四十四 謎の女性との再会です
「キミは一体、誰だい?」
俺は目の前にいるマヤに違和感を感じ問い詰める。一歩、また一歩と近づくと後ろめたさからか、徐々に部屋の奥へと退いていく。
壁際に追い詰められたマヤに似た女性は、思わず俺から視線を逸らす。
更に問い詰めようとした、その時。マヤが歪み始める。まるで陽炎のようにボンヤリと俺の視界に映るマヤ。
やがて、マヤの姿はどこにもなく、目の前には髪の左側が金髪で、右側が銀髪に分かれた謎の女性が現れた。
おどおどと揺れる瞳は髪色とは逆に左目は銀色、右目は金色をしている。
俺が呆然としてしまっていると思ったのか、その女性は俺の視界から少しずつ、少しずつ外れていく。
「逃がすわけないだろ」
俺は彼女の腕を強く掴み引き寄せると、そのまま壁に押し付けた。
その時、ズキンと頭が痛む。
記憶の端で、俺はこの女性を知っていると警告してくる。
思い出そうと、考えるが何時、何処で出会ったのか記憶を探っていく。
考え事をしている俺が黙っているためか、俺の目に映る彼女は、物凄く居心地が悪そうにオッドアイの瞳が左右に揺れていた。
俺の記憶に彼女らしき人との出会いがボンヤリながら思い出す。彼女らしきと言ったのは、顔が思い出せないのだ。まるで、首から上に霧がかかっているようで。
しかし、俺の記憶がこの女性と同一人物だと言ってくる。
思い出したのは、俺がこのハーネスに来て初めて冒険者として依頼を受けた時、迷子になった俺を導いてくれた女性。
「キミはあの時の……」
「えっ!? お、覚えているんですか!?」
そうだ、俺は彼女を忘れそうになるのを避ける為に、その姿形は忘れようとも、常に考える事で忘れるのを防いでいたのだ。
しかし、それすら忘れそうになっていた。
もう数日遅かったら思い出せなかったかもしれない。
彼女は、俺が覚えていることに驚きを隠せなかった。今も俺は彼女の腕を離さない。
離してしまえば、また忽然と消えてしまいそうで……。
「誰なんだキミは。それにマヤへの変装……いや、変身か。それはもしかして魔法じゃないのか?」
「な、なんで覚えているんですかぁ? このままじゃ、帰れないじゃないですかぁ」
どうも話が噛み合わない。彼女は、まるで俺が覚えていたら不都合だと言っているように聞こえる。
「おい! いい加減にしろよ、早く答えろ‼️」
語尾を強め、腕を掴む力も強めるが、彼女は特に痛がりもせずに、一つ大きな息を吐いた。
「仕方ない……これは不可抗力。不可抗力よ……」
ぶつぶつと何か呟きながら、おどおどした目から一転して俺を睨んでくる。
「そろそろ、腕を離して欲しいんだけどぉ」
「また、逃げるだろ」
「逃げないわよぉ。認識されちゃったもの。そろそろ腕に痛みも感じ始めたわ、離してくれない? 早見誠一さん」
彼女の口から出た言葉に俺は驚き思わず彼女の腕から手を離してしまう。
何故、その名前を。そう聞きたいが驚きの余り声が出ない。
「あー、もう。赤くなっちゃってるぅ」
確かに俺が握っていた辺りが赤く染まっていた。さっきまで平気そうにしていたのに、今は少し痛そうな表情をしており、俺は申し訳なさで謝ってしまう。
「聞きたいことはわかるわぁ。でも、その前に一つお願いがあるのよ」
赤く染まった辺りを擦る彼女への申し訳なさから、お願いと聞き思わず頷いてしまい、慌てて聞けるお願いならと訂正する。
「私と添い遂げて」
「………………は?」
俺の耳がおかしくなったらしい。そう言えばここ最近忙しくて耳掃除していなかったなと、指で思わず耳をほじくる。
「そのまんまの意味よ。もう一度だけ言うわね。私と添い遂げて欲しいって言ってるのよぉ。聞き返さないでね、私も恥ずかしいし」
彼女は横を向いて顔を背けるが、その顔はとても真っ赤に染まって恥ずかしそうな表情だった。
「理由を聞いてもいいか?」
「理由? あなたが望んだんじゃない。可愛い嫁と娘が欲しいって」
ダメだ、話が噛み合わない。確かにそれは望みはしたが、押し掛け女房にも程があるだろう。
「本当なら自分で掴んで欲しかったけど、あなたが私を認識しちゃうなんて……」
「ダメだ。頭が追い付かない。順を追って話をしてくれないか? そもそもどうして早見誠一の事を知っている?」
何よりも聞きたい事だ。俺の事を知っている人間なんてこの世界に一人も居ないはずだし、何より話をしたことすらない。
「知っているわよぉ。私が転生させたのだから……」
ポカンと口を開ける。よく、聞く表現だが実際に見たことはない。だが、今の俺はまさしくポカンと口を開けているのだろうな。




