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四十二 ワイトの魔法理論です その一

 結局、元々俺とマヤが泊まっていた部屋は、そのまま俺とマヤの部屋に。

階段下の物置として使っていた地下室を俺が魔法を研究する部屋へと改装する。

研究室と言っても、装置などはなく一つの机と椅子、そして空っぽの本棚があるのみ。


「俺が居ない時に入らないようにな」


 テレーズとテディに言い聞かす。別に入っても、教えても構わないけれども、万一教会関係者に知られると厄介だ。

このハーネスの街がある小国ヴェネは聖マーチンス教を受け入れてはいないが、ファザーランドと交易はある。

中には教会関係者もいるかも知れないので、用心に越したことはない。


 魔法の研究と言っても、魔法理論は俺の前世ワイトがほぼ確立している。

ただ、これは俺の頭の中にあるもので、忘れたりしかねないので、まずは書き出すことから俺は始めた。


 俺は記憶にあるワイトの人生を振り返る。一生独身で死んでいったワイト。

三百二十年という膨大な年月の大半を魔法理論の確立に、脇目もふらず邁進した男。

確立し、世に認められた頃にはかなりの高齢で、その後は後継を育てるのに尽力を注いだのだが、教え子の中には金目的も多く、やがて魔法理論の応用を利用した戦争が各地で起こることに。


 結局、後年は一部の教え子と共に戦争を止めることに走り続けることになったのだ。


 今アルフレッドの中には、俺早見誠一の人格しかない。俺がワイトに転生したときには、既にワイトの人格は無かった。

その理由は分からないものの、ワイトの遺志だけは俺にハッキリと伝わってきていた。


──魔法理論を、まだ未完成な魔法理論を完成させて欲しい、と。

そして──かわいい嫁が欲しかった、と。


 前者は俺の研究者魂を揺さぶり、後者は俺も同じく望むことだ。

手に持ったペンを力が入り思わずおってしまう。

ついつい、ミラの顔を思い浮かべてしまっていた。


 気を取り直して俺は再びペンを持つと、魔法理論の書き写しに入った。


 ワイトの始まりは、何故神が複数居るのかという、幼い頃に疑問に持ったことからだった。


 ワイトの世界には六体の神を信仰する世界で、魔法に関しては此処と同じく神に与えられたモノだと教えられる。

しかし、ワイトはそれぞれ教えは違うのに魔法に関しては、どの神を信仰していても同じことに疑問を抱いた。


 ワイトは周囲に馬鹿にされつつも、それぞれの神に関しての情報を集める。


 ワイトの世界の人々が使役する魔法の威力も、この世界と同じで個体差がなく生活で使用する程度の威力しかない。

ところが、各神に関して調べていくうちに、時折暴走と言うべき威力を偶然発揮する報告があることに気づく。


 暴走に関して調べていく内に、一つの共通点が見つかった。

それは命の危機に瀕して、思わず神の名前を口にしたという。


 すぐに試したワイトだったが、当初は上手くいかなかったが試行錯誤繰り返す内に、とある組み合わせだけが威力が増すことを発見したのだ。


 暴走──というほどではなかったものの、明らかに威力が上がる。

それは、使う魔法と神の名前の種類。


 元々ワイトは、両親がアクアという名前の神を信仰していた為にアクアと口に出し続けて火の魔法を試していた。

何十回と使うが、火は出るものの威力が上がらずに諦めかけた時、喉が渇き水の魔法を使う時に思わずアクアと口に出してしまう。

すると、今までより明らかに出てくる水の量が多いのだ。


 ここからワイトは、六体の神と六種類の属性に関連性があることに気づいたのだ。


 マーズは火、アクアは水、シルフは空、ガイアは大地、センテは聖、ディアブルは魔。そして、魔法を使用する場合に口にする神の名をワイトは“言の葉”と呼ぶようにした。


 これで満足するワイトではなかった。威力は上がったとしても暴走とは呼べない。

考えられる要因としては、命の危機に瀕した状態であったことくらい。

どうしても、火事場のくそ力のような非論理的なことと捉えたくないワイト。


 やがてワイトは一つの結論に至る。神が魔法を与えたのではなく、魔法が神になったのではと。

つまり言の葉は神の名前ではなく、言の葉が神の名前として扱われたのではないのか、と。


 魔法ありきで、考えたワイトは再び、各神の信仰を調べていく。

各信仰にはシンボルマークの様なものが存在し、それら全ては円の中に線や図形が描かれていた。

円の中に平行に二本の線、三角形、四角形、五角形、六角形、最後に八角形。


 ラノベにハマっていた俺ならそれが魔法陣のようなものであることに気づいただろうが、当時ワイトには分からなかったのは仕方がないと思う。


 言の葉で高まった魔力で(くう)に魔法陣を魔力を均等に注ぎながら綺麗に描くことで最高潮の魔法が使えると分かるまでに、ワイトは相当な年月を費やした。

それこそ、結婚適齢期を過ぎて五十半ばになるまでに。

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