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十四 王立図書館に入り浸りたいです

「おぉい! アル、食堂行こうぜ!」


 部屋の扉をノックする音とギルの声が聞こえる。俺はこのままではいけないと、トイレを出て水差しの水で口をゆすぐ。


「ちょっと、待ってて」


 顔を拭き制服から普段着ていたジャージのような作業着に着替えると、扉を開き部屋を出た。


「アル。なんだよ、その服は」


 貴族が着る服じゃないぞと言うギル。


「おれ──僕は普段からこの服だ」


 なるべく顔色を見られないようにそっぽを向くと、俺は先に食堂へと向かうのだった。


 食堂に着くと、既に多くの生徒が席を埋めていた。ミラとマヤは、もう来ているだろうかとテーブルを見渡すが、見当たらない。


「おい、アル。あそこ」


 ギルが指差す女子寮側の出入口の側には、困った顔をしたミラとマヤ、その二人を取り囲むように、複数の男子生徒。

絡まれているのかと、助けにきた俺とギルをマヤが見つけて、手を振っていた。


「なにしてんの?」


 俺が男子生徒の間を割ってミラ達の手を繋ごうとすると、複数いた男子生徒の中でも、遠目から見たら大人と間違えられそうなくらいに一番ガタイの良い男子生徒によって俺の手は払われた。


「なんだ、お前ぇ。邪魔するな、一年はどっか行け」


 俺を一年と言うことは、この男子は上級生で、この体格からすれば、ほぼ最上級生か。

ミラはまだ、十歳。ロリ◯ンか、こいつは。


「わかりました、一年はどっか行きます。さ、行くぞ、ミラ、マヤ」


 一年はどっか行けと言ったのだ、ミラもマヤも一年。どっか行っても問題ないはず。

とは言え、この男子生徒が自分で言った言葉を理解しているはずもなく、邪魔だと言わんばかりに腕で押されて、俺は尻餅をつく。


「アルくん!!」

「アルに何するんですか!」

「ミラ! マヤを止めろ!!」


 マヤが怒りのあまり拳で殴りかかろうとするのを、俺はミラに止めさせる。

入学初日から問題を起こさせる訳にはいかない。


「アルくんに謝りなさい! アルくんは、私の許嫁ですよ!」


 許嫁と聞き、俺を突き飛ばした男子生徒を筆頭に取り囲んでいた他の男子生徒も顔を青ざめる。

貴族や王族以外が許嫁と言うことは無い。

本人同士で将来を誓い合うことはあるが、許嫁とは言わない。

それに貴族の次男、三男も許嫁を取ることはない。

いずれ家を出る身である。

彼らは、俺が貴族で嫡男であることを、許嫁という言葉で知ることになったのだ。


 俺自身は、あまり貴族の嫡男だと言いふらしたくはなかった。別に貴族や嫡男が嫌な訳ではない。

日本人特有の謙虚さというか、この世界の貴族からしたら随分とイレギュラーな考えなのだろうが。


 大きな声をあげたことで、食堂内がざわつき、騒ぎを聞き付けた男性教諭が駆けつけて来る。

男性教諭が来たのに気づいた男子生徒達が散り散りに逃げようとするが、ギルの奴は俺を突き飛ばした男子生徒だけは逃がさないように、羽交い締めで捕らえていた。


 男子生徒を先生に引き渡した後、俺達は四人掛けのテーブルに腰かけて食事を摂ることに。

正直食堂の食事は可もなく不可もなくで、肉、野菜、パンに似た主食のブルオ、スープ。栄養を考えてなのか味付けは薄目だ。

久しぶりにラーメンとか食べたくなるが、この世界の人達に比べて俺の前々世がどれだけ恵まれていたのかと、一人反省する。


 他愛のない会話をしつつ、ふとマヤを見ると頬が赤く腫れているようにも見える。ただ、マヤの頬には昔の火傷の痕があるので見間違いかと、最初は思ったくらいに目立たなかった。


「マヤ。頬、どうした? もしかしてアイツらにやられたのか?」


 俺の指摘に頬をサッと手で隠すマヤ。マヤは大丈夫と笑って誤魔化すものの、その理由がわからない。

アイツらにやられたのなら、俺達に言えばいいし誤魔化す必要はない。

それに……何故、ミラはその事に触れる気配もないのかも気になった。


 マヤは、ただ笑うのみ。イジメでもあるのかと心配になるが、マヤ本人が言わないのには、事情もあるのだろう。

近くにはミラもいる。イジメがあるならミラに言えばいい。

それ以上、俺はこの事に触れなかった。


 ギルが明日の朝も食堂で待ち合わせて一緒に食べようと提案し、ミラ達も賛成する中、俺は三人に断りを入れた。

俺は三人に明日から朝は食べないと話す。

この学校を希望していた目的。それは、学校の裏にある王立図書館。


 薬草の販売ルートを確保する時に、ここ王都バラスティアには度々足を運んでいた。

その頃から王立図書館に、目をつけていた俺は、下調べも万端だ。

この王立図書館、年中無休で開館時間が時間ではなく、日の出から日付が変わるまで開いている。

そう、ルーツ先生に釘を刺された時は困ったが、俺は日の出から授業まで図書館に入り浸るつもりでいたのだ。


「はぁ……アル、お前変わってるなぁ」


 俺の話を聞いた三人からは、呆れるようなため息が漏れたのだった。

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