二十六 ヴォルザーク大陸へと到着です
ヴォルザーク大陸。神聖皇国ファザーランドから南に海を渡った場所にある広大な大地、通称“大陸”。
二つの大国と一つの小国、そして未開の池でなすヴォルザーク大陸は、昔から争いと開拓にまみれていた。
戦火は今は収まったものの、開拓の競争は続いている。ファザーランドの冒険者もお金を貯めた後、この地に渡る。そしてここでの活動こそが本番と言える。
未開の地への挑戦や、まだ踏破されていないダンジョンの調査など、新しい物を見つけて一攫千金を狙う。
魔法自体はファザーランドと同程度。聖マーチンス教会みたいな凝り固まった考えは無いもののあまり重要視されていない。
今俺の眼前に見える港街は、小国ヴェネに属するハーネス。港街と言ってもレプセルとは大分様相が違うようだ。
港に並ぶのは、俺達が乗っている船より一回り大きく黒く塗られており、物々しい雰囲気が漂う。
「ありゃあ、軍船だ」
ドギがそう教えてくれる。
街の雰囲気も、レプセルが漁師町ならハーネスは人も家も多く、海の恵みで生活をしている様子は見受けられず、通常の街に軍港が付随しているみたいだ。
軍船が並ぶ場所からかなり離れた場所へと俺達の船は移動していく。どうやら街の近くでは停泊出来ないようだ。
「さぁ、着いたぜ」
船の甲板に木板が渡されると、俺とマヤは馬を連れ早々に渡る。
「これからどうするつもりだ?」
「まずは、生活の基点を作らないといけませんから、恐らくしばらくこの町に滞在する予定です」
「そうか……俺もここにはしょっちゅう来るからよ、何かあったら頼ってくれ」
「ありがとうございます、ドギさん。それにここまでの道中楽しかったです」
俺とマヤは頭を下げて礼を言うと、ドギはその太い腕で俺達二人を抱き締めて「二人で幸せにな」と耳元で囁くと船へと戻っていく。
なにやら勘違いをしているようだが、俺とマヤは船が港を離れて見えなくなるまでずっと手を振り続けた。
「まずは宿を探すか」
まだ、昼間だが、空は暗く薄汚れた雲で覆われている。まだ大丈夫そうだが、今にも雨が降ってもおかしくはない。
港からハーネスの街へと入っていくと、船から見ていたより人が多い。雨が降りそうなので、皆軒下を通ったり店内に滞在していたようだ。
俺は道すがら宿の場所を尋ねると、一軒の宿を教えてもらい、その場所へ。
到着した宿は、看板も何もないが、“泊まれます”と書かれた木製の小さなプレートが扉のノブにかけられていた。
ノブに手をかけて扉を開けると、立て付けが悪いのかギギギと鈍い音を立てる。
「すいませ~ん、誰かいますか~」
店内は薄暗く、一つのランプしか明かりは無い。ただでさえ、雨が降りそうで外は暗いのだ。
大丈夫だろうかと、不安になる。
「はーい、今いきまーす」
宿のカウンターを兼ねている玄関は、小さなカウンターに丸テーブルに二脚の椅子のみ。カウンターの横には二階へと上がる階段があり、そこからトテトテと小さな足音を立てて、人が降りてくる。
現れたのは小さな女の子。群青色の髪をポニーテールに結い、赤いチェックのスカートに腰には真っ白なエプロンが。
年齢は五歳くらいだろうか、その女の子は、そのままカウンターへと入っていく。
「お二人様ですかー?」
そうだと頷くと、俺とマヤの顔を交互に見てくる。何か納得して部屋の鍵を一つ手渡してきた。
「えっと……二部屋希望なのだけど……」
「えっ!? ふーふじゃないのー?」
ドギといい、この子といい、俺達がそういう関係に見られるのかと、改めて認識するが、マヤは俺と人通りの多い船の中と違い同室は嫌がるだろう。
再度二部屋を伝えようとしたとき、マヤが割って入ってくる。
「アタイは、アルが良ければ一部屋でもいいけど、お金も勿体ないし……」
「えっ!?」
「もう、どっちですかー!?」
宿の女の子に急かされる。確かに今後の事を考えればお金は節約した方が良い。
しばし悩んだ俺は、マヤのお言葉に甘える事に。
マヤが嫌がらないなら、非常に助かる話だ。
「じゃあ、二◯四になります。値段は一泊素泊まりで銅貨二枚ですー」
「はい、これ。銅貨二枚ね。ところで、ここは君一人でやってるの?」
「まいどありです。えっとね、お母さんと二人。テディは、お母さんが居ない時のお留守番だよ」
小さいのに偉いねと頭を撫でてやると、テディは嬉しそうに目を細める。
「案内しますね」とテディは俺の荷物を持つが、重すぎて足元がふらついている。
何せ荷物の中身は大量の本だ。
俺はテディから荷物を奪いとると、案内だけをお願いした。
「ここが二◯四です」
テディに連れられ二階に上がると廊下の突き当たりの部屋に案内されて、部屋の中へと入っていく。
外観はボロいが、部屋の中は掃除が行き届いており思っていたより、綺麗で広い。
ツインのベッドと、テーブルに椅子が二脚。テーブルには古びた花瓶に赤い花が活けられていた。
テディは丁寧にお辞儀をして、部屋を出ていく。部屋の中は、当然だがマヤと二人きり。
マヤは俺と視線を合わせずに、背中を向けて黙々と荷物の整理を始めていた。




