三十七 新たな発見と思わぬ大金です 前編
カンカンと俺は、一緒に落ちてきた剣でマヤが見つけた鉱物を叩いてみる。
初めは重さから軽石ではないかと疑ってみたのだが、どうも随分硬いようだ。
暗い洞穴では分からないが、ランプの明かりに照らすと、これがまた綺麗に虹のような輝きで俺は驚いた。
鉄、銀、金……ではないな。どこかで見た覚えが──ああ、そうだ。最も美しい結晶と呼ばれるビスマスだ。
俺は一つの答えに辿り着くが、すぐに頭の中で否定する。
ビスマスは柔らかく脆い、にもかかわらず、この鉱物はかなり硬そうで投げつけても、ツルハシの先で当てても傷一つ付かない。
この世界独自の物だろうか。だけど、俺にはこの鉱物に見覚えがあり、気になって仕方がない。
「アル、ここにも同じものが」
ランプ片手に周囲を警戒ついでに散策していたマヤが、俺を呼ぶ。
どうやら鉱山主の勘は当たっていたようだ。
壁には、わずかにキラキラと虹色に反射する輝きが隙間から顔を出す。
「取り敢えず此処を出なくては。それじゃないと報告も出来やしない」
マヤと一緒にどこかに続く道に明かりを向ける。行き止まりではないようで、俺達には進むしか方法がなかった。
時折、坂になったり狭い穴を通るしかなかったりと、ようやく広い空間へと出れる。
体一つがやっとの穴からランプを出して確認すると、下には採掘した形跡がありトロッコなども置かれていた。
俺達が出てきたのは、その採掘現場の壁の上部。問題は壁をつたって下へと降りるだけだが、その高さは結構あり、二階くらいの高さ。
飛び降りれなくはないが、下は元々採掘現場で地面にはゴツゴツした石もあるだろう。
ええい、ままよ、と一度穴から体を出して飛び降りる。
「痛えぇっ‼️」
足が着地した場所は良かった。何もない平坦な場所で痺れるくらいだったが、背中に背負ったシャベルとツルハシの事を忘れていた。
シャベルとツルハシが後頭部に命中し、俺は悶絶したのだった。
片手で華麗に降りてきたマヤが心配そうな顔で頭を撫でてくる。
みっともないなと、恥ずかしくなって顔を赤くする俺に、マヤは「そんなことないよ。誰でも得手不得手はあるもの」と言って慰めてくれた。
元採掘現場ならどこかと繋がっているはずだと、俺はなるべく上り坂になっている道を選びながら進んでいく。
坑道は、複雑に入り組みまるで迷路のようで中々出口が見えてこない。
迷子にならないように、案内板が立てられていたようで、根元から折れていたり、黒ずんで読めなかったりと役には立たなかった。
幾度となく、別の採掘現場へと出てくる。
「これは……多分、鉄だな……」
元採掘現場に残されていた鉱物は黒く炭のようで、持ち上げるとかなり重く感じる。恐らくこの鉱山のメインは鉄なのだろう。
それならば、マヤが見つけたこの鉱物は一体何なのか……。
結局、俺が落ちた穴の場所へと着いたのは、三日ほど経ってからだった。
途中、魔物や獣を追い払いながら落ちていた鉄鉱石を拾い集めて戻って来たのだった。
「暗いし、足元見えないし、この穴をこのままにはしておけないな」
俺とマヤは協力して、穴の周りに石を積み上げていく。こうしておけば、近寄って、他の人が落ちることはないだろう。
出口付近まで来ると、ずっと暗く冷たい坑道にいたせいで、いつもより外からの日差しがとても眩しく、外気がとても暑く感じてしまう。
外に出ると俺もマヤも全身の汚れも酷い。坑道内の水溜まりや天井から落ちる水滴で濡れてしまい一度途中で着替えたのだが。
軽く埃を払い、鉱山主の元へ向かう。
「おお、お帰り! なんだ、随分と酷い格好だな」
鉱山主の若い男は、満面の笑みで俺達を迎え入れる。朗報を期待しているのだろう。
鉱山主は温かいお茶を淹れてくれて、一口飲むと冷えた体に染み渡る。
お茶をそこそこに、俺は早速と成果の話に入る。
「あまり品質の良い鉄ではないね。だから落ちても拾わなかったんだろうよ。これらは君たちにあげるよ。ギルドより直接武器屋にでも持っていった方が少しでも高く買い取ってくれるよ」
途中拾った鉄鉱石を一目見て鉱山主の男は俺達に返してきた。結構重かったのに、これを持って帰るのかと、げんなりしてしまう。
「こっちは……うーん、俺は知らないな。彼処は鉄が採れるはずだからね。ちょっと綺麗なただの石だと思うよ」
そう言って虹色に輝く石を俺達に返してくる。街に戻ったら、鉄を売るついでに武器屋で聞いてみるか。
「はぁ……やっぱり、みんなが言うように騙されたのかなぁ、俺。どうしよう、同じこと言って転売したほうが……」
男には気の毒だが、俺には流石に犯罪を見逃すことは出来ない。
なんとかしてやりたいか、お金に関することだ。
今の俺達にはどうすることも出来ずに、男を慰めた後、鉱山村を出てハーネスの街へと戻るのだった。




