ゲームキャラクターの朝は早い
目元に強烈な眩しさを感じ、まどろみの中にいた意識が呼び覚まされた。
思わず目を開けると、閉じられていたはずのカーテンが全開になっており、そこからお日様が元気に姿を見せていた。
まだ少しぼんやりした視界で時計のような物が見える所に視線を向ける。しばらくして鮮明に視界が針の位置を捉える。まだ6時前だった。
「まだ寝れるじゃん……」
いつもは7時半あたりに起きている心也は、二度寝をするためもう一度目を瞑った。
その途端、床でうつ伏せになっていた心也の背中に強烈な痛みが起きる。
「ぐへっ!」
なにかが乗せられた。そんな感触だ。
二度寝を妨げられたことに苛つきながら首を回し、その正体を見る。
そこには心也の背中を踏みつけるキアラがいた。
「あらまだ寝てたの? 気が付かなかったわ。邪魔だからはやく起きてよね」
「あのなぁ……まだ6時ですよ……。健全な人はまだ寝てる時間ですよ」
「なに言ってるのよ。早起きは三文の得って言ってとても良いことなのよ。いいからはやく起きて!」
そう言い、キアラは心也の背中に乗せた足の指先をぐりぐりとした。
「はぁ……もうわかったから足をどけてください」
すっかり眠気も覚めてしまった心也はしぶしぶ体を起こす。
そして心也はため息を一つつき、台所の方へ向かっていくキアラを見つめた。
やっぱりいる。
夢オチでした理論は跡形もなく消滅した。
朝になってもキアラは間違いなく存在し、そしてあろうごとか6時前に叩き起こすという拷問のような仕打ちを仕掛けてきた。
僕は悪魔かなんかに憑りつかれているのだろうか。
ぼーっとしていると、鼻が嗅ぎ覚えのない匂いをキャッチした。
なんとなく香ばしい匂いだ。
発生元を探ってみると、どうやら台所からのようだ。
そういえば、台所でキアラがなにやら作業をしていた気がする。
「はい、出来たからはやく食べちゃって!」
どうやら朝ごはんを作ってくれたらしい。その時、心也の腹部がぐーという鳴き声を上げた。
***
テーブルを見てみると、白米と奇麗な形をしたベーコンエッグが出来ていた。
おぉ……すごい。意外と家庭的なんだな。
「勝手に食材は使わせてもらったわよ」
「これ作ってくれたんですか?」
家族以外の人にご飯を作ってもらうなんて初めての経験だった。
「私以外に誰が作るのよ。勝手にご飯ができるわけないでしょ」
「そうですよね。ありがとうございます」
この性格さえなければなぁと思いながらとりあえず感謝の意を述べた。
すると、目の前に座るキアラは手を合わせ、「いただきます」と言い朝ごはんを口に運び始めた。
心也も箸をもち、奇麗な形をしたベーコンエッグを食べようとすると、キアラは心也をキッと睨んだ。
「コラ、いただきますでしょ。食べ物に感謝しないと」
続けてあと私にもねと呟いた。
あなたは俺のお母さんかなにかなんですか? いや今どき親でもこんなこと言わないぞ。
つくづくめんどくさいなと思いながらも渋々小さい声で「いただきます」と言いベーコンエッグを口に運んだ。
あぁ……くそうまいぜちくしょう。
***
7時40分になり、学校へ行くため玄関を出る。
すると、後をひょこひょことキアラがついてくる。
「え? もしかして一緒に行くんですか?」
キアラがきょとんとした顔で見つめてくる。
「当たり前じゃない。なんでよ」
「え、いや。一緒に登校してるの見られるとアレじゃないですか」
「アレってなによ」
「いや、アレはアレですよ。まずいじゃないですか」
「もー意味わかんない。いいからはやく行くわよ」
そう言い、キアラは心也の背中を無理やり押して歩いた。
***
隣を歩くキアラは心也よりも少し背が低いくらいだった。
心也の身長は173cmなので、キアラはちょっと低い165cm辺りと推測できた。
それでも高校生2年生の女性の平均身長からしたら相当高い部類になるだろう。
そして、ルビーのように赤く輝く髪には、ゲームの中でも見た猫の顔が象られたヘアピンが今日もつけられていた。
「マスターは朝食いつもどんなの食べてるの?」
学校まであと半分くらいまでという所でキアラは碧眼に彩られた目を心也に向けて問いかけた。
「いつも朝は食べないですかね。ぎりぎりまで寝てるんで」
今日だって、何もなければあと1時間は眠れていたはずだった。
「だめじゃない。朝はちゃんと食べないとエネルギー出ないのよ?」
「すみません。気を付けます」
本当にお母さん気質なんだろうな、この人は。めんどくさい。
そんなの俺の勝手でしょうが。
そんな尋問のような会話を続けていると、しばらくして学校へ到着する。
心也たちの通う鳥中高校。通称トリ高はついこの開、開校40年目を迎えたばかりだ。
校舎には『祝・鳥中高校創立40周年』と書かれた垂れ幕が掲げられていた。
正門から中へと入ると、至る所から視線を感じた。
もちろんお目当ては、心也の隣にいる彼女であろう。
キアラは赤い髪というだけでも目立つのに、スタイルも抜群で、その顔立ちもテレビの中で活躍する女優にも匹敵するであろう美貌を兼ね備えているのだから。
それもそのはずだ。だってゲームのキャラクターだもん。そら美麗キャラになりますわ。
「あれ、転校生かな? めっちゃ可愛くない?」などという言葉が飛び交う中をそそくさと心也は駆け抜けた。
下駄箱の前まで来て、心也はため息をつく。
こんなのがこれからずっと続くのか?
「なによ急に走り出して。びっくりするじゃない」
あなたのせいでしょう……もう。
心也は不満を漏らしているキアラの声を無視して、下駄箱を開ける。
そして、下駄箱の中身を見るなり、また一つ大きなため息をついた。
またか……。心也は心の中で思った。
めんどくさいな。
「どうしたのー?」
心也の挙動を不穏に思ったのか、キアラが下駄箱の中身を覗いてきた。
「あら、上履きないじゃない。どうしたの?」
「忘れた」
心也はそう言って、靴下を履いただけの素足のまま校内へと向かった。
「あなた、毎日上履き持ち帰ってるわけ?」
キアラは上履きに履き替え、とことことついてくる。
教室へと向かう心也の足取りは重かった。
これだから学校は嫌なんだ。




