四十八 聖騎士の動向です
ユリアが副提督から預かってきた手紙を読み終えた俺は二人で家へと戻り、マヤ達を集めた。
なるべく、外に声が漏れるのを恐れて俺の研究室で話し合うことに。
ランプの灯りを点けて、一台しかないテーブルを中心に集まると俺は手紙をテーブルに置く。
「一応、僕はざっと目を通した。字の読めないテレーズの為にも音読しようと思う」
俺は手紙を開き、読み始めた。副提督の手紙によると、聖騎士の目的はやはり布教活動。
しかし、いつものように提督は突っぱねたらしい。
俺やマヤの行方を探っているのかと思ったがそれは手紙には書かれていなかった。
安心するのはまだ早いが、副提督は聖騎士の態度がいつもと違ったことに違和感を感じたらしい。
いつもなら、数日滞在して執拗に提督府を訪れるらしく、時には脅しすらかけてきていた。
ところが、今回はアッサリと引いて、街を出たという。
ここには俺も違和感を覚えた。帰国ではなく街を出たのだ。
布教活動ならば、ヴォルザーク大陸、そして小国ヴェネの玄関口でもあるハーネスの街から行うべきだと思う。
足掛かりにもなるし、何よりファザーランドから人を送り込みやすくなるだろう。
街を出たということは、ヴェネの他の街かヴォルザーク大陸にある別の国へと向かったことになる。
全員の顔を見るが、聖騎士達が街を出ていった理由は見当もつかないようで。
「テレーズ。この街以外で布教は可能だと思うか?」
なんだかんだこの大陸に一番長くいるテレーズに聞いてみたが、首を横に振る。
「無理だと思います……全部の街を知っているわけではないですけど。少なくともその街の長が首を縦に振らない限りは……」
このハーネスの街の長である提督の評判は、俺が聞いた限りでは良くもなく悪くもない。ただ、俺としてはいい評判だけ流れる方が怪しく思える。
どんなに優秀であっても、この世に悪人と呼ばれる者がいる限り、悪く言う者は現れるだろう。
ここ数年、提督が替わっていないことから、かなり優秀なのだと俺は推察する。
待てよ、替わっていない……?
首を縦に振らないのなら振る人間にすげ替えてしまえば……。
もしも、これが可能ならかなりこのハーネスの街は厄介なことに。
俺は自分の考えを皆に伝えると、特にマヤなんかは顔が青ざめた。
「僕らだけでどうにか出来る問題ではなくなったな」
「やっぱりあの副提督にも協力して貰わないと……テレーズさん、テディちゃんは大丈夫?」
二人は一度互いに顔を見合わせると、こちらへ向き頷く。
早速と、俺は再び副提督へと手紙をしたため、ユリアへと手渡すと今度はマヤと二人で副提督の家へと向かっていった。
日が落ちると流石に冷え込みが強くなり、俺とテレーズとテディは、暖かいお茶を用意して二人を待つ。
小一時間が経過すると、俺は果たして二人きりで行かしても良かったのだろうかと心配になる。
正直マヤとユリアを二人きりにしたくはなかったのだが、マヤにどうしてもと押されて、つい許可してしまった。
とは言え、マヤに関しては心配していないが問題はユリアだ。
彼女は嘘は吐けないと言っていた。
俺の転生のこととか、ペラペラと喋らないかが心配なのだ。
そんな心配をしながら更に三十分ほど経った頃二人は戻ってきた。
俺は二人の様子を伺いながら、暖かいお茶を淹れて二人に渡す。
特に出ていった頃と様子は換わらない。
むしろ、若干柔らかな雰囲気が二人の間に漂う。
俺はユリアが預かった副提督の手紙を受け取ると、テディ達にも分かるように音読する。
内容は、明日提督府に来てほしいということだけであった。
やっぱりそうなったか。今まで安定して座っていた椅子を他の誰かに奪われるなどと提言しようものなら、却ってこちらが疑われる。何か企てているのかと。
だから、直接俺の方から言ってほしい、そういう事だろう。
これで行かないとなると余計に疑われてしまう。行かざるを得ない。
明日に備えてベッドの中で何度もシミュレーションを繰り返す。
結局この夜、俺が寝たのは朝方になってからだった。
一つ大きな欠伸をして俺はそれなりの身なりを整える。マヤもユリアもついていくと聞かなかったが、俺は家で待っていて欲しいと伝えて一人提督府へと向かった。
大きな三階建ての建物に、俺の背丈の倍以上ある塀。柵状の門扉は固く閉じられて警備の人間が睨みを利かす。
少し緊張してきた。まるで初めてバインツ伯爵に会った時のようだ。
意を決した俺は警備の人に副提督へと繋いで貰えるように頼んだ。




