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十二 このクラスには要注意人物が二人です

 マイシロ・ユージン。非常に残念な人物のようだ。せっかく俺が入学式にお膳立てしてやったのに、立候補しないで文句だけ。

相手にするのも馬鹿馬鹿しくなってくる。


 俺は無視を決め込み、先生へとバトンを渡すと自分の席に着席する。

ルーツ先生は再び教壇へ立つと、一つ咳払いをする。


「初めに言っておくべきだったな。学校自体はどうか知らないが、俺は身分など気にしない。ここでは、お前達は俺の生徒だ。それ以上、それ以下ではない」


 どうやらマイシロを牽制する意味なのだろう。ルーツ先生はずっとマイシロに向かって話をしているようだった。


「聞いているのか、マイシロ。お前のことだ」


 ルーツ先生から直接名指しされて不貞腐れたマイシロは返事一つしない。

つかつかと靴音を立てて、マイシロのすぐ横に向かったルーツ先生は、マイシロが余所見して先生に気づく前に頭上に拳骨を突き刺す。


 かなり鈍い音がする。強烈な一撃だったなと、俺はマイシロに目を向けるとルーツ先生を睨み付けた。

しかし、効果無さそうなのはマイシロくらいで、他の生徒はスッカリ怯えている。

問答無用の暴力教師。

元々同じように教壇に立っていた人間として、あれは良くない。


 再び教壇へ向かうルーツ先生の背中を射殺すような視線を突き刺すマイシロ。

怒りの矛先は、俺から完全にルーツ先生へと替わっていた。

もしかしてこれが狙いだったのだろうか。だとしたら、ルーツ先生は優秀で生徒想いとも取れる。


「これから何度も言うことになるだろうが、学校は勉強だけではなく集団内で輪を乱さないことも覚えるのだ」


 また、つかつかと靴音を立てて向かうは、俺の席の横。

頭上から降り注ぐ痛みに、歯を食い縛って耐える。

どうして、俺なのだ。


「先生!! アルくんに何するのですか!?」


 訳が分からない俺の代わりにミラが立ち上がり、先生に楯突く。


「ミラージュ座りなさい」

「先生、でも……!!」

「いいから、座れ」


 俺はミラに目配せして座るようにジェスチャーをする。このままだとミラにまで被害が及ぶ。

納得いかないミラは、中々座ろうとしない。

しばらくミラとルーツ先生の睨み合いが続いたが、ほんのタッチの差でミラが座ってくれた。


「さてと……アルフレッド、何故叩かれたかわかるか?」


 マイシロが俺を見てニヤニヤ笑っているのが気に食わないが、それよりもルーツ先生の問いだ。

俺には全く心当たりがない。


「……わかりません」


 俺にはこれしか言い様がなかった。ルーツ先生は教壇に戻ると俺だけに向けて話かけてくる。


「アルフレッド。お前のことは聞いている。この初等科では文字を覚えたり計算を覚えたり歴史を学んだりする。アルフレッド……お前……サボって図書館に通いつめるつもりだろ?」


 ビクッと体が思わず動いてしまう。ルーツ先生にはバレバレだったようだ。


「この二年、お前にとっては退屈な物だろう。しかし、学校で学ぶことは他にもある。いいか、先に釘刺しておくぞ……サボるなよ、アルフレッド」


 クスクスとクラスの一部から笑いが起きる。特にギルは腹から大声で笑っており、ミラも少し膨れていたが、余程困った顔をした俺がおかしかったのか、プッと吹き出していた。


 一部のクラスメイトからは俺に対して不満なようだが、概ね他の生徒とは上手くやっていけそうで安心した。


「それでは、今日は解散とする。寮に入ると者は寮前で手続きをするようにな」


 ルーツ先生は、それだけ言うとそそくさと教室を後にする。

このクラスの要注意人物、ルーツ先生にとってそれは一人はマイシロ。そしてもう一人は、どうやら俺のようだ。


 先生が出ていくと同時に荷物をまとめ俺の元へミラとマヤがやってくる。

俺も荷物をまとめないと。


「よう! アル、一緒に寮に行こうぜ」


 商人や一般人のグループのリーダー的存在だったギルも、俺の元にやって来た。

ミラもマヤも嫌な顔一つしないので、俺は快く了承する。


「あいつらは、無視しとけよ」


 ギルは親指で後方を指しながら小声で俺に話す。ギルの指の先にはマイシロとその取り巻きが。


「忠告助かるよ。それにしてもギルはいいのか? 俺達と居て」

「ああ、寮に入るのは俺くらいなんだよ。俺の家、遠くてさ。正直アルが居てくれて助かる」


 ギルは気安く俺の肩を抱く。馴れ馴れしいのは得意ではないが、ギルに対しては悪い気はしない。

ただ、ギルの視線がチラチラとミラを見るのだ。

俺はわざとギルの目の前でミラと手を繋ぎ、寮へと向かうのだった。

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