五十一 提督の旧友です
武器屋の親父さんからの入れ知恵をもらい、その足で提督府へと向かい、ファインツ提督へと取り次いでもらう。
今度はファインツ提督が扮装していたのとは別の案内人に提督の元へと案内されると俺は扉をノックする。
「入っていいですよ」と中からの声に俺は扉を開き部屋へと入ると椅子に腰掛けることなく、提督のテーブルの前に立つ。
それと同じくして、提督の部屋の扉がノックされて入ってきたのは副提督だ。
「随分と早かったですが、もう調べたのですか?」
「はい。丁度知り合いの武器屋だったので、話は早かったです。提督の所望しているオリカルクム鉱石ですが、余った分ならお譲りするそうですよ」
「本当ですか!?」
椅子から立ち上がり驚く提督。俺は武器屋の親父さんに言われた通りにしただけである。
武器屋の親父さんは、俺から買い取ったオリカルクム鉱石を一部を自分で使用して、残りを売ればいいと話をしてくれた。
提督には武器屋の親父さんから、出所は聞き出せなかったが取引の約束だけは取り付けたと、そう話をした。
「ふむ。出所は話せない……ですか。まぁ、いいでしょう。恐らく彼も他に漏れるのを恐れて黙っおられるのでしょう」
提督は、明日にでも武器屋の親父さんを呼び取引の正式な契約を取り交わすと俺に伝えると、副提督にすぐにヴェネの首都へ遣いをやり、聖騎士どもの動きを探れと命じた。
「ちょっと、待って頂けませんか」
ひとまず、お役御免となった俺は帰宅しようとする俺を提督が呼び止める。
もう、俺に用はないはずだし、武器屋の親父さんにオリカルクム鉱石を新たに仕入れるように頼まれているため、すぐにでも戻りたいのだが。
「実は貴方にもう一つお願いがあるのですが」
提督に恩を売っておいて損はない。そう感じた俺は頼みの内容を聞くだけ聞くことに。
「ありがとうございます。私にはファザーランドに旧友がおりましてな。中々会えずにいたのですが、最近になり手紙を出したのですが返信がなく心配しているのです。そこで、貴方の事情は承知していますが伝を頼って頂き連絡を取って欲しいのです」
伝と言われても、俺は逃げるように飛び出してきたし唯一心当たりはドギくらいのものだ。
ただ、提督はこの港に絶大な権力を持っている。この港を拠点しているドギにとっても悪い話ではない。
「遂行出来るか分かりませんが、知り合いに聞いてみます。その程度で良ければですが。それで、その人の名前は?」
「それで十分です。因みにその人ですが子爵家の方で名前はファルコ。ファルコ・ルーデンスです」
その名前を聞いた途端に俺は目の前が真っ暗になり、眩暈を起こしてこの場で倒れそうな気分になる。
まさか、ここで父の名前が出るとは思わず、明らかに俺は提督に動揺を見せてしまっているであろう。
生唾を飲み込み緊張で額からはうっすらと汗をかき始める。
「アルさん?」
提督の目には今の俺はどう写っているのだろう。不味い……何かを話さなければと思うが、頭の中は真っ白になり言葉が出てこない。
「ふむ」
何か考え込む提督を見ると焦りだす。何か、何か言わないと俺のことがバレてしまう。
「その人は……その、人は……もう……いません……」
明らかに余計な事を口走ってしまったと思ったが、それは後の祭りで。
だが、提督は再び「ふむ」と考え込むと「わかりました、下がって良いですよ」と追い出されるように、俺は提督の部屋を出ると気づいた時には家の前まで帰って来ていた。
辺りは真っ暗になっていて、どうやって帰ってきたのかも分からない。提督の信頼を勝ち取れたと思った瞬間、するすると手の中から抜け出たように感じていた。
「お帰り、お兄ちゃん」
テディの声が耳に入り反射的に頭を撫でてやる。二階へと上がり自室へと入った俺はすぐにベッドに横になり、混乱している頭の中を整理する。
「アル?」と、俺のおかしな様子に心配したマヤが声をかけてくる。
「失敗したかもしれん」
俺は提督とのやり取りの一部始終をマヤに伝えると、俺の心情を察してかベッドで横になる俺の頭を優しく撫でてくれた。
不思議と混乱していた頭の中が、落ち着きを取り戻す。
提督とのやり取りを遡って整理する。俺はファザーランドからマヤと共に駆け落ちして逃げてきたと話をした。それから、オリカルクム鉱石の取引を武器屋の親父さんと契約はまだだが、成立させて提督の望む物を提示出来た。
あとは、父の話が出て……俺は父がどうなったか知っている素振りをしてしまった。
問題は俺の態度を見て提督がどう感じたかだ。提督は、俺がアルフレッドと名乗っているにも関わらず、父と俺を結びつけなかった。
それは、父にアルフレッドという子供がいるのを知らなかったからではないだろうか。
長い間、会っていないとも言っていた。俺もあの提督がウチを訪ねてきた覚えはないし、父からも話が出たことはない。
調べればすぐに分かることだが、今の時点では父ファルコの事を知っている程度としか思われていないかもしれない。
提督の信頼は手のひらから、辛うじて指の間で引っかかっているのかもしれないと俺は、少しホッとしたのだった。




