三十八 新たな発見と思わぬ大金です 後編
鉱山の依頼は結局大した成果もなく、俺達は重い鉄鉱石の入った袋を馬に乗せて帰りの道中を進んでいた。
予定より少し早い帰還となり、ドギがファザーランドに戻るまで、あと一日ある。
近場の依頼なら受けれるかもしれない。
ハーネスの街へ戻ってくると、俺達はギルドを後回しにして、まずは重い荷物の処理のため、その足で武器屋へと向かった。
「いらっしゃい」
以前剣などを買い揃えた武器屋の親父が、ぶっきらぼうに挨拶をする。
俺は早速と、武器屋の親父に鉄鉱石を全て渡し買い取りをお願いした。
すると、親父の表情が曇る。
明らかに不快感を露にしながら、銅貨五枚を手渡してきた。
鉱山主も質が悪いと言っていたから、こんなものかと俺はすんなり受けとる。
「悪いけど、これも見てくれないか?」
俺は例の虹色の鉱石を親父に渡すと、分かりやすいほど目の色が変わる。
先ほどの鉄鉱石とは違い、真剣な目付きで虹色の鉱石を吟味していた。
「兄ちゃん、嬢ちゃん。ちょっと奥へ来てくれ」
親父はそう言うとカウンターを開き俺達を招き入れる。俺はマヤの脇を肘で突いて合図を送るとマヤは拳を作り黙って頷く。
親父の明らかな変化に、俺もマヤも警戒せざるを得ない。
俺も剣の鞘に手をかける。
「そこに座ってくれ」
四人掛けのテーブルの上に虹色の鉱石を置き、俺達の対面に座る。
他に誰か居るわけでもなさそうで、俺は鞘から手を離し椅子に座ったがマヤは座ろうとせずに、俺の後ろに立ち未だ警戒を解こうとしない。
「嬢ちゃんも座ってくれ。何、ただ話をしたいだけだ」
「マヤ」
俺が声を掛けると、ようやくマヤも椅子に座り腰を落ち着ける。親父はマヤが座ったのを確認して話を始めた。
「まず、お前さん達。これを何処で手に入れた?」
「ちょっと、待ってくれ。その前にこれは何なんだ? 知っているなら教えて欲しいんだが」
虹色の鉱石を見つけてから、ずっと引っかかっていたこと。見覚えは確かにあるのだが、何時、何で見たのかが出てこない。
「なんだ、お前さん達知らないのか。俺の考えすぎだったみたいだな。これはな、オリカルクム鉱石と呼ばれる貴重な物だ」
「オリカルクム鉱石?」
名前を聞いても今一つピンとこない。orichalcumか……? と頭の中で英語表示に直して元素周期表に当てはめるが、そんな金属は無い。
読み方が違うのかとオリカルクム、オリカルクムとスペルをなぞり連呼する。そしてほんの一瞬の間違いで、俺は気づいたのだ。
──オリハルコンか、と。
その答えに辿り着いた時、俺の中のパズルがパチリパチリと当てはまっていく。
見覚えがあるのは、俺、早見誠一ではなく、ワイト。ワイト・ミラー・クロスフォードの方。
ワイトの世界では、この虹色に輝く鉱石を確かにオリハルコンと呼んでいた記憶が。
そして、何よりこのオリハルコンの最大の特徴は、軽さや頑丈さではなく、魔法の下準備を留めることが出来ることである。
特にワイトの弟子が作った魔導二輪。これのエンジン部分には欠かせることが出来ない。
そしてワイトが確立した魔法理論とこのオリハルコンのお陰でワイトのいた世界は劇的に変貌を遂げたのだ。
ワイト自身は、理論に労力を費やしたために、魔導二輪などの開発は、その弟子、または弟子の弟子が行った。
一時は戦争にまで発展してしまったが、ワイトが亡くなる直前にそれも収まっており平和に。
皮肉にも戦争から学んだ魔導二輪や魔導四輪などの移動手段だけでなく、コンロや水道など日常生活にまで影響を及ぼしたのだ。
「良かったらこれを買い取らせてくれないか」
武器屋の親父に言われて、少し躊躇う。何せこれはいずれ俺が魔法を研究しだしたら必要になるはずだ。
そんな俺の姿を見て親父は、店中を歩き回り、お金を集めてテーブルの上の鉱石の横に置く。
その金額、なんと大金貨一枚分。流石に大金貨など店に置いても仕方ないので細かくなっているが、数えると間違いなく大金貨一枚分あった。
武器屋の親父曰くこれでも安い方らしく申し訳なさそうにしていた。
どうやら、武器や防具に少し合金するだけで、大きく変わるという。
しかも、オリハルコン合金の武器などは、かなり高値で取り引きされており、充分武器屋の親父も儲かるようだ。
「一応聞くが、盗品じゃないよな?」
俺は少し悩んだが親父に見つけた経緯を話す。
「おいおい……俺が独り占めしようとしたらどうするんだよ。簡単に話しやがって」
独り占め……そう聞いて妙案を思い浮かべる。鉱山主は、鉱山の処分に困っていた。転売も考えているようだったし、山ごと買い取るかと。
武器屋の親父に、手を組まないかと相談を持ちかける。俺が今手に入れたお金で鉱山ごと買い取り定期的にオリカルクム鉱石を持ち込むというものだ。
「俺としてはありがてぇ話だが、そんなにしょっちゅう持ち込まれても買い取れねぇぞ。少なくとも作った分の半分は売れないと」
俺にはそれで充分だった。何せ俺自身も研究で使いたいし。それに急に金回りが良くなれば、周囲から目をつけられてしまう。
武器屋の親父は他言しないと、約束してくれて、俺とマヤは大金を持ち鉱山村へと踵を返すのだった。




