十三 ギルベッド・バーバリーはアイツに似ています。
「くそぉ、見せつけるなよ。アル!」
ミラと手を繋ぎ寮へと向かう俺と隣に並ぶマヤとの間に割り込んで、ギルが俺の首に腕を絡ませる。
笑うと白い歯がキラリと光るギル。
背丈もあり、触れるとわかるが決して痩せている訳ではなく筋肉質の体。
茶髪だが短髪の爽やかな好青年。
それがギルベッド・バーバリー。
俺の元々いた世界だと、勉強もスポーツもこなす爽やかなイケメンに当たる。
これでお金でも持っていれば、まぁモテモテだろうな。
男女分け隔てなく好かれるタイプ。ギルベッド・バーバリーを見る度に俺は複雑な感情に胸が苦しくなる。
あまりにも似ているのだ。
前々世で俺を裏切ったアイツと。
いや、俺は何を考えているのだ。アイツとギルは別人だ。似たような人、全てが裏切るとは限らない。
俺は頭に浮かんだアイツの顔を消すように頭を振る。
「くそぉ、黙ってないで何か言えよ、アル!」
俺のこめかみを拳でグリグリと押し付けてくる。痛くはないが鬱陶しい。
ふと、横目で隣のミラを見るとこちらを見る事なく、少し顔を伏せて恥ずかしそうに頬が薄紅色に染まっていた。
エントランスを抜けて、一度校舎を出ると寮である凹型の建物へと向かう。
寮の出入口の先には食堂があり、ここは男女共通のようだ。
左の高い建物の前には男性教諭が、右側の建物の前には女性教諭が見張るように立っていた。
食堂の前には、長いテーブルが設置されており、ここで受付をするようだ。
受付前には二列に別れて既に他の生徒が並んでいた。
「どうやら男女別れて受け付けるみたいだな」
俺の首根っこに腕を絡ませながら引きずるように俺を列の最後に連れていくギル。
ミラとマヤはもう一つの列に並ぶ。
「アルフレッド・ルーデンスですね。三◯一があなたの部屋になります」
在校生だろうか俺より少し年上の女子生徒が受付をしており鍵を手渡される。
ギルも受付を済ますとギルの手に持つ鍵には三◯二と刻まれていた。
「アルと隣かぁ」
散々俺に絡んできたギルが、わざとらしく嫌そうな顔をする。
「嫌なら変えてもらえよ。今なら間に合うだろ?」
俺もわざとらしく嫌そうな顔をして、お返しをしてやった。
俺達はミラ達と別れて男子寮に向かうと寮前に立っていた男性教諭から簡単な説明を受ける。
一つ。外出は自由だが門限は夜十時まで。外出の際には行き先を事務に伝える。
一つ。食堂は朝六時、昼十二時、夜七時から各二時間の間に自由に食べれる。
一つ。女子寮に行かない
説明を受けた俺とギルは、すぐに三階の自室へと向かう。まずは荷物をほどかなければ。
「じゃあ、後で迎えにいくわ」
ギルがそう言うと部屋に入っていった。どうやらいつの間にか一緒に食堂に行く事がギルの中では決まっていたらしい。
俺は部屋に入ったあと、少し心が締め付けられる。
自分勝手であるが悪意がないギルの言動に。
ますます、アイツに似ているのだ。
荷をほどき、小さな本棚には入りきらない本を小さな丸テーブルに積み重ねると俺はごろんとベッドに横になる。
目の前に思い浮かぶ二度と見たくない顔。俺が早見誠一だった頃の親友。
名前は新田勇輝。俺と勇輝、そして俺の妻は大学で出逢った。
勇輝は当時からモテており、勇輝と出会った頃には付き合っていた妻が取られるのではないかと一抹の不安も抱いていたが、勇輝は気さくで親しみやすい。
そんな不安もいつの間にかなくなっていた。
「どうして裏切ったんだ。そして二人は一体いつから……」
俺は両手で顔を塞ぐと、脳裏に娘の顔が浮かぶ。もしかしたら、娘の本当の父親は……。そんな信じられない考えにゾッとして身が震える。
「……うぷっ!」
胸の奥からこみ上げてくる気持ちの悪さに、俺はトイレに駆け込むと、盛大に嘔吐するのだった。




