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三十一 初依頼を受けます

 騒ぎを聞き付けてギルドにいた冒険者達が俺達の周りに集まってくる。

マヤは容赦なく酔っ払いの男の腕を捻り上げ、今にも折りそうだ。

俺が止めようと前に踏み出し、声を掛けようとしたが、その前にマヤの肩を掴む若い男が現れた。


 背後から肩を掴まれたマヤは酔っ払いの腕を手放して振り返り肩から男の手を振り払うと、男に向かって拳を伸ばす。


「おっと、危ねぇ」


 男は、マヤの拳を容易に片手で受け止め放さない。外そうとマヤも必死に(もが)くが、細い体型の男相手に、びくともしないではないか。


「ははは、威勢のいい嬢ちゃんだ。けど、揉め事は関心しねぇなぁ」


 赤い長髪を後ろに一つに束ね若い男は爽やかな笑顔を見せる。これは不味いな。この男が酔っ払いの仲間だったらマヤが危険だ。俺は腰に装備しておいた剣の柄に手をかけて、男に近づくが俺とマヤの間に酔っ払いがナイフを片手に割って入る。


「クソガキ、よくもやりやがったな‼️」


 ナイフをマヤの背中に向けて突こうとする。俺は剣を抜き酔っ払いの背後へ斬ろうとした時、酔っ払いの顔に若い男の回し蹴りが当たり、酔っ払いは紙くずのように吹き飛んでいくとカウンターにぶつかりグッタリとしてなる。


(マヤを助けたのか?)


 そう思ったがいまだにマヤの拳を掴んで放さない若い男に、剣を一旦納めた俺は睨み付けながら放すように伝える。

すると、あっさりと放して見せた。

どうやらただの仲裁に来たようだ。


 俺はマヤの前に回り若い男に対して止めてくれた礼を言うが、俺の背中越しにマヤは若い男に対して、猫のように威嚇をする。


「いいって、いいって。このままだと、酔っ払いの仲間が入って来そうだったからな」


 そう言うと若い男はマヤの拳を受け止めた手のひらをヒラヒラとさせている。

よく考えるとマヤの拳の正面には金属のプレートが付いてある。

流石に痛かったらしく、容易に掴んだように見えたのは我慢していたようだ。


「あのー、ギルド証……」


 ギルド内で騒いでいたにも関わらず、ギルドの職員はピクリともせず、俺達の受付をしていたウサ耳の女性も平然と俺達のギルド証を持ってきて、淡々と新人冒険者の心得などを話す。


 一通り聞き終えた俺は、その若い男に一杯、奢らせて欲しいと頼む。もちろん、お礼の意味もあったがこの男が現れてからは場の雰囲気が一変したように感じたのだ。

野次馬は、野次を飛ばさなくなったし、仲裁に入ろうとした人もこの男が現れてからは安心しきっていた。


 テーブルを囲み、お酒を注文する。俺も飲めなくはないが強い方ではないため、マヤと共にグレンタという、ブドウジュースを少し酸っぱくしたような一般的なジュースを追加で注文した。


 俺が彼に自己紹介すると、未だに警戒を外さないマヤも渋々名を名乗る。


「アルとマヤか。俺はビルベット・バーネル。ビルでいい。ここら辺りで一人で冒険者をやっている」


 ビルが爽やかな笑顔を向ける度にマヤの警戒心が強くなるのを側で感じる。

マヤの警戒心の理由、それはビルの持つ雰囲気がどことなくギルと似ているからだろう。


 俺の両親の処刑を執行し、ミラの異変に気づいて俺に知らせに行こうとしたマヤを川へと突き落としたギルに。

もちろん、俺自身も同じ轍を踏まないようビルを警戒していない訳ではないが。


「困ったことがあったら言ってくれ。今日はごちそうさん」


 テーブルに運ばれてきた酒をグイッと一気に飲み干すと、ビルはギルドを出ていく。

背中を見送り、俺達は初依頼をこなすべく依頼書が貼られたボードを見に行く。


 依頼書は四種類の紙で書かれており、赤紙は新人向け、白紙は誰でも、黄紙は他の人と組みこなす依頼書、青紙はギルドが認めたベテランのみ受けられる。


 俺とマヤは赤紙の場所を順次見ていく。薬草の採取、鉱物の採取、踏破済のダンジョンでの採取、獣から畑を守る仕事などなど。


 扱い慣れた薬草の採取でもと、赤い紙を一枚取り外して依頼受付へと並ぶ。

改めて依頼内容を見ると薬草の指定がない。それに貰える金額も書いていない。

俺達の番になり、その辺りの質問を受付をしていたタヌキのような作り物の耳をした女性に聞くと、薬草になるならなんでもと、量や種類で金額も変動するようだ。


 まさに新人向け。やればやるほど収入も上がるというやりがいのある依頼だ。


 そう、この時は簡単だと思っていたんだ。この時は……

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