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三十九 鉱山購入している間に事件発生です

 オリカルクム鉱石を売った大金を持ち、俺とマヤは鉱山村へと戻ってきた。

この大金を使って鉱山を買うためだ。

かなり高値で買い取ってくれるオリカルクム鉱石を確保するためなのだが、俺としては、お金よりもこの鉱石を使って研究したいのが大部分を占めていた。


「鉱山を買いたい? いや、ありがたい話だけど、また急にどうして?」


 俺はオリカルクム鉱石の話はせずに、騙されて鉱山を買わされた鉱山主に同情したかのように説明をする。

別に(やま)しい気持ちではない。

正直に話をしても構わないのだが、この鉱山主、かなり口が軽そうだ。

下手をすれば、再び騙されてこの鉱山を他の誰かに奪われかねない、というよりきっと奪われる。


 結局俺も騙すことになるのだが、少なくとも言い値で買い取るつもりでいる。

安値で買い叩かれたりしない分、この人にはマシだと思って欲しい。

勝手な言い分だけどな。


「そうだなぁ。この鉱山買った時は、金貨三枚、はたいて購入したのだけれども……金貨二枚……いや、金貨一枚……いやいや。何も出ないしなぁ、どうしよう」


 鉱山主が悩めば悩むほど、金額を下げれば下げるほど、心が痛む。結局、俺が辛すぎてこちらから提案をさせてもらう。


「金貨二枚でどうですか? それと、一年契約、金貨一枚でここの管理をお願い出来ないですか?」


 他の場所でペラペラとここの事を喋るのを防ぎたい俺は、鉱山主にこのまま管理を頼むことにした。

金貨一枚あれば、一年何もせずに普通に生活を送れる。

鉱山主の男も、そこに魅力を感じたのだろう、あっさりと二つ返事で引き受けてくれた。


 俺は金貨三枚と権利書を交換すると、権利書に不備はないか目を通す。

この人が騙すことは考えにくいが、前の人に騙されている分、権利書にも目を通さざるを得ない。


「大丈夫ですね。それでは、ここの管理宜しくお願いします。サギさん」


 一応雇用主に俺はあたるので、名前を聞いておかねばと尋ねて返ってきた答えが「サギ」だった。

内心、騙す方じゃないかと、突っ込みたくなったのは内緒だ。


 サギさんと別れた俺達は、ハーネスの街へと馬を飛ばして急ぎ戻る。ドギが滞在してくれるのも、今日までだ。

ギルドには明日に報告すればいいと、俺達はテディ達の待つ宿へと直接向かう。

宿へ向かう路地に人だかりが出来ており、ただ事ではないと、俺とマヤは馬を降りると人混みを掻き分けて、宿へと走る。


「ドギ!」

「おお、戻ってきたな、アル」


 状況がいまいち飲み込めずにいた。ドギと仲間の船員に縛られて逆さまにされて吊るされている複数の男女。

そして、ドギの背中に隠れているテディとテレーズに向かって土下座をしている小太りの男性。


「一体何がどうなってるんだ、これ?」


 ひとまず話を聞かなければならないと、俺とマヤは野次馬を追い払い全員一時宿の中へ入れる。

吊るされている男女も、縄はそのままに宿のエントランスに転がしておく。


 テディが非常に怯えている。そんなテディを守るようにしっかりと抱き締めるテレーズ。

ドギから話を詳しく聞こうとすると、お前には関係無いとか縄をほどけとか、ギャーギャー五月蝿い。

なるほどと俺は直感する。


 俺はマヤに手伝ってもらい、縄に縛られている連中をエントランスの窓から逆さまに吊るすと、大人しくなった。


 ドギからの話はこうだ。昨夜からずっと宿を見張っている奴らが現れたらしい。

しかし、その隠れ方がお粗末で、すぐに気づいた船員からドギへ報告が入った。

ドギと一部の船員は宿に、残りの船員は外から宿を見張っていてくれていたようで、まんまと網に引っかかったみたいだ。


 案の定、月明かりが無くなり暗くなったのを見計らって宿を襲撃していたらしい。ところが、その動きはバレバレでアッサリとドギ達に捕まる。

外で様子を伺っていた男女二人も、外にいた船員に捕まった。

それが今、逆さに吊るされている連中。

そして、テディ達に土下座していた男性。これが副提督だという。


 吊るされている連中で唯一の女性、それが副提督の妻らしい。テレーズに誓約書を書かせようと企んだりしたのも副提督ではなく、その妻と代理人を名乗った男の仕業で、副提督は直接関わっていなかった。


 街でテレーズに出会い、副提督が逃げ出したのも、そもそもテレーズは街を出たものだとばかり思っていたらしい。

ずっと音沙汰がなく、金の無心にも来なくなり、一安心した所にテレーズと出会ったのだ。


 また、その時には副提督の側には代理人の男も一緒で、妻の耳にもテレーズの事が入り、人を雇い宿を襲撃したらしいが見事返り討ちに合い、更に様子を見にきた妻達も捕まってしまったのだ。


 副提督はテレーズに詫びを入れると同時に、妻を返して欲しいとお願いしてきたのだった。


 あとは、どうするかはテレーズ次第だ。流石に襲撃したという事実は覆されないだろう。このまま提督につきだすのもアリだ。


「テレーズ。あとはあんたがどうしたいか、決めれば良い」


 俺達もドギもお役御免だ。俺達全員、テレーズの答えを待つのだった。 

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