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二十七 今後の目標です

「マヤ」


 椅子に腰かけた俺が背後から声をかけるとマヤの体がピクリと反応する。

立ち上がり振り返るマヤは、俯いて顔を見せようとしない。

しばらく俺が声をかけずにいると、ただ立ってモジモジと体を動かしていた。


 どうかしたのか尋ねると「緊張して」とだけ答える。確かに若い男女が一つの部屋で同衾するのだ。

俺も全く意識していないと言えば嘘になる。

だけど、今の俺には、まだそんな事を考える余裕はなく、勢いでマヤを襲うつもりもない。

マヤの性格から受け入れはするだろうが、それはマヤの気持ちを無視していることになる。


「そこに座って」


 テーブルを挟んでマヤを対面の椅子に座らせると、俺はマヤに対してどうこうするつもりは今は無いとハッキリと伝えた。

マヤは同室を俺がアッサリと受け入れた所から、ずっと意識していたと顔を真っ赤に染めてテーブルに顔を伏せて隠すのだった。


「話は変わるけど、今後の目標を決めよう。僕は魔法の研究がしたい。その為には、こっそり研究が出来る部屋のついた家が必要になってくる。マヤは何がしたい?」


 落ち着きを取り戻したマヤは俺の問いける。

しばらく考えるが何も思い付かないようで「アルを手伝いたい」とだけ答えた。


「わかった、今はそれでいいが何か思い付いたら言って欲しい。僕もマヤを手伝うよ」


 しばらく今後の事を詰めていき、相場はわからないが、ひとまず二人で住める一軒家を購入か賃貸出来るように、お金を稼ぐことで一致する。


「何か良いものがあれば商売でやっていこう。それまでは身元保証にもなるから冒険者ギルドに登録して冒険者としてやっていこうか。ただ、情けないけど僕は、マヤの足手まといになりそうで申し訳ないけど」


 マヤは首を横に振り否定してくれるが、本当に情けなく思う。

こうなることがわかっていればもう少し学校でしっかりと鍛えておくべきだった。

今の隻腕のマヤに対しても俺が勝てると思えないほど、冒険者としての技量は低いのだ。


「アタイは大丈夫です。それにアルには、魔法が。多少の怪我でもアルが治してくれる」


 マヤの手術時に使った魔法のことを言っているのだろうが、あれは集中力が要る。戦闘中に使用するには無理がある。

だけれども、集中出来る状態なら使えるかもしれない……そう考えると少し練習してみるかと俺は思うのだった。


 ググゥ~ッと部屋に響く腹の虫。今にも顔から火が出そうなほど真っ赤に染めたマヤの顔、そして「い、いやぁあああ~~‼️」と悲鳴が宿中に響く。


「ど、どうしたんですか!?」


 テディが慌てて部屋に駆け込んでくる。マヤがテディに事情を話す姿を見ていた俺は思わず吹き出しそうになってしまった。


 近くの食事処をテディに紹介してもらい、ご飯を食べに出かける。幸い雨はまだ降ってはいなかった。

入った食事処は庶民的な価格で、野菜の餡掛けのようなメインとブリオと呼ばれるパンにスープが付いて小銅貨二枚。


 食事をしていると、周囲の視線がこちらに集まる。大体理由は分かる。隻眼に黒い眼帯をして隻腕の女の子なんて、この世界では珍しいし、ラノベにハマった俺ですら、どこぞの厨二病だと思いたくなってしまう。


 マヤ本人は気にしていなさそうだ。

黙々とご飯を食べているマヤの姿を先に食べ終えた俺はずっと見ていた。


 初めてマヤと会った時は、黒い短髪な上ざんばら髪だった為、男の子と勘違いした。

しかし、今は髪は肩まで伸びているし、目はパッチリとし睫毛も長い。

コップを傾け水を飲み終えた、ピンク色の唇は少し濡れて色気を醸し出す。

何より昔は、つい視線が行きがちだった頬の火傷の痕は、もう無い。


 こうして改めて見るとマヤは美人の部類に入るだろう。よく見ると周囲からの視線も、興味本意の人と見惚れているような人が半々くらいだ。


 ブリオを千切り口へ入れるマヤと目が合う。

自分の皿を手元に引き寄せるマヤ。

まるで自分の物だと言わんばかりに。


(取りやしねぇよ……)


 そんな仕草ですら可愛らしいと俺は、おかしくて口元が緩んでしまう。

そんな俺の顔をマヤは怪訝な表情を浮かべて見てくるのだった。

 

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