始まりはいつも偶然に
「なにか面白いゲームはないかねぇ」
濱辺心也は、自宅にある自室でベッドの上で寝転がりながらスマホを片手に呟いた。
今までやっていたゲーム「モンスターブレイカーズ」(通称モンブレ)は、近年、インフレ化が著しく進み、正直もうやっていく気力がなかった。
インフレ化。簡単に言うと新しく追加されるキャラクターが毎回強力すぎる能力を持っているため、どんだけキャラクターを取得しても、また次の月には更に強いモンスターが追加される。それの繰り返しだ。
もう毎回キャラクターを揃えるのもかなりの労力を使うし、かといって強いモンスターが追加されれば、その能力に応じた高難易度クエストも追加されるわけで。
毎回追加キャラクターを取得できなければ、それらのクエストのクリアはとても険しいものとなる。
だから、定期的に追加されるキャラクターをなんとしても誰もが手に入れたくなる訳だ。
そんなことで、俺がサービス開始当初から愛用している「アイリス」は、次々と追加される強力キャラクターの影響により、なんともいえない貧相なキャラクターとなり果ててしまった。
このゲームに見切りをつけたのが、今先程であった。
アイリスには悪いが、ここでさよならだ。俺は次の出会いを求めて旅立つよ。
心也は心の中でアイリスに感動の別れを告げながら、スマホに向けて指を滑らす。
「おっ」
スマホに触れていた心也の手が止まる。
「ホワイトプロジェクト……?」
画面に表示されているゲームの紹介ページには、「ホワイトプロジェクト」と書かれている。
内容はアクションRPGのようだ。ゲーム内で自分の分身となるアバターを動かして、剣や弓のような武器を駆使して敵を倒していくよくあるアクションゲームだ。
紹介ページのトップページには、赤い髪をして鎧を纏った少女がゴブリンのような敵キャラクターを長い槍で攻撃している画面が掲載されている。
「なるほどな……」
一通り紹介ページを眺めたあとで、心也は紹介ページ上部にあるインストールボタンを指でタップした。
インストールは3分ほどで終わり、心也のスマホに「ホワイトプロジェクト」がインストールされた。
新しくできた白い猫のようなアイコンをタップすると、ゲームが起動する。
少し待つと、大きな草原のような背景に、真ん中には大きな文字で「ホワイトプロジェクト」と書かれた画面が
表示された。
画面をタップすると、また画面が切り替わり、チュートリアルをはじめることを促す画面が表示され、指示に従い、ボタンをタップしていく。
チュートリアルはゲームの基礎となる部分を、ガイド役なるキャラクターが親切に教えてくれた。
キャラクターの動かし方や攻撃の仕方などから、武器の強化の方法や攻撃のスキル方法まで教えてくれた。
ある程度チュートリアルを終えていくと、最後にガチャの画面に移った。
ガチャでは、ゲーム内で動かすことのできるキャラクターを取得できる。ここで強いキャラクターが手に入れば、優位に
ゲームを進めることができるのだ。
画面で喋っているガイド役のキャラクターによると初回はアイテムを使用せずにガチャを引くことができるらしい。
尚、二回目以降は一回引くたびに現金五百円相当のアイテムが必要とのことだ。
なにはともあれ、心也はガチャ画面で指示されたボタンをタップした。
するとまた画面が切り替わり、色鮮やかな画面に切り替わる。ガチャをするために必要とされる水晶玉のようなものが画面に移り、
唐突に動いたかと思えば、大きな木のようなもの目掛けて飛んで行った。
すると木にぶつかった水晶玉は割れ、中からキャラクターが飛び出してきた。
このキャラクターが、今回当てたキャラクターなのだろう。
なかなか乱暴だなぁと思いながら、現れたキャラクターを見てみると、赤い長髪が特徴的な槍を持ったキャラクターがそこにはいた。
ん?と一瞬思い画面を更にタップすると、キャラクターの詳細画面に移る。
当てたキャラクターの詳細な情報が見れるらしきその画面では、あらゆる情報を見ることができた。
名前の項目を見てみると「シャルロット・キアラ」と書かれている。そこで再びキャラクターの外見に視線を移すと、
あっと声が漏れる。先ほど、このアプリのゲーム紹介画面のトップページで槍を振るっていたあのキャラクターではないか。
ランクの項目を見てみると、「SS」と書かれている。どうやらこれがゲーム内におけるこのキャラクターのランクなのだろう。
SSと書かれている右に小さくランクの順序が書かれている。そこにはC~SSと書かれており、最低ランクがCで、最高ランクがSSだと確認できた。
どうやら最高ランクのキャラクターを当ててしまったようだ。これは相当当たりじゃないか?
詳細画面を閉じて、取得したキャラクター一覧のページに行くと、先ほど取得した「シャルロット・キアラ」がいた。
キアラは槍を持ち、凛々しい顔で表示されている。今気づいたが髪には猫のヘアピンがつけられていた。
キアラの強さもよくわからないため、喜ぶべきなのかと迷っていると、その瞬間視界が眩しい光で照らされたように、突然ホワイトアウトした。
一瞬で視界は戻った。今の不思議な現象に不信感を覚えながら、スマホに画面を戻すと、またもや不思議な現象が起きていた。
キャラクター一覧ページに先程まで確かにいた「シャルロット・キアラ」がいなくなっていたのだ。
いやいるにはいるのだが、いないのだ。
名前は確かにキアラの名前が表示されているのだが、キャラクターのアバターがいなかった。
赤い長髪で吊り上がった目が特徴的なあの姿だけが一切表示されていなかった。
「なんだ?バグか?」
まぁよくあることだ。心也はそっとアプリを終了して、スマホを置いた。
先程アプリの紹介ページでちらっと見たインストールユーザ数を思い出す。そこには悲しいくらい少数の数字が表示されていた。
まぁそんなバグがあるゲームなんかユーザが増えるわけないわな。
心也は電気を消して、再びベッドに横たわり目を瞑り心の中で呟いた。
世に出すゲームならデバッグはちゃんとしとけよな。