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届かぬ祈り

「ずっと無視するなんてひどいじゃないの、シンヤ」


彼女は、鋭い視線をこちらに向けながら言った。

時は放課後。部活動には参加していない心也は、終業のチャイムと共にまっすぐ帰ることができる。

この日も例外ではなく、特に用のない心也はまっすぐに下校していた。

学校という、厄介な集団生活を強いられるだけの忌々しい時間から解放されるこの時間が、心也は一番好きだった。

そして、今日も一人で静かに、今日の夜見るアニメを脳内で選定しちゃったりしながら、学校の中で一番楽しみな時間を満喫するはずであった。


「ねぇそれでも私のマスターなの?ねぇってばー」


だんまりを続ける心也に嫌気がさしたのか、耳に聞こえる声は先ほどよりも強い口調に聞こえた。

もちろん、その声の主は彼女だ。

心也の隣にはあの転校生「シャルロット・キアラ」が並んで歩いていた。


なぜこうなったのか。

トイレから戻り、その後の授業が終わったあと、キアラからのアクションがあった。

「ねぇシンヤ?自己紹介してよ」

後ろの席から、心也の背中をつつき彼女は言ってきた。

心也は一瞬ドキりとするが、特に返事もせず、また席を立ってトイレへと向かった。


「もう、なんで無視するのよ!帰りは一緒に帰らないとだめだからね!」


背中から声がする。なんでいきなりこんな話しかけられないといけないのか。

意味がわからない。もうめんどくさいことにならないようにと、心也はトイレの個室で祈り続けた。


その祈りが通じたのか、それ以降はキアラから話しかけてくることはなくなった。

やっぱり神様はいたんだ。……と、思ったのはその時だけだった。


放課後になり、そそくさと帰り支度をはじめた心也の元にキアラが寄ってきた。


「一緒に帰るのよ!」


周りからは好奇とも、怪訝ともとれる視線が集まった。

わけがわからないよ……。



***



「俺のことを知っているんですか?」

あまり関わりたくなかったが、ここまでくると限界がある。

意を決して質問してみた。

キアラはやっと喋ったーと小さく呟いた。

「なにいってるのよ。あなたは私のマスターじゃない」

なにいってるのよ、はそっちだろ。

「だからそのマスターってのはなんなんですか?」


「マスターはマスターよ。シンヤが私のマスターなんじゃない」

なんじゃないと言われても……。心也は頭をカリカリと掻いた。

「なんで急にあなたのマスターに俺はなってるんですか?」

そう言うと、キアラは吊り上がった目を真っすぐこちらに向けた。そして一呼吸。


「あなたが私を召喚したんじゃない」


「は?召喚?」

「だいたいなんで敬語なのよ」

「いやいやそんなことはどうでもよくて、召喚した?俺が?あなたを?」

「そうよ?昨日の夜したじゃないの?忘れないでよ。

あなたが私を召喚した。だからあなたは私のマスターになったのよ」

のよって言われましても……。ん?昨日?

そこでピンとくる。体内に一瞬ビリっと電流が走ったような感覚。

まさかあの"ガチャ"のことを言っている?


そこではたと気づく。

いつの間にか、家の前に到着していた。

話に夢中になってしまって全く気付かなかった。心也はキアラのほうを見る。

考えるのはあとだ。家の中でゆっくり考えよう。そう思い心也はキアラへ別れの言葉を告げた。

「あ、俺の家ここなんで。じゃあまた」

キアラは黙ってこちらを見つめている。心也はそそくさと家の方へと振り返り歩みを進めた。

やっぱり昨日のゲームで当てたあの「シャルロット・キアラ」があの子なんだ……。


やばいなと思いながら、玄関を開け、家の中に入る。

靴を脱ぎ捨て、部屋にあるソファに腰かけ一息つく。

ふーっ……と大きく息を吐いたその時だった。


「なにもない部屋ー。つまんないの」

「うおっ!」


瞬間反射的に横を見ると、なぜかさっき別れたはずのキアラが同じソファに腰かけていた。


「なにやってるの!いやなにやってんですか!」

「だからなんで敬語なのよ」と言い、キアラは続ける。

「あなたは私のマスターなんだから、一緒に住むに決まってるでしょ?」

キアラはさも当たり前のことを言っているかのように話す。

「それともなんなの?私に外で野宿でもしてろっていうつもりなの?」

「は?家は?家族は?」

「ないわよ」

いやいや……。そんなきっぱり言われても……。

え、まじで……?ここで暮らすの?この子。


言葉がなにも出ないとはこのことを言うんだな。


いやいやいやいや。本当に勘弁してください。

やっぱり神様はいなかったんだ。


キアラを見てみると、ふかふかーと言いながらソファーを弾ませていた。

なにがなんだか混乱してきた。考えるのもめんどくさい。

なので、とりあえず俺の口から発することがないはずであった質問を投げかけてみた。


「あなたはゲームの世界から来たんですか?」



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