四十三 ワイトの魔法理論です その二
「ふ~……」
俺は一度ペンを置いて、目頭を指で挟み天井を見上げて目を休ませる。
ここまで書いていて俺が思ったのは、ワイトの性格。
随分と探求心が強く、まるで俺のような研究者だ。
三百二十年。何故、これほど長生き出来たのかも謎だ。俺が持つワイトの記憶にその記述は無い。
ワイトの世界が特別長生き出来るわけでもない。
まるで、研究の為に長生きしたような……。
まさか、ワイト自身転生者? 長生き出来たのは何かを願ったから……?
もし、そうだとしたらワイトに同じ研究者として敬服する。
結局最期は、弟子一人と……おかしい。ワイトの最期を看取ったのは弟子ともう一人誰かいたはずだ。
いや、最期だけではなく、ワイトの記憶には常に側に誰かがいた。
ズキンと頭が痛む。忘れてしまったのか、喪失したのか分からないが、俺は魔法理論までそうならないように、続きを書き始めた。
各信仰のシンボルマークである魔法陣。何もない空に描くのは大変だったようだ。
歪んでしまうと百パーセントの魔法が出ない。
何度も練習を繰り返し、綺麗に書けてもまだ足りない。
その魔法陣に魔力と呼ばれる言の葉を唱えて得れる指先に溜まる力を注ぎ込まなくてはならないのだ。
この魔力の注ぎ方が魔法の暴走に繋がる。
一気に全部注いでしまうと暴走してしまうのだ。
少しずつ満遍なく注がなくてはならない。
つまり俺が魔法を使うには練習あるのみである。魔法陣を綺麗に描き、満遍なく魔力を注ぐ練習を。
更にワイトは魔法陣を組み合わせることで、魔法の種類を増やすことにも成功する。
俺がマヤの手術の時に使用した魔法“ホーリーエイド”もそうだ。
あれは、聖属性に水属性を重ね合わせた。
あのときは、魔法陣が歪み魔力も上手く注げなかった分、精度が悪く広範囲かつ威力も低く、結果マヤの傷口を塞ぐ程度しか出来なかった。
広範囲であった為、偶然マヤの頬の火傷の痕を消し去ることになったが、百パーセントで使えたならば、マヤは右腕を失うことはなかったのかもしれない。
ワイトは魔法を人々の役に立てようと、魔法を施した道具の作成に入った。
魔法陣を綺麗に描く練習を省く為に、いくつかの鉱石に魔法陣を刻み込む手法を思いつく。
そんな鉱石の内の一つがオリカルクム鉱石、いわゆるオリハルコンであった。
魔力を注ぎさえすれば、様々な生活で使用するより、高い威力の魔法を使えるように。
弟子が出来て、魔法陣を刻んだ鉱石を利用した道具が世間に浸透し始めた。
やがて、その道具が戦争に利用されるとは、ワイトも当時は思いもよらなかっただろう。
結局、ワイトは三百二十年という時を使っても、魔法理論の完成一歩手前で亡くなった。
魔力というものが何なのか……これは俺が必ず見つけてやると、ペンをテーブルに置いて伸びをする。
背後の扉からノックが聞こえ、俺が答えるとマヤが入ってくる。
「アル、お疲れ。お茶持ってきたよ」
「ありがとう、マヤ」
俺はマヤが淹れてくれたお茶に手をつけると、辺りに散らばった魔法理論を書きためた紙を見る。
俺の悪い癖だ。夢中になると、他のことに気が回らなくなる。
「何か手伝おうか?」
「ありがとう。悪いけど散らばった紙を集めてくれないか。番号をふってあるから」
俺は片付けてくれているマヤを見ながら、お茶と共に持ってきてくれたクッキーに手をつける。
「ジンジャークッキーか……」
この世界では、フバレットと呼ばれる一般的なクッキーだ。ジンジャークッキーに似ている味の為についついそう呼んでしまう。
お菓子類を食べるとどうしてもミラを思い出す。
幼い頃様々なお菓子を作っては持っできてくれたことを。
「あっ……」
マヤも気づいたらしく気まずそうな表情でこちらを見る。
「大丈夫……大丈夫だよ、マヤ。ありがとう」
マヤはニッコリと微笑んで、拾い集めた紙を番号順に整理していく。
「ところでさ……」
俺はマヤに気になったことを質問することに。それは、マヤがここに入ってきてからずっと感じていた違和感。
「キミは、誰だい?」
そう、おかしいのだ、このマヤは。
俺はこの部屋に入らないようにテレーズとテディには言い聞かせた。
マヤには言ってはいないが、マヤの性格上緊急の時以外に、俺が入って欲しくなさそうにしている部屋にお茶など持ってこない。
絶対、お茶を用意して俺が出てくるのを待つはずだ。
何より、今俺が頼んだ魔法理論の紙の整理。マヤにアラビア数字でナンバリングをしている紙を整理出来るはずがないのだ。




