姿を見るのは忍びなく、何より俺が解明したい。
研究者の悪い癖なのだと思う。
マヤの準備が終わり、俺とマヤとユリアは、オリカルクム鉱石の採取へと向かう。
テディは、少し寂しそうな顔をしていたので、頭を撫でてやりながら「これが終われば、しばらく家に居るから」と約束して家を出た。
鉱山を管理してもらっているサギさんの為に、食料を買い込みユリアの武具を買い揃える為に、本日二度目の武器屋へと向かう。
殺生は駄目だと言っていたからな。そうなるとマヤと同じようなもので良いかと、革製の手袋と胸当てを買いユリアへと渡す。
ユリアが装着し終えるとマヤが自分の胸元とユリアの胸を見比べながら、不満げな表情に。
確かに革製である以上、サイズに合わせなければ防具として役に立たない。
そして、マヤとユリアの大きさは顕著で……。
俺は気にする必要などないと思うのだが、何故かマヤに睨まれてしまった。
◇◇◇
ハーネスの街を出て鉱山へと向かう中、一つ分かったのが、ユリアは味覚音痴であるということ。
というより、後にこっそり聞いたら味覚が無いそうだ。
夜の冷えを避ける為に作ってもらったスープの塩辛さ。もう、ほとんど塩を飲んでいるようなもので、俺もマヤも却って喉が渇いてしまうほど。
持って来た塩を全て入れてしまったようだ。
鉱山へと到着するとすぐにサギさんの元へ訪れ、変わったことはなかったか聞いてみた。
俺が聞きたかったことは鉱山に関してなのだが、サギさんは近くの水汲み場の近くで豪華な装飾をした鎧を身に付けた男達が複数人見かけたと話をしてくれた。
俺とマヤは、すぐに思い当たる。タイミング的に、まず間違いなく聖騎士達だろう。
どんな話をしていたか聞いてみたが、聞こえなかったようで首を横に振る。
ただ、それは距離があったというだけではなく……。
「十人!?」
「間違いないよ。十人は絶対いた。だからこそ、おかしいなぁと俺は思ったんだ」
俺達はサギさんの案内で、その水汲み場へと行くと寂れた鉱山村の郊外の森の中の綺麗な泉のある場所であった。
「ここから見たのですね?」
聖騎士達がいた場所にユリアに立ってもらい、確認すると確かに距離は、そこそこあるが、ユリアの姿はハッキリと分かる。
「他に変わったところは?」
「うーん……見たのは鎧の男達と、あとは荷台の付いた馬車が二台かな……」
「馬車……」
俺とマヤは、ユリアのいる場所へ行き地面を調べると微かに馬の蹄の跡と、馬車の轍が残っている。
辺りを見回すと、森にはなっているが木々の間に距離がある所が所々あり、慎重に進めば馬車も通れそうであった。
少し離れた場所には街道もあるのに、わざわざ森の中を通る意味が分からない。
もちろん、後ろめたい事があるのだろうが。
「答えは出ないな……。サギさん、この事は内密しておいた方がいい」
聖騎士がどういう奴らかサギさんに話、口外しない方が身のためだと伝えた。
◇◇◇
再び鉱山村へと戻って来た俺達は、サギさんからツルハシを借りて鉱山の中へと入る。
数日しか経ってないにも関わらず、鉱山内は魔物や獣が住み着いており、マヤが力づくで殴り飛ばし、ユリアが力づくで向かってきた魔物や獣を放り投げる。
二人の力は圧巻で、あっという間に以前落ちた穴までやってくる。
今度はロープを用意しており、近くの頑丈そうな岩に括りつけて、吸い込まれそうな穴の中へとツルハシとランプを持ち俺一人で降りていく。
ついてきたがったマヤとユリアには、見張りをお願いした。
理由は単純で、俺はここまでなにもしていないからだ。
確かに俺は部屋に篭って研究をしたいタイプだが、ヒモになりたい訳ではない。
いわゆる、ただの見栄だ。
穴の底へ着くと俺は早速壁に剥き出しになっているオリカルクム鉱石を取り出すべく壁に向かってツルハシを振るう。
ガキンと金属音がして、ツルハシを持つ両腕が痺れてくる。
「硬ぇえ~!」
とてもじゃないが、俺一人で何とかなるものじゃない。
ユリアの力ならイケるかと思うが、自分が情けなくなってくる。
以前のように近くに落ちていないか探してみるも、細かいものは落ちているが以前ほどの大きさではない。
手軽に採取出来ないと、これからの魔法の研究にも影響が出てくる。
「魔法……ちょっと試すか」
俺は剥き出しになっているオリカルクム鉱石の横の岩壁に手を当てる。上手くいけばオリカルクム鉱石を押し出してくれるかもしれない。
「ガイア!」まずは神の名前を口にする。すると、指先が少し熱さを覚え光り出し力が溢れる。
次に指先の力を注ぎながら円を描き中には五芒星を描いていく。
少し歪かと思ったが後戻りは出来ない。
俺が使うのは、地属性の基本の魔法。
「グラウンドブレイク‼️」
魔方陣が光輝き、轟音と共に岩壁が崩れ俺のすぐ目の前を弾丸のようにオリカルクム鉱石が通り抜けた。
「し、死ぬかと思った……」
心臓がバクバクと激しく脈打つ。しかし、その甲斐あってか拳大のオリカルクム鉱石が二つ、採取するのに成功した。




