三十六 鉱山探索、そして迷子になりかけています。
「はい、これ」
「えーっと、何これ?」
「えっ、つるはしだけど……」
ハーネスの街を出た俺とマヤは馬に乗り半日かけて、閉山間近の鉱山村へとたどり着いた。
閉山間近だけあって、村は人の気配は残されていない。
唯一、鉱山の持ち主がいるだけだった。
鉱山の持ち主の男に会い、依頼書の話をすると両手を上げて喜ぶ。なんでも、依頼しても中々受けてくれる人がいなかったらしい。
特におかしな依頼ではないし、割りと楽な部類に入る。
それなのに、依頼を受ける冒険者がいないとは、俺には嫌な予感がしてきた。
早速、鉱山へ向かおうとすると、鉱山主の男がいきなりツルハシを手渡してきて戸惑う。
「閉山、閉山言われているけど、ここはきっとまだ採掘出来るはずなのだ。俺の勘がそう言っている。だから、俺は財産はたいてこの鉱山を買ったのだ」
俺がギルドで聞いた話とこの男のニュアンスがなにか違う。ギルドでは万が一何か見つかればラッキー程度なのだが、この男は確実に何かあると思い込んでいるようで。
鉱山を買った時に、前の持ち主にコッソリ教えてもらったのだと、胸を張っていた。
何か採掘出来るなら、前の持ち主は手放さないだろう。
典型的な詐欺だ。ギルドや冒険者達は、恐らくこの事を知っているのだな。
「鉱山に入るのにツルハシ一本持たないで、どうする。ほら、嬢ちゃんはこっちだ」
マヤにもシャベルを渡してくる。隻腕のマヤにそんな荷物持たせることが出来るはずなく、結局俺が一人でツルハシとシャベルを持つことに。
ツルハシとシャベルって結構重いのだな。俺は鉱山の入り口に着く頃には、かなりバテていた。
「さぁ、ここが入り口だ。調査や魔物討伐は適度でいいからな。採掘の方、しっかり頼むぜ」
さてとどうしたものかと、鉱山の入り口が見えなくなった辺りで、俺はマヤに相談する。調査は行う──が、採掘はどうしたものか。
「アタイ達、専門じゃないから採掘出来るものかどうか、わからない」
マヤの言うことは至極まともである。確かにハッキリ鉱物だって、わかるやつが見つかればいいが、俺やマヤにはそれ以外は岩か鉱物か区別出来ないだろうな。
ひとまず調査に乗りだしランプ片手に鉱山の奥へ奥へと、入り込む。かなり天井が高い所を見ると、それだけで採掘しつくした感はある。
奥へ奥へ入っていくと、何度か魔物に遭遇する。
蝙蝠か、と思えば蝙蝠型の魔物であったり、犬型の魔物か、と思えばただの野犬だったりと、魔物と獣の見た目はとても曖昧だ。
ただ大きく違うのは、魔物はしぶとい。
生命力が高くて気性が荒く、血の気が多く直ぐに襲ってくるのである。
「くそっ! しぶといな、コイツ!」
俺は剣を抜き、追い払うように剣を振り回し、まとわりつく様に飛び回ってくる蝙蝠型魔物ファットバットを相手する。
マヤは野犬相手に立ち回っていた。
本当にしぶとい。四枚羽根の蝙蝠で羽の縁がカッターのように鋭く斬り込んでくる。四枚ある羽根うちの一枚二枚切り落としても、強引に突っ込んでくる。
俺程度の剣の腕では、当てるのも一苦労であった。
面倒くさくなってきた俺は、剣を地面に落とし、シャベルを拾うと両手でシャベルを振り回す。これが意外と当たる当たる。
頭から突っ込んでくるから、容易に怯み当たればふらふらと地面へと落ちる。
結構役に立つじゃないか、シャベル。
マヤも野犬を追い払い、俺の方へと参戦すると、地面に落ちたファットバットにトドメを刺す。
やっと終わったと、俺は剣を拾おうと探すが、落とした場所にはない。
ランプの明かりを頼りに探すと壁際へと移動していた。
恐らく夢中で気づかなかったが、俺が蹴飛ばしでもしたのだろう。
シャベルとツルハシを持ち、剣を拾おうとすると、ピシッと嫌な音が。
俺は思わず天井を見上げた──その時。
天井がどんどんと高くなっていくように見える。
ああ、違う。高くなっているのではなくて、俺が下に落ちていっているのか。
気づいた時には、足元に地面が無くなっていた。
「うわぁああああああ‼️‼️」
「アルッ‼️」
俺の叫び声が空間に響き反射する。想像以上に深い穴と感じるほどに、長い時間落ちていく感覚。
このままじゃ不味い──と、俺は咄嗟にツルハシを振るう。
穴の横壁にめり込みはしたが、そのまま下へ下へと落ちていく。しかし、落下速度は落ちてくれた。
そのお陰だろうか、穴の底に体を叩きつけて痛みはあるが、一命は取り止める。
「アル‼️ 大丈夫!?」
片手で穴の壁をつたってマヤまで降りてくる。出来れば助けを呼んで欲しかったのだが。
マヤは、底につくなり俺に抱きつき、体のあちこちをまさぐってくる。
「大丈夫、大丈夫だから‼️」
横腹をまさぐられ、くすぐったくなった俺は、マヤを引き離す。
「なんで、こうも災難が続くんだ?」
この世界には無いが、神社があればお祓いしたくなるレベルだ。マヤの持つ予備のランプに明かりを点ける。
上を見るが、穴の先が見えないほどに高い。
辺りを見渡すが、魔物や獣もいない。
ただ、落ちた先は、開けた空間があり、自然に出来た洞窟がどこかへと続いている。
「アル、これなんだろう?」
マヤから岩を手渡される。大きさはソフトボールくらいなのだが、特筆すべきは、その重さ。
岩にしては軽い。それも想像以上に。
まるでプラスチックで出来たボールみたいに中が空洞なのかと思うくらい。
だけど、それは間違いなく、何かの鉱物であった。




