十七 再会と悲劇の始まりです
俺は帰省を終え、高等に学年が上がり再び学生生活に入っていた。
初等を卒業して、幾人かは高等には上がらずクラスメイトの数は減っていたが、ギルやミラ達は残っており俺は相変わらず楽しい日々を過ごしている。
俺の生活リズムは変わること無く、毎朝欠かすこと無く王立図書館に通っていたのだが、ある日、俺が王立図書館が開館するまで待っていたら「アルフレッド」と名前を呼ばれる。
空は暗く人々はまだ寝静まっている時間帯だ。俺は声のした方に目をやるが暗くてはっきりと見えない。
足元に置いていたランプを手に取り、明かりを向けるとそこには老齢な白髪の男性が。
「バインツ伯爵!!」
王立図書館の入口の段差に座っていた俺はすぐに立ち上がり近くへと寄る。
体調不良と聞いていたのだが、顔を見る限り元気そうで安心した。
「少し時間はあるか?」
神妙な顔をして聞いてきた伯爵の問いに俺は頷くと、バインツ伯爵の後をついていく。道中話かけるがバインツ伯爵は黙ったままで、こちらを振り返ることはなかった。
「入ってくれ」
到着したのは民家の前。それもお世辞にも綺麗とは言えない。養生するには、あまりにも不向きだと俺は感じた。
民家の中に入ると、そこには使用人として中年の女性が一人。見たことのある顔で恐らく伯爵家にいた人なのだろう。
元伯爵とはいえ、この扱いはあんまりだ。
親を何かからまるで隠すように──隠す?
隠すとして、こんな王都に隠すだろうか。隠すのではなく、伯爵自ら隠れているとしたら、一体誰から?──そんな相手は一人しかいない。
現在の伯爵だ。
「バインツ伯爵、おれ──僕はここの場所を他言しませんから」
「ガッハッハ。相変わらず、聡いやつだ。儂が頼む前に気づくとは。ガッハッハ」
豪快に笑う伯爵を見た俺は、伯爵自身相変わらずだと抱いていた一抹の不安が取り除かれた。
「本当にお前が養子に入ってくれれば、儂もこんなところに居らずにすんだだろうな」
伯爵の話によると、やはり爵位を息子に奪われたらしい。それも周囲を固めて準備万端に。伯爵はやむ無く隠居という形を取り、少しは変わってくれるだろうかと淡い想いを息子に託し跡目を継がせたのだが、それも裏切られたという。
爵位を継ぐと、伯爵を養生という名目で伯爵領から追い出す。が、それは表向きの名目。
実際は伯爵を途中で、それもルーデンス子爵領内で殺す算段だったらしい。
伯爵は、昔から仕えていてくれた部下の助けで、命からがら王都に向かい、昔使用人だった、今温かいお茶を淹れてくれている彼女のところに身を潜めていた。
「何故、僕の実家でなのでしょか?」
うちで伯爵を殺そうとした理由はわかっている。ルーデンス子爵領で伯爵が殺されれば責任を問えるからだ。
だが、うちを目の敵にする理由がわからない。
「すまぬ、それは儂のせいだ。儂は昔からアルフレッド、お前を見習えとずっと息子に言ってきた。それに……決め手はあの街道の整地だと思う」
なんて、はた迷惑な。いや、伯爵は悪くない。原因は今の伯爵、そして俺か。
もしかしたら今後も子爵領に何かしてくるかもしれないな。
何度も頭を下げて謝る伯爵に、俺は再度ここの場所を他言しないと誓い、伯爵と別れて学校へと向かうのだった。
─・─・─・─・─・─・─・─・─
俺は相変わらず、王立図書館で本を読んでいた。あらかた読み終え今は二週目。毎日読んでいればこれくらいは容易だ。
俺の背丈は、父ファルコと変わらないくらいに伸びており、ミラも長い赤髪を編み込んで、あどけない感じは影を潜めて大きな双丘を備えた色っぽい女性へと変貌を遂げていた。
マヤは幼い頃の栄養不足が原因なのかミラほど色気はない。しかしスレンダーながらも引き締まった体に、腕っぷしは変わらず素手なら男子生徒に負けないほどだ。
ギルも俺が嫉妬するほど好青年に成長して、貴族の令嬢からもアプローチを受けるほどだ。しかし、冒険者を希望していたギルは全て断り、卒業後は新米冒険者として、しばらく俺の家を拠点に活動することが決まっていた。
そう、本日俺達はアドミラージュ学園を卒業する。そして、俺達と入れ替わりサーシャが入学するのだ。
卒業後、俺とミラは結婚することになる。まだ十五歳だが、この世界では一般的。
マヤもミラと共にうちへ来るだろう。
綺麗になつたミラ、マヤ、そしてギルとの未来予想図を想い描き俺は、ニヤニヤが止まらない。
きっと今以上に楽しいはずだ。
そう信じていたんだ。この時までは──。




