十五 学校生活です
食堂で一悶着あった後、食事を終えた俺達は、自分の部屋へと各自戻って行く。
俺は部屋に入ると教科書をパラパラとめくってみる。
案の定というかわかっていたことだが、教科書を見る限り、文字を覚えたり簡単な計算、この国の歴史についてのことくらいしか書いておらず、既に文字も覚えている俺にとって身になるような内容ではなかった。
「この退屈な日々があと二年は続くのか……」
アドミラージュ学園では、二年課程と五年課程がある。俺を含むミラ達は五年課程。
この世界の一般家庭に生まれた人の識字率は低い。
逆に言えば、文字を読めるだけで特技になれるのだ。
本来十歳で入学し十五歳で卒業の五年課程なのだが、学校に通うにもお金はかかる。
なので、文字を覚え終える最初の二年で辞める人達の為に、二年課程が出来たのだ。
「もう寝るか」
教科書を鞄に詰めて、俺は寝る準備をする。何せ早朝から王立図書館に行くからな、夜遅くまで起きていては支障が出る。
俺は作業着から寝間着に着替えると、真新しいシーツが被せられたベッドに横になるのだった。
─・─・─・─・─・─・─・─・─
俺が次に目が覚めたのは、まだ夜明け前。窓の外は真っ暗だが遠くに街の灯りは見える。
学校周辺は住宅街、大通りの店ももう閉まっているはずで、恐らく遠くに見えるあの灯りは所謂夜の街、歓楽街なのだろう。
今の俺には縁の無い場所である。
俺は眠い目を擦りながら制服に着替えると鞄を持ち、以前伯爵からもらった王立図書館の許可証を手に取ると、音を立てないようにコッソリと部屋を出る。
別に見つかっても問題ないはずだが、俺は迷惑にならないように音を殺して寮を出ると、校門を開けて学校の裏手に向かう。
王立図書館に着くが、灯り一つ無く扉の取っ手を引くが鍵がかかっている。
「少し早いか」
日の出までは、まだ時間があるようで俺は王立図書館の入口前の段差に腰をかけ、自分で準備していたランプに灯りで本を読みながら待つ。
ふと、空を見上げると真っ暗だった夜空に微かに銀色の光が。
それと同時に王立図書館のいくつもの窓から明かりが次々と灯されていく。
ガチャンと扉の向こうで鍵の開く音が聞こえた。
俺はすぐに本をしまうとランプを消して、王立図書館の扉を開く。
図書館を管理している人だろう。
若い二十歳くらいの女性が俺を見て驚いていた。
無理もない。何せ鍵を開けたばかりに人が入って来るとは思っていなかったのだろう。それも、俺みたいな子供が。
俺が女性の立場だったとしても、鍵を開けた途端に入ってこられたら強盗かとビビる。
「えっと……」
「受付どこですか?」
驚いた表情から、子供だとわかってか困った表情に変わった女性に俺は、利用者だと分かるように質問をする。
その意図をわかってくれた女性は、安堵して俺の手を取ると受付のカウンターへと案内してくれた。
許可証を見せて受付を済ませると、俺は王立図書館の奥部へと入った。
そこは、想像していたより広く、俺の倍近くある本棚がズラッと並んでいる。
何度も言うが、この世界読み書き出来る人は少ない。
こんなに本があっても読む人はいるのだろうか、そもそも本を書く人がこれだけいるのか。
俺は本棚の端からタイトルを眺めていく。
一通りタイトルを見て思ったのが、半数以上が冒険記みたいなものと、軍事関係の本だった。
一攫千金を夢見て、この国だけでなく海を渡り大陸へと渡った冒険者は数多くおり、パラパラと流し読みした限りでは“冒険はいいものだ”と言っている内容である。
軍事関係が多いのは、大陸からの侵略に備えてか。
まだこの国が三つに別れていた頃ならばともかくとしてだ。
俺はいつも通り農業関係と医療関係の本を数冊選択して、テーブルに積み重ねると読み始めた。
途中、受付の女性が気を利かせて温かいお茶をくれる。
三冊目を読み始めた頃だろうか、俺の脳天から爪先まで貫通する痛みが走る。
何事と、見上げるとそこにはルーツ先生が俺を見下ろしていた。
「なんで、こんなところに先生が……」
「それは俺の台詞だ! アルフレッド!! もう授業は始まっているんだぞ!」
ルーツ先生の言葉に窓の外を見るとすっかり夜は明けて、澄み渡る青空が。
やってしまった、授業初日からサボってしまった。
ルーツ先生は、俺の耳を掴んで引っ張って歩かせる。
「痛い! 痛い! あ、お姉さん! すいませんが読みかけの本に栞を……って、痛ぇ!」
俺を図書館から外へと連れ出すと、ようやく耳を離してくれた。
「本を読むなとは言わんが、そもそもどうしてここまで勉強するのだ? お前は嫡男だろう?」
隣に並んで歩くルーツ先生の質問に、俺は魔法を解き明かす研究の為の下準備だと話す。
「バカ! お前、教会関係者に聞かれたらどうするのだ? ったく、俺は聞かなかったことにしてやるから、お前も口外するなよ」
俺の口を咄嗟に塞いだルーツ先生に、頷く。教会が厄介なのは俺も知っている。いや、俺だけじゃない。この国の住人なら誰でもだ。
それほど教会は厄介な連中だった。




