九 アドミラージュ学園に入学です
街道整備の計画書を俺は完成させて、伯爵に提出をする。
計画書の内容は以下の通り。
一つ。同じ長さの縄を使い、街道を四区画に分ける。
一つ。六人一組で四組。お互いを競わせて速く終えた順に特別手当てを与える。
一つ。合格かどうかは伯爵自ら行ってください。
一つ。区画の境界に不備があった場合、速く終えた組に減点を。
一つ。最大期日二十日とする。終わらなければ、厳罰も。
一つ。雑草、樹木の伐採、石の撤去、整地状況、完了までの速度を五段階で評価。
「ふむ……お互いを競わせるか……」
伯爵は、俺に礼を述べたあと、すぐに部下へと指示を出す。俺は、これから忙しくなる伯爵の邪魔になると思い、一礼した後伯爵の書斎の扉のノブに手をかけた。
「アル、待ちなさい」
呼び止められて振り向いた俺に、何か欲しい物はないのかと伯爵は聞いてくる。
急に欲しい物と聞かれても困るのだが、一つだけ頭に浮かんだ物があった。
それは、王立図書館の閲覧許可。
基本的に誰もが閲覧は出来るのだが、一回に小銅貨一枚かかる。
塵も積もればなんとやらで、恐らく毎日通うと思われ両親への負担となってしまう。
許可証があれば、タダで閲覧出来るのだ。
伯爵としては、物足りないらしく困った顔をするが、俺がしつこくお願いし許可証を頂いたあと、俺は帰宅しのだった。
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入学前日。俺は、届いた制服に身を包む準備をしていた。
普段はジャージのような作業着がメインの俺にとって、制服や貴族服はとても窮屈に感じてしまう。顎の付近までの詰襟のボタンに、更にタイを締めるのだ。普段から貴族服の父に苦しくないのか聞いてみたいものだ。
俺はワインレッドのズボンを履いてワインレッドのブレザーに袖を通すと、1階のリビングへ御披露目のために向かう。
リビングに入るや否やサーシャが俺に抱きついて「にーたま、かっこいいー」と褒めてくれる。
両親も同じく褒めてくれるのだが、使用人が用意した姿見で自分を確認してみた。
俺自身の評価は並み。父親譲りの銀色の髪をいじりながら、自分の顔をよく見る。
(モブ顔だなぁ)
良くも悪くもない典型的なモブ顔に、俺は外見で評価される世界に転生しなくて良かったと、つくづく思う。
かわいい許嫁がいるし、将来は安泰かな。
翌日の朝、一台の馬車が俺の屋敷の前に停まる。中から現れたのはミシル男爵と、俺と同じワインレッドの制服を着たミラ、そしてマヤも。
「マヤ、それは?」
「旦那様がアタイも学校に行って良いって言ってくださって……」
ミシル男爵も粋なことをする。娘の付き添い的な目的もあるのだろうが、マヤはタダの使用人だ。
学校へ入れるということは、マヤの身元保証人になったということ。
中々、出来る事ではない。
「ミラ、制服良く似合っているよ。マヤもね」
俺の近くに来たミラが赤く頬を染めて俺の袖を摘まむと、恥ずかしそうに「アルくんも、似合っています」と囁く。
ありがとうと礼を言い、俺はミラの頭を軽く撫でてあげた。
「出発するぞ。皆、乗りなさい」
俺は馬車の側に立ち、手を差し出して、まずはミラをエスコートをする。
ミラが馬車に乗り込むと突っ立っていたマヤへと手を差しのべる。
「あ、アタイはいいです!」
「いいから、早く」
俺は無理矢理マヤの手を取り馬車へとエスコートした。恥ずかしそうな困ったような顔をするマヤ。
最後にサーシャを抱えて俺も馬車に乗り込んだ。
御者が馬へ鞭を入れるとガラガラと音を立てて出発する。
俺の両隣に座るミラとサーシャ、正面にはマヤが一人座っていた。
出発直後に眠そうなサーシャを俺の太ももを枕にして寝かしつけると、俺達三人は雑談を続ける。
リズミカルな馬車の揺れが眠気を誘う。
馬車から覗く外の景色は、日が落ちて暗がりになっていた。
その頃には、サーシャだけでなくミラも俺の肩にもたれて眠気に負けており、俺とマヤは、二人を起こさない様に雑談で気を紛らわせる。
「それで、アル様は……」
「さっきから何度も言うけど、様は、要らないって。アルでいい。もちろん大人がいる前では、別に構わないけど、これからは同じ学生だ。様をつけるな」
「でも……」
マヤは、困った顔をする。ついつい俺を様付けで呼ぶマヤに何度も訂正を促すが中々直りそうもない。
貴族としては、俺の方が変なのだろうがマヤはミラの友達だ。
マヤがようやく「アル」と呼んでくれた時には、既に一晩明けていた。
「おはよう、ミラ、サーシャ」
二人は朝日に瞼を刺激されて目を覚ます。ちょっと眠い、暇潰しに持ってきた本も結局読めなかったし。
「見えてきた、王都だ」
馬車の窓からうねった道の先に、白い外壁が見え始めた。ここからはまだ遠くてわからないのだが、外壁を更に取り囲むように外堀があり、裏門、正門のどちらからかしか入れないのだ。
王都が見えてきた頃から一時間ほどで、外堀を渡る橋を馬車が進む。
門番に許可をもらうと、重く大きな門扉がギギギ……と、音を立てながら開いて行くのだった。




