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二学期、君が死なないように  作者: 牧田沙有狸


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7.スーパームーン

 スマホに公衆電話と表示され、楓から初めて電話がかかってきた。

 その夜は、デカくてきれいな満月だった。スーパームーンっていうやつ。

 ついでに昨日は中秋の名月。名月が満月とは限らないらしい。


「あの、竹沢楓です」

「ああ、こんばんは。公衆電話から掛けてるの?」

「はい。あの、ちょっと憧れてて」

「憧れる? 何に」

「夏休みに再放送してた昔のドラマです。高校の先生と教え子の話で、公衆電話から先生に電話するの見て可愛いなって。スマホもケータイもみんな持ってなかった時代の話で、なんかいいなって思ったんです」

 ああ、やってた。90年代話題のドラマ。

 もう引退しちゃった女優がセーラー服着てて、可愛かった。

 俺、先生か。悪い気はしない。

「公衆電話、家の近くにあるの?」

「はい。5分くらいのところに。あと、昔、親戚のおじさんからもらったテレホンカードがあって、それも使ってみたくて」

 テレホンカード。確かに、俺も使ったことないかも。

 声が聞きたくなったらかけてと、俺は電話番号しか教えなかった。

 それは、もしかしたらLINEで嫌な思いしているかもという俺の想像で、スマホの電源をわざと切ってるかも知れないのに、俺と話したいがために見たくないものも見ることになったら嫌だなと思ったから。

 一方通行の都合のいい電話相談室が理想だ。俺のスマホに着信残して、返信を待ったりしないように、楓の方がいろんな手段を選べばいいと思った。

 テレホンカードで公衆電話からかけるのは、すべてにおいて丁度いい。

「そっか、近くても夜は道、気をつけろよ」

「はい。奏田さん、月がきれいですね」

 俺は月を見上げた。

 同じ月を見てここにいない楓と話をしている。

 最近、通話のためにスマホをほとんど使うことがないから、電話というものを改めてすごい道具だと思った。お互いに見ている月の美しさを声で伝える。

 それだけのことを、楓があまりにも無邪気に話しかけるので、俺はまたファンサービスみたいな感じで調子に乗ってきた。

「アイラブユー?」

「え? いや、そんなこと言ってません」

「夏目漱石は<アイラブユー>を<月がキレイですね>って訳したんだって」

「そういう意味ですか。へー。よく知ってますね」

「ツイッターに書いてる人いた。国語も英語も成績よくないんで、ただの雑学」

「そうですか。あの、じゃあ、奏田さん、歴史は得意ですか」

「歴史? 苦手ではなかったけど」

「もうすぐテストなんですよ。教えてください」

 先生か。

 中学の歴史ならなんとかなるか。

「いいよ。じゃあ今度、図書館で一緒に勉強しますか」

「やった!」

 ドラマの真似をしてるのか、すごく嬉しそうに楽しそうに話してくれてるように感じた。

 俺は先生だ。

 月がキレイな夜。

 すべてがいい方向に変わっていくかのような気がする。

愛加との待ち合わせ。駅前の街路樹の下、遠目で愛加の姿を確認したので、俺はやんわりと楓との電話を終わらせた。

「電話してたの?」

「うん、バイトの後輩」

「そう。ねえ、月がすごくキレイだよ」

「ほんとだ」

 俺は今気づいたみたいにデカい月を見上げた。

 俺にとって、楓は捨て犬みたいな存在。見つけちゃって放っておけない。

 こっそり飼っていることは、まだ誰にも秘密だ。



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