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二十 絶望は今からだったようです

「マヤ!」


 川に流されて水車に運良く引っかかっていたマヤが、俺の邸宅に運ばれたと聞いて急ぎ掘っ建て小屋から邸宅へと戻る。

両親とお抱えの医者がベッドに寝ているマヤを取り囲む。


「マヤは?」


 医者から、水はかなり飲んでいるが外傷などはなく、しばらくすれば目覚めるだろうと言われて胸を撫で下ろす。

しかし、何故マヤが川から……ミラに何かあったのかと俺はマヤが目覚めるまで付きっきりで看病する。


「……っんん。う~ん……」

「マヤっ!」


 マヤが目を覚ましたのは、すっかり日も暮れた頃。使用人に両親に来るように伝えて俺は再びマヤの側にいき手を握る。


「──アルっ!」


 俺を見るなりマヤは、意識がハッキリして起き上がろうとする。すぐに俺はそれを制止し寝ているようにとマヤをベッドへと押しつけた。

俺の言伝てを聞き両親も駆けつけ、一体何があったのか聞くことに。


「実は──」


 立っていた俺はあまりのショックを受けて、思わずその場にへたりこみそうになり壁を支えに踏ん張る。

両親もショックで、声も出ない。

それほどマヤの話は衝撃だった。


 ミラがサーシャを殺そうとしている──あまりにも信じがたい話に……


 何故、ミラがサーシャを。

伯爵なら若干分からなくない、俺を貶めるつもりだと。


 マヤからミラの様子を聞いた俺は更にショックを受ける。


 嫁いだ当初は、聞きたくなかったことだが初夜を終えてから、ミラはずっと部屋に籠っていたらしい。

唯一、マヤとギルだけは部屋に入れてはくれたのだが、ミラはずっと泣いていたという。


 俺は居たたまれない気持ちになってしまう。


 それから一ヶ月、二ヶ月と過ぎ、三ヶ月目を迎えミラは突然籠っていた部屋を出れるまでになっていた。しかし、マヤが見たミラの目付きは、常に誰かを睨み付けるように吊り上がり、性格も変貌して常にイライラと苛立ち使用人やマヤにあたるようになる。


 ミラの様子は、ますますおかしくなりマヤを遠ざけ始める。不安になったマヤはギルに相談するも、ギルからも相手にされなくなっていた。

嫌な予感をしていたマヤは情報収集を始める。

そんなマヤの耳に入ってきたのはサーシャをルーデンス子爵家を、そして俺を貶める計画。

その準備をしている首謀がミラだと。


 ぐにゃりと俺の視界が歪んで見える。


 ダメだ。今倒れるわけにはいかないと、カーテンを掴み体を支えた。

サーシャの安否は心配だがいくら伯爵家でも、理由も無しに命を取らないだろう。

そう思っていたのだが、マヤは大義名分はあると言うではないか。

マヤの言う大義名分、それは俺の魔法の研究だった。


 両親には心配かけないように内緒にしておいた。しかし、俺はミラとマヤには一度話をしたことがあったのだ。

まさか、このような事態になるとは思わなかったから。


 一気にサーシャの安否が危うくなる。教会と結託すれば、間違いなく聖騎士がサーシャを捕らえ、すぐにでも殺すかもしれない。


「アル、出かける用意をしなさい」

「でも! それだと父様達が!」


 ベストは、俺の首を教会に渡すことだ。そうすれば、教会に協力したとしてお咎め無しになるかもしれない。

しかし、両親はそれを良しとせず、俺に逃げろと言う。


「聞きなさい、アル。子を守るのが親の役目なら、子は親より長く生きるのが役目よ。生きなさい、アル。そしてサーシャをよろしくね」


 今後の展開は、両親にもわかっているはずだ。サーシャを先に狙ったのは、今サーシャは伯爵領より離れた場所にいるから。

俺達への対応は、隣のミシル男爵がやればいい。


 逆らえば反逆者として、子爵領に住む者達を皆殺しにするだろう。住民や使用人が避難する時間を稼いだ後、両親はきっと……。


「マヤ。すまないがアルの事をお願いしてもいいか」

「はい、必ず。必ず、アルを守ります!」


 俺は適当に準備を済ませると、両親と抱き合う。とても暖かい温もりに俺は名残惜しむようにずっと離したくなかった。


「さぁ、アル。急ぎなさい、サーシャを守るのよ」


 母様が俺の体から離れると、俺は用意された馬に股がり後ろにマヤを乗せた。


「父様、母様。ご無事で」


 両親の末路はわかっていたが、俺にはそう言うしかない。せめてミラが思い止まってくれることを祈りながら。

俺は馬をサーシャのいる王都へと出発させると、振り向くことはなかった。


 何が勉強だ、何が知識だ、何が魔法だ、肝心な時に何も役に立たないではないか。むしろ、そのせいで俺は許嫁を親友を両親を失うことになったじゃないか。


 雨上がりの真夜中に、馬の蹄の音と俺の嗚咽混じりのすすり泣く声だけが響いていた。

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