四十七 新たな火種到来です
「どうして、聖騎士が……」
路地裏に隠れながら、俺は聖騎士の後をつける。
街の人々も、その物々しい風体からか怪訝そうな表情で彼らを見ていた。
時には、怪訝な視線を送りつけてくる街の人に対して、一人の聖騎士が突っかかろうとする場面もあったが、残りのもう一人が制したところを見ると、恐らく上司か何かなのだろう。
教会に対して良い印象を持たないハーネスの街で、如何にも聖騎士ですと言わんばかりの格好が余りにも珍しいのだろう、家から出て見物する者まで現れていた。
つまり、この聖騎士二人は教会を代表して、このハーネスの街に来たことになる。
そして俺は二人が入って行く建物に冷や汗が止まらなくなった。
提督府。この街の実質支配している場所である。
俺は、二人が入って行ったのを確認すると、すぐに家へと戻っていき、マヤの元へ。
「マヤ! 大変だ‼️」
二階へと駆け上がり俺とマヤの部屋の扉を壊しかねない勢いで開く。
慌てた俺の様子を見たテディやユリアが、俺の後から部屋へと入ってくる。
俺が教会に追われている事を話すべきか悩んだ俺は、一度マヤと二人きりで話させてほしいと、ご遠慮願う。
部屋にマヤと二人きりになった俺は、小声で街で聖騎士を見かけた話を伝えた。
一体何の目的でこの街を訪れて来たのか。
真っ直ぐ提督府へと向かったことから、観光目的ではないのは明らかで、俺はマヤに相談する。
「アル。テレーズさんや、ユリアさんとも相談しよ」
しかし、女神であるユリアはともかく、テレーズ、特にテディを巻き込んでしまう恐れがあると渋る俺を言い聞かすように、目の前に立ったマヤは俺の目を見てくる。
「アタイや今の動揺しているアルじゃ絶対いい案出ない。それにアタイ達と一緒に住んでいる以上、既に巻き込んでいるよ。このままじゃ、却って危険」
マヤに諭され俺は、奴らが人の話を聞くような連中ではないことを思い出す。
情けない。俺が一番良く知っているはずだろうがと、内心苦々しくなる。
俺とマヤは廊下にいたテディとユリアを連れて一階へと降りていく。
リビングでテレーズも交え、俺は今まであった出来事を全て話をする。
テレーズとテディは驚いた様子であったが、ユリアは知っているのか眉一つ動かすことなく黙って聞いていた。
「そもそも、教会ってなんなんだ?」
俺自身、王立図書館で調べたものの、外部に出ている以上の情報はなくその実態は不明で、女神であるユリアなら何か知っているのではないかと尋ねてみたのだが、ユリアから帰ってきた返事は「知らない」というものであった。
知っているのに知らないフリをしているのか、知っているが話せないのかは分からないが、ユリアは先ほど嘘を吐かないと言ったばかりだ。
話せないのであれば、黙っているはずで知らないと言えば嘘になる。
つまり、本当に知らないようであった。
「まずは奴らがここに来た目的が知りたいな」
自分でそうは言ったものの、提督府に直接聞く訳にもいかない。絶対、何故知りたいのか聞き返されるのがオチである。
ふと見たテレーズもテディも、俺が思っていた以上に真剣な表情で模索している様子にホッとする俺がいた。
裏切る、なんてことは考えていなかったが、ここまで親身になってくれる二人に俺は謝る。
いきなり謝られた二人はキョトンとした顔をしていた。
まぁ、いきなり謝られたらそうなるかと俺の頭の中は一度クリアになり、冷静さを取り戻すことである人物を思い出す。
提督府に精通しており内部事情に詳しく、何より後ろめたさから俺たちの事を追及してこない可能性のある人物。
「あの副提督に聞いてみるか」
テレーズやテディが行くのは、ややこしくなるし、俺やマヤでもいいのだけれども、一応向こうには、偶然以外、会わない様に言って聞かせている立場でもある。
そこで、あの場に居なかったユリアの出番だ。
俺は直ぐに副提督に対して手紙を書くとそれをユリアに副提督へと渡すように頼んだ。
副提督の家まで俺がユリアを案内すると、副提督に直接渡すように念を押す。
もし、他の人が預かろうとしても決して渡さないで、その場合戻ってくるようにと。
なるべく人目のつかない場所で隠れた俺は、ユリアの帰りを待つ。
一時間が経ち、二時間が経つ……
「遅いな……」
俺は隠れた路地裏を行ったり来たりして落ち着かなくなっていた。
手紙を渡すだけで、これほど時間がかかるのだろうか。
心配の余り、路地裏から何度も何度も顔を出して確認していると、ようやくユリアが副提督の家から出てくる。
特に怪我をしている様子もなく、路地裏にいる俺が手を振ると元気に駆けよってきてくれた。
「遅かったな、心配したよ」
「直接副提督に渡したよぉ。すぐに返事を書くって言うから待ってた」
はい、とユリアは一枚の手紙を俺に手渡す。内容が気になった俺は一足先に手紙を読み始めた。
そこには、聖騎士の要求内容と、提督がそれを拒んだことが書かれてあった。




