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二学期、君が死なないように  作者: 牧田沙有狸


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8.君の先生

 中学生の試験勉強に付き合うことになった。俺が図書館に誘うから学校に行かないと思われては困るので、休みの日やバイトのない夕方限定だ。

 しかし、歴史を教えて欲しいと言われたが、日本史など俺が教えることなどあるのか。

 出来事を面白おかしく印象的に話せるほど歴史に精通してないし、ただの暗記なら多分、おそらく、楓の方がよくできる。結局、問題集のマル付け係のような存在で、俺は隣に座っていた。

 まあ、監視している人がいる方が集中するというなら、役に立っているのだろうと思い、俺はただ横にいて暇なので日本史の教科書をパラパラみていた。

 中学の日本史、ハッキリ言って全然覚えてない。絵本同様、この絵や写真はみたことあるという記憶はある。授業中、写真に落書きして遊んでいたという記憶。

 俺は楓の教科書に書き込み始めた。授業中、これに気づいた楓が笑いをこらえるのを想像して楽しくなってきた。

「奏田さんは、寝る前に絵本を読んでもらったことってありますか?」

 俺はもう見つかったと思って、びくりとして手を止めた。

「寝る前?」

 楓はこちらを見ないまま喋っていた。気づいていなかった。

「はい。寝かしつけの絵本読み聞かせ」

「多分あると思う。でも、絵本の内容って全然覚えてないんだよな。おそらく、宇宙人に連れ去られて記憶抜かれているんだ」

「羨ましい」

「そこ、笑う所なんだけど」

「あたしも、覚えてなければいいのに」

 楓は寂しそうな顔をした。俺のボケも、それをボケだったと解説するツッコミもスルーして、絵本に恨みでもあるかのように真面目に返した。

「寝付きが悪くて、布団に入ってからの一人ぼっちの時間、寂しかった」

「読んでって言わなかったの?」

「寝る前に絵本読み聞かせとか、本気でドラマやアニメの中だけの話だと思ってたから」

「覚えてないだけってことはないの?」

「ないです。親も読んでないって言ってましたから。愛加さんが言ってたように、乳幼児健診の時に絵本もらってたみたいですけど、正直全然いい話に思えなくて。三歳ぐらいの記憶では、その絵本は姉が自分で名前を書いて最初から姉の物になってました。多分姉の時代は、そのプレゼントなかったんだと思います。小学校に入って同じクラスの子が同じ本持ってて、初めて本当はあたしのだったって知りました」

 それは痛い。字を覚えたての姉にすぐに取り上げられて、名前を書かれてしまったってことだろう。

「そっか。俺は一人っ子だからな」

 兄弟姉妹、どちらか理不尽な思いをしている人に、一人っ子なりの悲しみを語ったところで何も参考にならない。逆も大いにあった。結局、互いがないものねだりという結論で終わるんだ。

 俺は何を言ってあげればいいか分からず、テキトウに相づちを打って落書きを続行した。

 坂本龍馬に長い棒を持たせる。

「ぷっ。何ですか、これ」

 楓にバレてしまった。

「自撮りしてる坂本龍馬」

「うまーい」

 予想外に楓は笑った。授業中こっそり気づけば面白いと思ったが、こんな反応してくれるなら今見られてよかったかもしれない。笑ってると、ただの中学生なのに。時折、何かをすごく恨んでいるような冷たい表情になると、こっちの心がえぐられるような気分になる。

 愛加の言うように絵本を読んでもらってないと自己肯定感ってやつが育まれていないのだろうか。愛加を責める気は微塵もないが、これから子供のために読もうと思う人には有益な情報だけど、読んでもらわずに育った人にとっては、絵本ごときで人格否定されてる気にもなれる酷い話だと思った。

 絵本を読んでもらった記憶はあいまいだけど、自己肯定感ってやつは俺だって、よく分からない。

 絵本によって育まれる自己肯定感は何歳まで可能なんだろうか。

 そっか・・・・・・

 楓にとって「推しの声優」みたいな、声が好かれている俺はひらめいた。

「俺が、絵本読んでやるよ」

「え?」

 楓はきょとんとしている。落ち着く声だと褒められただけで、読むのが上手いかは別だ。

 何言ってんだ、こいつ、子供扱いしやがって、って思われたかな。

「いまさら、いいか」

「奏田さん、あの、だったら、ブランコ押してください」

「なんで?」

「小さい頃、押してもらえなかったから」

 はあ。おすのはブランコか。

「ただ、押せばいいのか?」

「はい。でも、子供に見られたら恥ずかしいので、朝、早く」

「分かった、よーし。じゃあ、金曜日夜勤だから、終わった日の土曜の朝、行ってやるよ。駅とコンビの間の公園分かる?」

「はい!」

 なぜか、絵本読み聞かせの提案により、俺はブランコを押すことになった。


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