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四十九 油断ならない提督です

 副提督を警備の人に呼びに行ってもらっている間、提督府の建物の前で立ち尽くしていた俺は、自分が緊張してきているのを感じていた。


 まるで何もしていないのに、職員室に呼ばれて来たような緊張感。

大学の教え子を特に用もなく呼び出した時も、同じ気持ちだったのだろうか。

悪いことをしたな、気をつけないとって、今さらか……。


 長い時間立っていた気分だが、呼びに行った警備の人が一人で戻ってくる。


「ご案内します。お入り下さい」


 淡々と表情を変えることなく警備の人は門扉を開けて俺を敷地内へと招き入れる。

丁寧に剪定された庭を通り抜けて、建物の入口へと辿り着く。

建物内は、警備の人とは別の人が案内してくれるみたいで、今度は扉前に立っていた糸目の男性のようだ。

流石に提督府だからだろうか糸目の男の身なりは綺麗に整えられており、その一瞬たりとも気を緩めない所作の一つ一つに俺は驚くしかなかった。


 案内された部屋は、豪華な装飾品が幾つも飾られており、絵画や人物画まで飾られている。

そんな装飾品さえも霞むものがテーブルの上に。

小分けされた麻袋が積み重ねられており、そのうちの一つは、口紐が緩みテーブルの上に大量の金貨を吐き出していた。


「椅子に座ってお待ちを」


 糸目の男はそれだけを言うと扉を閉めて出ていく。

何気なく椅子に座るが目の前で散らばる金貨はやはり目につく。


 ──怪しい。


 あの糸目の男は金貨に触れることなく去って行った。あれほど、身なりや所作が立派なのにだ。

仕事も出来るはずなのだが、金貨を片付けようともしなかった。

何より、この部屋には俺しか居ないはずなのに視線を感じる。


 確か何かで似たような……そうか。隣の部屋から人物画の目を通して覗いているあれか!


 俺は椅子に座ったまま頭も動かさずに、目線だけを人物画に移す。じっと見ていれば瞬きをするはずだと、見逃さないようにじっと見ていた。


 おかしい……何も起こらない。俺はもっと近づいて見ようと立ち上がったその時、扉がノックされて俺は「はい」と返事をする。


 部屋の扉を開き入ってきたのは、あの副提督、続いて糸目の男が。


「わざわざお越し下さり感謝しますぞ」

「いえ、こちらこそ。舌の根が乾かぬ内にお会いすることになり申し訳ありません」


 副提督と握手を交わしながら、然り気無くテレーズとの事を匂わして余計な事は言わないように釘を刺しておく。


「ところで、提督はまだ来られないのですか?」

「は? いえ、その、ここに……」

「やぁ、どうも初めまして。提督のファインツと言います」


 自己紹介をしながらニコリと笑顔を見せて細い糸目が更に細くなる糸目の男、この男がハーネスの街の提督であった。


「初めまして、アルフレッドです。アルと呼んで頂ければ

「どうも申し訳ない。試すような真似をしてしまって。この地位に着いてから色んな相手が寄って来るので」



 そう言うとファインツは、一枚の人物画の前に立ちその絵を壁から外すとそこには予想通り覗き穴が。

俺は間違いなくその絵をジッと見ていたはずたが、どうやらファインツが糸目過ぎて確認出来なかったようだ。


 俺はファインツの案内で副提督と共に提督の執務室のような場所へ案内され、椅子に腰を降ろした。


「さて、大体の話は副提督から聞いていますよ。もう少し詳しい話を聞かせてもらえますかな?」


 ファインツ提督は、自分の椅子に腰をかけながら、両肘を机について口元を隠すようにこちらを見据える。


 ちょっと不味い状況だ。元々先に副提督がどこまで話を通しているのか確認してから会うつもりでいた。

それに飄々とした雰囲気を持つファインツという男。

油断ならない相手だ。

ただでさえ糸目の為に感情が読みにくい上、向こうはこちらをハッキリと見ているだろう。更に口元を隠されると益々わからなくなる。


 嘘を吐いてもすぐにバレそうだ。かといって全てを、特に俺の素性など話す訳にはいかない。

まずは、当たり障りのない所から話すことに。


 俺がファザーランドからの移住者であること、ファザーランドでも聖騎士に対しては良い感情を抱いていない者も多いこと、今回偶然見かけた聖騎士がこの提督府に入って行ったこと、最後に聖騎士の動きが変であることを告げた。


「そうですか、ファザーランド出身ですか。ふむ……では、その若さで移住をしに来た理由は?」


 いきなり核心を突かれる。ここで俺と聖騎士の関係を話してしまうと、却って疑われる。まるで提督を利用して復讐するかのように。

国から若くして移住する理由……。


「実は、マヤという女性と駆け落ちしまして。その、彼女が……隻腕、隻眼でして両親に反対されたために」


 思いっきり嘘を吐いてしまう。俺は副提督へチラチラと視線を送りフォローをお願いする。

副提督もマヤの事は知っている。頼む、と心の中で強く願うのであった。


 

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