四十 事件解決です
全員から注目てオロオロと戸惑うテレーズ。正直、殺意の有り無しは別として未遂だと、副提督の妻らが処刑されることはないだろう。
街を追放されるくらいか、同程度の罰を受けるくらいだ。
この判断を間違えれば、更に恨まれることは間違いない。
テディのためにも、判断を間違えるなよテレーズと、俺は強く願う。
「わ、私は……私達にもう関わらないで欲しいです」
か細く震える声で出したテレーズの答え。副提督は幾度となく頷き、その答えに満足しているようだった。
問題は、副提督の妻の反応。
俺はチラリと吊るされている顔を見る。
何とも複雑そうな顔をしていた。
襲ったことを罪に問われないのは、喜ばしいが妻の座、財産などテレーズ達の意思とは別として常に怯え続けなければならないのだ。
「テレーズ、親類とか身内とか頼れないのか?」
被害側が街を出るのは不本意だが、テディの命の危険もある。
そんなことは言っていられないだろと、テレーズに尋ねるが身内はもういないと言う。
「す、少し良いか?」
「あんたは喋るな。ややこしくなる」
ここにきて副提督が口を出してこようとしたので、ピシャリと断る。
元々の原因でもある。しゃしゃり出てこられると複雑さが増す。
「た、頼む。話だけでも!」
「アルさん……あの、私達は大丈夫ですから」
副提督の必死の頼みと、テレーズにお願いされ話だけは聞くことに。
「わ、私が副提督を辞めるというのはどうだ? そうすれば我々がここに残る理由は無いからな」
ほら、やっぱり複雑になる。副提督はこの街のナンバー2だ。
辞めます、はい分かりましたと、いくわけがない。
それに提督が副提督の味方をしたらテレーズ達は無一文で街を追い出されかねない。
というより居られなくなる。
俺は副提督に無理だと話す。が、副提督の話には続きがあった。
「も、もちろん、すんなりと辞めれはしないが、任期満了まであと一年も残っていない。次の更新を拒否すれば提督も何も言わないはずだ」
約一年我慢しろということか。テレーズにしろ、副提督の妻にしろ。
「あんたはどうだ? 一年、しっかりと旦那の手綱握って我慢出来るか?」
まだ目には不安の色が見てとれ何か手はないかと模索する。
要はテレーズが困窮しているから問題なのであって、それを取り除いてやれば副提督の妻も納得するのではないかと考えた。
その時、俺に一つ妙案が。
「安心していい。この二人はおれ──僕か面倒を見る。二度とお金の無心にくることはないし、ほぼここの宿の表通りを通らない限りそうそう会うことは無いだろうしな」
何か言いたそうだが、逆さまにずっと吊るされていて苦しそうだ。
妻だけ宿の中へと入れてやると黙って頷いて提案を受け入れてくれた。
「副提督、ちょっと……」
俺は代理人の男とここを襲撃した男の処理を副提督にお願いする。
決して妻に代理人達の居どころが分からないように。
どちらが首謀者かは分からないが、少なくとも結託はしていたわけで。
二人一緒にしてしまうと、煽り再起を図ろうとするかもしれないと伝えた。
副提督は謝罪をテレーズとテディに言いながら、部下と共に妻や代理人を連れて帰っていく。
ドギもそろそろ出航準備が出来ているはずだと、船へと戻る。俺やテレーズは何度もお礼を言い、いつか恩を返すと伝えた。
ドギは、いつも通り「ガッハッハ」と豪快に笑い、気にするなと俺の背中をひっきりなしに叩いて笑顔を見せる。
その笑顔は、すでに懐かしく思えるバインツ伯爵とそっくりで……。
もしかしたら二度と会えない伯爵の分まで、この人に必ず報おうと心に強く誓う俺がいた。
俺は今後どうするか相談しようと、マヤを見ると何故か冷めた目で見てくるし、人を替えようとテレーズを見れば、熱い視線を送ってくる。
テディは俺の服の裾を掴んで「お兄ちゃんが、お父さんになるの?」と聞いてくるではないか。
ひとまず誤解を解かねばと、俺はマヤを連れて一旦部屋に戻ると途中浮かんだ妙案を話す。
「アル、言い方考えて喋って……」と怒られながらも、マヤの誤解が解けると今度はテレーズ達の元へ。
テレーズの熱視線からガードするかのように、俺の前に立つマヤ。
右へ左へ頭を振り俺と視線を合わせようとするが、ことごとくマヤに妨害される。
俺とマヤの身長が同じくらいだから出来る芸当で、俺は少し悲しくなった。
テレーズが落ち着いたところで、俺は話を切り出す。先ほどテレーズ達の面倒を見ると言った理由を。
それは、この宿を丸っと俺が買い取るという話だ。そしてテレーズとテディにはこの宿、もとい家の管理をしてもらう為に雇うということ。
まぁ、大まかに言えば現状何も変わらない。
俺が研究出来る状況を作りたいだけである。
テディは幼いながらも理解が早くテレーズも分かってはくれたが、このモヤッとした気持ちは何処にぶつければいいと八つ当たりしてくる。
「アル。夜中、テレーズには気をつけた方がいい」
マヤからありがたい忠告を頂いたのだった。




