十一 クラスメイトの中に残念な人がいます
入学式も終わり、俺はミラ達と共に未だ泣き止まないサーシャの元へ向かう。
「や゛あ゛あ゛あ゛ザージャもお゛お゛ぉぉ」
俺は泣き止まないサーシャを抱き上げると、背中をさすり休みの日には帰るからと、何度も慰める。
いつもなら、これで素直に聞くサーシャも長期間離れることが分かるのか、泣き止まない。
結局、馬車に乗り込んでもサーシャは泣いており、母ナナリーに抱き抱えられながら馬車は出発したのだった。
「お嬢様、アル。クラス名簿見てきました。アタイもお嬢様もアルも同じようクラスです」
俺達が両親を見送っていた間に張り出されたクラス表を、マヤは先に見て教えてくれた。
「あれ、マヤ。文字読めるのか?」
確かに識字率が悪いとはいえ、マヤも自分の名前は分かるとは思う。ミラの名前も、前もって教えてくれたのだろう。
しかし、俺の名前まで覚えていたとは。
「いずれ、お仕えする人ですから……」
なるほどな、確かに俺とミラは許嫁同士。いずれは、マヤもウチに来ることになる。
俺達三人は、仲良く同じ教室へと向かった。
校舎の二階にある初等一組の教室へと到着する。既に教室内には生徒がいるらしく、騒がしい。
スライド式の扉を開き俺達が中に入ると、騒がしかった生徒達がピタリと動きを止め俺達を注視する。
俺が教室で感じたのは、既に幾つかのグループが出来ていたこと。
それ以外特に気にすることなく俺達は、一度自分の席に座るとミラとマヤはすぐに俺の席へと集まっかてきた。
「これで全部でしょうか……アルくん」
生徒数は二十人ほど。多いか少ないかは分からないが。
俺とミラ達が雑談していると、二つの視線が気になりだした。
一つは、一般人や商人出身の子達のグループだろう。この中のリーダー的な男の子がこちらをチラチラと見ていた。
もう一つは、恐らく俺より上級貴族出身だな。こちらは堂々と冷ややかな目で見てきていた。
ガラッと扉の開く音がして、若い男性が入ってくる。各自各々の席へと戻ると、若い男性が教壇に立つ。
「俺が君たちの担任のルーツだ。早速で悪いがアルフレッド。クラス長をしてくれ」
いきなり名前を呼ばれて、思わず「はっ?」と聞き返してしまった。入学式に続きいきなりの指名。
俺が何かしたのだろうか。
ついてないなと、思いつつ前に行き教壇に立つ。さて、何をすれば良いのだろうか。
俺はルーツ先生の方を向くと「自己紹介すれば」と簡単に言ってくる。
「何故かクラス長に選ばれたアルフレッドです。呼び方はアルで構いません。そちらの窓際の席から順番に自己紹介をしてください。内容は……名前と一言で良いです」
窓際の先頭の席の女子生徒から自己紹介が始まる。
「アタイはマヤ・ササリーです。えっと……一言……お嬢様に頑張って尽くします!!」
マヤの番になり、自己紹介をすると吹き出して笑う者もいれば失笑する者も。
「ミラージュ・ローシーです。マヤの言うお嬢様で、それと……アルの婚約者です」
俺は思わず教卓をひっくり返しそうになる。いきなりのカミングアウト。いや、公表しているから構わないのだが、複数の男子生徒から鋭い視線が俺に刺さる。
それも仕方あるまい。俺が許嫁でなくても一目惚れしてしまう可能性が高い。
「俺はギルベット・バーバリー。ギルでいい。一言……そうだな……アル、こんな可愛い婚約者がいて羨ましいから一回殴らせろ」
一般人や商人グループのリーダーの男子生徒ギルが、クラス中の笑いをかっさらう。
「一回だけな、ギル。その代わりおれ──僕もやり返すから」
ギルは背も高く、がっしりとした体格をしており、喧嘩しても腕力で勝てそうにないのだが、ミラの前ってことで格好つけてしまった。
最後に残ったのは、上級貴族グループの中で俺に冷ややかな視線を送ってきた男子生徒。
「オレ様は、ユージン侯爵家三男のマイシロ・ユージン様だ。一言? たかだか子爵家が何故、クラス長を指名するのか、甚だ疑問だな。新入生の代表もそうだし」
「だったら、さっき代表を交代してくれって頼んだ時出ろよ」
クラスメイトの中に残念な人がいるとは。教室内は、全体的に白けた空気に一気に変わった。




